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AMを使うと良いビジネスモデルとは?

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸 樹脂製品メーカーで設計を14年、その後AMソフトウェア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、ShareLabを通じてAMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしています。

AMを使う3つのビジネスモデル

9月の声を聴くと、「あれ、今年もあと4か月…」と、なんとなくせわしない感じがしてくるのは私だけではないと思います。ものごころついてからもう50数回も繰り返しているのに、いまだに月日に追われているようでは情けないとも思いつつ、ひとつずつ目の前に取り組めることがあるのは、ありがたいことだとも思っています。

さて、ShareLabでも、最近は特に製品や応用だけではなく、ビジネスに関するニュースが増えているように思います。このコラムでも2回にわたり「AMでどうしたら儲かるのか」についてお伝えしました。AMの使い道は広いこともあり、それを使ったビジネスモデルも様々です。一方でなかなか新しいビジネスを見つけられないという声も良く聞きます。海外でも成功しているビジネスモデルもあれば、うまくいかなかったものもあります。また海外の成功モデルを日本にそのまま持ち込んでも、うまくいかないケースはみなさんもご存じかと思います。

それでも全くゼロから新しいビジネスモデルを考えるより、既存のモデルをヒントにする方が考えやすいのはないでしょうか。そこで乱暴ではありますが、既存のビジネスモデルを大きく3つに分類してみます。

・AM用ハードウエア、材料、ソフトウエアを売るビジネスモデル
言うまでもなく、歴史的にも最も早くから、長く続いているビジネスで、世界的にも多くの企業があり、未だに新規参入も盛んです。日本国内にも多くの企業があり、例として株式会社グーテンベルクのビジネスは先日シェアラボでもご紹介しました。

もちろん開発から販売、アフターサポート含め、だれでもすぐに参入成功できるものではなく、現状においては知的財産権の面からも、明らかな新規性、既存製品に対する優位性がこれまで以上に求められます。ハードルは低くありませんが、一方で日本国内より海外市場の需要と成長率は高く、日本の高い技術も求められていると思いますので、このビジネスモデルもまだ大きな参入成長余地はあります。

・AMで作ること、作るモノ自体を売るビジネスモデル

良く知られているのは、「3Dプリントサービス」に類するモデルで、国内でも多くの企業がサービスを提供していて、まだ需要が伸びる余地はある一方、市販装置と材料で3Dデータからプリントだけして納品するサービスは、既に海外の安いサービスとの競争も起きていて、差別化が難しくなってきているようです。一方、AM以外の主幹事業があり、その技術や人材をAMと連携させるサービスはうまくいくケースが見られます。もちろん加工製造の部分だけでなく、設計、品質管理、物流などの連携活用も含まれます。その他、例えばフィギュアや歯列矯正マウスピース、メガネフレームなど、AMで作ったモノ自体を売るビジネスも知られていますが、この分野のビジネスを始める、またはある規模まで大きくするには、ニッチな需要が対象になる、あるいはモノ、ヒト、お金と時間をある程度かけなければならない傾向があるようで、始めること自体も、短期に成長拡大させるのも易しくはないと見ています。

AMを使うと良いビジネスモデルとは?

・AMで作ること、作るモノを一部としたビジネスモデル

3つ目は、AMがビジネスモデルの一部分で使われ、でもそれが発想のきっかけだったり、不可欠な要素だったりするケースです。例えば最近では、小型ロケットや人工衛星の宇宙ビジネススタートアップ企業が国内外で多数あり、おそらくほぼすべての企業が研究開発や実部品製造にAMを使っていると言っても過言ではないと思います。またAMが無ければ開発スピード競争、製品性能とコストの差別化も難しい時代でしょう。

そのような大きなビジネスでなくても、例えば製造販売が終了している自動車部品のレストアパーツや内外装ドレスアップパーツを、カスタムメイドで製造販売するビジネスがあります。もちろん全てをAMで製造すべきものでもなく、条件により現存物から3Dスキャニングで形状データ作成、3D設計、3Dプリント後に塗装など含めたAM工程を加えることで、ビジネスが広がったり、いわゆる「デジタル在庫サービス」のような付加価値もビジネスに出来たりするケースもあります。

最近知った好例をご紹介しますと、株式会社 山一ハガネ(愛知県名古屋市)は1927年創業の歴史ある工具鋼、特殊鋼の素材加工販売の主業の他に、積極的に自社製品開発販売ビジネスも行われています。その主幹事業と別のビジネスとして2016年ごろからAM関連ビジネス開発に取り組まれ、市販装置による金属AM製造サービスや装置・ソフトウエア代理販売を始められましたが、多くの苦労を経験され、現在は自社での量産に適する樹脂3Dプリンターに加え、設計手法とツール、塗装技術と工場も自社で開発整備、運用されています。その成果を自社ウエブサイト内で以下のとおり公表されました。
お客様の「あったらいいな」をカタチに!-YAMAICHI FESTIVAL潜入レポート

ここで参考にすべき点は、主業のお客様からとらえた「製造の省人化、自動化、標準化」の需要に対し、「パターンオーダー」的なパーツフィーダーという製品を開発製造するビジネスモデルを創出される一部として、AM工程に必要な自社技術と人材を活かしたモデルということです。また前回のコラムでお伝えした「DwAM」を実践されている点で、パーツフィーダーの機能から製造組み立て性、カスタム性、継続改善性も考慮し、最適設計をされています。このように、基盤となる主業の盛衰を想定し、新しい技術と人材獲得に長期計画で投資と試行錯誤をされ、それを活かして新ビジネスにつなげていくのは、国内の多くの製造企業にも有効でしょう。一方、「3Dプリンターを買ってくればすぐ始められ、利益が出る」ものでもなく、また良いビジネスモデルや利益を得るにもそれなりの時間と継続が必要、という現実も知ることが出来る好例だと思います。

上記は一見時間も手間もお金もかかりそうなビジネスモデルに見えますが、分類した3つのビジネスモデルの中で、最もAM投資に対する利益を最も大きくできると考えています。またいわゆる「スモールスタート」や、うまくいったときの段階的拡張もしやすい傾向にあります。 株式会社山一ハガネで長くAM事業に携わられてきた、AM営業Sec.マネージャー 小林 祐太 様に直接うかがったところ、

これまで日本の製造産業構造の中でAMビジネスでは大変苦労はしてきましたが、その結果たどり着いた「あったらいいな」をカタチにする事業はお客様からも好評で、この先数年で自社製3Dプリンターも増設していく計画です

とのことでした。またビジネスがうまくいかなくても修正や、得たノウハウと人材は別のビジネスに活かしやすい、あるいは装置も汎用であれば、社内転用も売却も比較的しやすいという、投資リスクも低くできる製造法でもあると思います。

ShareLabニュースにもう一言

日本3Dプリンティング産業技術協会「第1回AMビジネス交流会」参加報告

まず参加させていただいて、多くの方と対面で交流が出来たことは良かったですし、懇親会含めAMのビジネスについていろいろな意見交換が出来ました。一方で「AMビジネス」と言ってもとても範囲が広く、なかなか全体として捉えたり、議論したりする難しさも感じました。ただ、イノベーションマネジメントシステム(IMS)の国際規格ISO56000シリーズについて知ることが出来たのは良かったです。イノベーションは独創的な発想や天才的な人が起こすものではなく、組織前提で継続的に行うものと捉え、その中でAMを使うと良いことは多いのではないかと思います。

ExtraBold社がタイ・バンコクで「Green Creative™ Innovations」を開催

ExtraBold社も正にイノベーションを組織で継続的に行われている企業のひとつだと思います。AM装置をゼロから開発製造販売はされていますが、それが主のビジネスではなく、社会的な課題である廃棄物を利用して、新たな価値の製造につなげるサーキュラーエコノミーをビジネスにする手段として、その一部にAMを使われています。それは上記のコラムの3つ目のモデルの良い例であり、またビジネスの動きが速く、新しいことの価値を認める人の多いタイでビジネスを先行させることで、ビジネスモデルの立ち上げサイクルを早める挑戦もされています。このようなイノベーションを基軸とした企業が日本に増えれば、AMの需要も増え、市場も活発になっていくと思います。そのタイのイベント会場から、CEOの原様がライブで講演されたウエビナー「ExtraBoldデジタルものづくり講座第5回」を開催され、私も参加しましたが、講演の最後に、前回のコラム(「DfAM」と「DwAM」はどう違うのか?)を紹介されていました。DwAMの考えに共感され、ExtraBoldが目指すところと合致とのコメントをいただきました。突然のことで驚きましたが、とてもありがたいことでした。

ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!

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