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日本のAM コミュニケーションの課題と対策は?

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸 樹脂製品メーカーで設計を14年、その後AMソフトウェア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、ShareLabを通じてAMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしています。

AMの情報を伝えるのが難しくなっている

最近ようやく秋らしい気候になってきましたが、10月末というのに、日中半袖1枚がちょうどよい日もあり、なかなか夏物をしまえずにいます。家の中でも子供たちは「暑い」、親は「寒い」と、窓の開け閉めでもめたりしていますが、この時期は気温も微妙で、また人それぞれ体調によっても暑さ寒さの感じ方も変わり、ただ「暑いよねぇ?」と言っても、なかなかその感じを伝えにくい時期だなと思っています。

さて、AMに話を戻しますと、特に最近AMについて人と話したり、情報を見聞きしたりするとき、うまく、正しく伝えるのが難しくなってきているな、と感じることが増えたように思います。それは20年前に比べると、AMが関わる範囲、情報が桁違いに増えているのは最大の理由だと思いますが、深さや細かさも増していますし、この前まで正しいことが今はそうとは言えない、というような変化の速さも理由ではないでしょうか。

例を挙げると、一昔前は3Dプリンターの紙のカタログにある装置の写真、造形品の写真、スペックを見れば、これはこういう仕組みで、こんなことができ、ここが他の製品と違うところだなとおおよそわかりましたが、今はそれだけだと、「何がいいの?」「他とどう違うの?」が分からないことが増えています。

もちろん、現物を見るのが一番わかるのですが、日本で買える装置や材料だけでも膨大にあり、世界にはさらにその数倍あるので、展示会で見るにしても時間がかかったり、見たいものが出展されているとも限りませんし、ショウルームを見て回るのも工数とコストがかかりすぎる状態になってきています。一方それはAMが特別なわけでもなく、多くの製造技術や製品でも似た歴史をたどってきています。そこで、ここでは日本のAMの「売り手」と「買い手」のコミュニケーションの課題と対策について、私の考えをお伝えしようと思います。

「売り手」と「買い手」のコミュニケーションの壁

私か個人的に感じている、日本のAMにおいて「売り手」と「買い手」の間に、昔は無かった、または低かった「壁」について、下の図で表してみました。

これは3Dプリンターだけでなく、プリントサービスにも当てはまるかと思います。この壁の主な原因は以下の変化によるものだと思います。

  • AMが単純な試作だけでなく、高度な試作から実用治工具、部品製品製造まで使われるようになり、買える製品、材料、サービスの量と種類も増え、また製品比較も複雑で細かい違いでしなければならなくなったことから、売り手の発信する情報が急激に増え、売り手側も情報の把握や整理が難しく、買い手側も受け取る情報の検索、理解も難しくなってきた。
  • 情報量が増え、複雑化し、変化も速いことから、印刷カタログや言葉、文字、写真などのアナログ情報、また短時間の対面説明では情報の発信、受信が難しくなってきた。
  • オンラインコミュニケーション、テレワークが一般化したことや、企業業績から出張や広告宣伝経費を抑える傾向により、リアルな対面の機会が以前より減ってきた。逆に最近テレワークが減り、ウェビナーや動画視聴がしにくくなってきた。

この課題に対する対策は、これまでの延長線上の努力や改善では難しいのではないでしょうか?

コミュニケーションの壁に対する対策のアイデア

もちろんそれぞれの事情は違いますし、万能な対策はありませんが、私が考えるアイデアをお伝えしたいと思います。

  1. 売り手も買い手も、まず「自分の情報」を棚卸し、優先付けをしてみる
    意外と見落とされがちですが、まず売り手は「自分たちが持っている情報」をいったん棚卸し、それと「買い手が欲しい情報」から伝えたい優先度をつけなおしてみることから始めてはどうでしょう?また買い手も、「目指したいことは何か、優先度は?」を整理し直してみるだけではなく、それを売り手側に正しく、十分に伝えることも、意外と足りていないのではないでしょうか?それをぼかしたり、隠したりすると、かえって必要な情報が得られない悪循環になっていないでしょうか?
  2. デジタルコミュニケーションの、もう1歩進んだ活用をしてみる
    日本では特に対面営業の重要性は変わりませんし、展示会も必要ですが、扱う情報量と複雑さが増すほど、デジタルコミュニケーション有効性が高くなってくるのは、他の製造関連市場でも歴史をたどればわかります。一方、現在ウェブサイトを使っていない売り手は無いと言ってよいかと思いますが、デザインや機能が10年ほぼ変わっていなかったり、欲しい情報が見つけにくかったり、製品情報だけを写真と文字だけで表示しているケースも見られます。「後は営業にお問い合わせ下されば説明します」というのは、今の買い手の求めていることでしょうか?買い手に「お問い合わせボタンをクリックしよう」「ショウルームに行ってみよう」などの「次の行動」をしてもらうには、一気に大掛かりなDX化をするより、1歩だけ進んだ活用から始めてはどうでしょう?方法はいろいろあると思いますが、1の優先度を基本にウェブサイトの表示順や表現を変えてみる、またはどのページからもお問い合わせボタンが押せるようにする、などもあるでしょう。最近は「チャット」ですぐに質問が出来るようにしたり、ウェブサイトよりSNSをコミュニケーションのメインにしている企業も出てきています。
  3. 自分たちだけでがんばらない、閉じこもらない
    売り手は、買ってくれそうな買い手は自分たちだけで頑張って探し、他には渡したくないのは当然です。一方で、自分たちで頑張ることの限界や、買い手の要望に応えきれない弊害もあります。例えば、ウェブサイトは海外本社や、親会社、全社広報部門の管理下で、日本の買い手に合うデザインや情報を表現できない場合、社外企業と共同して、伝えたいことをタイムリーに伝えられるサイトを作る、または利用するのはどうでしょう?また自社ウェビナーの課題の対策には、あえて競合他社も参加する合同ウェビナーに参加する、共同研究開発プロジェクトに参加して、そこでのデジタルコミュニティを通して発信するなど、方法はいろいろとあるかと思います。海外では、自社のショウルームや業界展示会とは別に、トレーラーコンテナを体験ショウルームにして、買い手の敷地内を借りて展示会を行っている例もあります。

そうは言っても何から始めればいいかわからないし、すぐに成果も出そうにない、と1歩を踏み出せない方も多いと思いますが、はずれもある、時間もかかるからこそ、始めなければ何も得られません。そのような売り手、買い手、両方のコミュニケーションの支援として、ShareLabでもウェブサイトだけでなく、動画チャンネル「ShareLabTV」での対談動画公開や、テーマ特化型合同ウェビナーに加え、特に広報担当者向けのデジタルコミュニケーションセミナーなども企画していますので、そのような伴走者を見つけることからはじめてはいかがでしょうか。

ShareLabニュースにもう一言

Orbital Composites社、革新的ドローン「Starfighter X」でAFWERX TACFI賞を受賞

あまり身近に感じられる話題でもなく、軍需関連で、本来作らなくても良い製品へのAM活用例なので、ニュースだけを見たときは関心がなかったのですが、同社のウェブサイトの動画を見たら、ドローンの円筒本体から伸びる4本の対向ローターアームを、4台のアームロボット材料押出法プリンターが同時に4方向に積層していて、機能的にも、時間的にも、軽量化にも理にかなったAMの使い方として、参考になると思いました。装置だけでなく制御も簡単ではないと思いますが、用途や目的から遡って最適な設計とAMの利点を活かして製造法を作っている、良い例だと思います。

3MF Consortium、ボリュメトリックおよびインプリシット拡張をリリース

これまた地味なニュースでしたが、私にとってはもう一段上のデジタルデザインとAM活用の可能性が広がる大きな一歩になるのではと、最近にないインパクトのあるニュースでした。一般に3次元形状を表すのに使われる数学的な曲面やSTLのポリゴンは、物質の境界面だけを表すものです。ボリュメトリックやインプリシットでは、物質内部の細かい構造も設計できるもので、以前からある方法でしたが、これを3Dプリンターに渡すのがまず大変で、カタチにすることはごく一部の方法でしかできませんでした。それが3MFフォーマットファイルで3Dプリンターに容易に渡して作れるようになると、これまでと違うモノが出来るので、これからどうなるか、楽しみに注目していきたいと思います。

ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!

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