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【2023年版】産業用3Dプリンターの造形準備ソフトウェア(スライサー)って何ができるの?どんな製品があるの?

造形準備ソフトウェア

3Dプリンターでモノづくりを行う際になくてはならないのが3DCADと造形準備ソフトウェア(スライサー)です。この記事では造形準備ソフトが果たすの位置づけと果たす役割、具体的にどんな製品があるかを紹介していきます。ソフトウェアは毎年更新されていく動きの速い市場ですので、2023年現在の情報をお届けします。

造形準備ソフトウェアの位置づけと果たす役割

3Dプリンターで3Dモデルデータを造形する際には、3Dデータを3Dプリンターが読み込める形式に変換する必要があります。具体的には3DCADモデルデータを、STLやBREPなどの中間データに書き出しを行ったり、そうした中間データをもとに積層面を積み上げていく3Dプリンターの挙動を指示するG-codeを生成する役割を担っています。3DCADと3Dプリンターを繋ぐ造形準備こそが、造形準備ソフトウェアの働きです。

以前は、STLデータを受け取り積層面ごとにスライスし、G-codeを作るためのソフトウェアでしたので、スライサーと呼ばれていましたが、現在はサポート構造を付与したり、複数部品を配置したり、内部構造をラティス化したりと造形準備段階での最適化作業も担うソフトウェアが増えてきました。その為、本記事では造形準備ソフトと記載しております。

3Dプリンターメーカー推奨の造形準備ソフトとサードパーティー製品の台頭

造形準備ソフトやスライサーと言えば、個人用の3Dプリンターを使っている方は、「PrusaSlicer」や「CURA」などのソフト名を聞いたことがあるかもしれません。個人用の3Dプリンターと同じく、業務用3Dプリンター装置を購入する際に造形準備用ソフトは同梱されていることが多いです。バンドルされているソフトウェアが汎用的なソフトウェアである場合と3Dプリンターメーカーが独自に開発したソフトウェアである場合があります。

3Dプリンターメーカー独自開発のソフトウェアのメリット・デメリット

産業用の3Dプリンターではメーカーが用意した造形準備ソフトを利用することも多いでしょう。縛りがあるからと言って、使いにくかったり品質が悪いわけではなく、MarkforegedのEigerやFormlabsのPreformなど使いやすいと評判の造形準備ソフトウェアも少なくありません。

装置、材料、ソフトウェアを一体的に制御するために、複雑なパラメーター設定を行わなくても、造形品質を担保できるのが指定造形準備ソフトの強みです。材料プロファイル、マシンプロファイルが深いレベルで把握できている開発元が適切なパラメーターを簡単にセットできるように作りこんでいるので、設計者がグループで試作に取り組むような体制の場合は、メーカーの用意した専用ソフトウェアが便利でしょう。

一方で、造形準備ソフトウェアによっては、指定できないパラメーターがあったり、欲しい機能がない場合もあります。例えばサポート材が意図通りに配置できない際に、調整できないなどの場合も出てくるでしょう。(そもそも装置、材料、ソフトウェアを一体的に扱う装置メーカーの場合、案件に応じた材料を選択できないなどの短所もあります。)またさまざま装置メーカーの3Dプリンターを併用している場合だと、装置ごとに造形準備作業のための操作を習得する学習コストが必要になります。治工具を用途に応じて作り分けたり、さまざまな補修部品を作るような製造主体の場合は、自ら選定した造形準備ソフトウェアを活用するメリットが活きてくるでしょう。

汎用的な造形準備ソフトウェアのメリット・デメリット

材料がオープンな3Dプリンターの場合、造形準備ソフトを選べることが多いでしょう。その場合、すべての装置を同じ操作感で操業することで業務効率を高めることができます。バンドルされているソフトウェアの場合でも、コストが別精算になる場合もあります。その場合は、互換性のある造形準備ソフトに切り替えることで大きなコストダウンを果たすことができる可能性もあります。

一方で、そもそも専用ソフトウェアを使うことしか想定していない3Dプリンターでは造形準備ソフトウェアの切り替えはできません。せっかく導入しても一部の機能しか使えない場合もあり得ます。また選定したソフトウェアでマシンプロファイルや材料プロファイルが登録されていない場合もあるでしょう。そもそも使えない場合もあるでしょうし、使える場合でも装置や材料ごとに最適なパラメーター設定である造形レシピを開発する工数を見込む必要があります。

形状や材料によってレシピを開発するノウハウを習得すれば大きな強みになりますが、専任の造形者を置かず、ちょっと試作を作るだけなどの場合、利用者に大きな負担感を感じさせてしまうでしょう。目的や装置に応じて賢く造形準備ソフトウェアを選定しないと、思わぬところで工数を喰われてしまうので注意が必要です。

造形準備ソフトウェアの代表的な製品

このように、装置購入時に推奨されている造形準備ソフトウェアを利用することにもメリットがあります。一方で、造形準備ソフトウェアは数百万円以上するライセンス費用が発生する製品もあるので、切り替えが可能な場合には大きなコストダウンを図ることができる余地もあります。装置を購入する窓口や詳しい人に相談しながら進めていく必要がありますが。実際に検討を進めるために、どんな造形準備ソフトウェアがあって、どんな事ができるのかを知っておくことが重要になってきます。

以下に主要な造形準備ソフトウェアを紹介していきますので、軽く目を通しておくと自社導入や既存ソフトウェアの切り替えにあたっての検討観点が明らかになるかもしれません。

Magics(Materialise)

MAGICSサイト

マジックスと呼びます。産業用3Dプリンター用の造形準備ソフトウェアでトップシェアを誇る定番ソフトウェアです。ベルギーの老舗AM企業 Materialiseが開発し、さまざまな企業にバンドル提供の実績があり、一説には世界シェア80%以上とも言われています。STLデータの扱いが非常に優れていると業界内でも高い評価を得ているほか、対応マシンのプロファイルも充実しています。開発が継続しており毎年のように機能改善が進んでいます。

対応造形方式幅広く対応
長所シェアが高く性能も高い。機能も多い。信頼性も高い。
短所コスト面。サブスク制で毎年費用が発生。使いたい機能がオプション扱いで別途購入という場合も。
公式サイトhttps://www.materialise.com/ja/industrial/software/magics-3d-print-suite

VoxelDance(Z-Rapid)【PR 提供:Bfull】

https://voxeldance.be-full.jp/

ボクセルダンスと呼びます。Magicsを強く意識してリリースされた中華製の造形準備ソフトです。機能や操作感は Magics同等でコストを大幅に下げる設計思想で開発されました。特徴的なのは販売形式がサブスクではなくパッケージ売りな点です。一度購入して必要なアップデートがなければ、何年でもコストがかからず利用できます。ソフトウェアに掛けるコストを抑えることができるという大きな強みが目立ちますが、3Dモデルを直接読み込むことで、STL化した際のデータ欠損などをチェック修復できる機能や、サポート構造の形状を工夫してサポート除去が容易なスマートサポート機能もあるなど、現場で実践的に使える造形準備ソフトウェアです。

中華製ソフトウェアということで、情報漏洩対策に気を尖らせる大手企業の中でも、「コストダウンできるため、インターネットにつながらない環境で運用する」条件で、情報システム部と折り合いをつけている事例もあるそうです。日本での販売元であるBfullはMagicsから全面移行し、年間150万パーツを量産するまでに至った国内屈指のサービスビューローでもありますが、乗り換えてからの不便はなかったそうです。現に造形担当者がVoxelDanceのサポート対応を行っている点も好感です。

対応造形方式SLA、SLS、SLM
長所・Magicsのオプション機能も含めた同等機能のラインナップが強力。
・破損STLファイルのチェック、修復機能など良く使われる機能も軽快に動作。
・パッケージ販売なので次年度以降のコスト不要。コストメリットが非常に高い。
・製品サポートを熟練のサービスビューロスタッフが自ら行うため
「わかっているサポート」を受けることができる。
短所日本での知名度が低い。
公式サイトhttps://voxeldance.be-full.jp/

NETFABB(Autodesk)

https://www.autodesk.co.jp/products/netfabb/

ネットファブと呼びます。Magicsで無ければNetfabbとも言われる評価の高い高機能造形準備ソフトです。開発にはドイツのサービスビューローが関わり、ノウハウが求められる処理を自働化したことでノウハウ型スライサーソフトと呼ぶ声もあるほどです。CATIA、NX、Creo、SOLIDWORKS、Solid Edgeなどの各種3DCADに対応しており、受け取り側に同じCADソフトがなくても、ネイティブのデータをそのままNetfabbに読み込むことも可能です。サポート材のカスタマイズやメッシュの修復などに対応するほか、ラティス構造を簡単に作れる機能や造形時の姿勢提案や熱解析なども搭載しています。Fusion 360との連携によるジェネレーティブデザインも可能です。対応マシンのプロファイルも充実しています。

対応造形方式幅広く対応
長所ノウハウがないと出来なかった処理を機能化
短所コスト面
公式サイトhttps://www.autodesk.co.jp/products/netfabb/

Simplify3D(Simplify3D)

https://www.simplify3d.com/

シンプリファイスリーディーと呼びます。プロユースのスライサーソフトとしては利用しやすい価格帯ながら、サポート材の設定が柔軟で意図通りに配置しやすい点が非常に魅力的なスライサーソフトです。造形したいデータが大容量でも高速に処理することも可能ということで、複雑な形状のSTLでも処理が早いのがうれしい点です。最近ではMeltioのようにワイヤーDED方式の金属3Dプリンターでも利用するケースがあり、樹脂3Dプリンターと同じ感覚で金属部品を造形したい日本企業の利用例も出てきました。

対応造形方式MEX方式(FFF、FDMなど)、ワイヤーDED方式
長所コストがお値打ちながら、造形時に詳細なパラメータ設定が可能。サポート材の配置の自由度が高く、が取り外しやすい。
短所自由度が高いので操作を学習コストは必要。(Meltioの導入研修は2日程度ということで、Simplify3Dの操作も含まれます。樹脂3Dプリンターと同程度の学習コストということです)
公式サイトhttps://www.simplify3d.com/

3DXpert(Oqton)

スリーディーエキスパートと呼びます。3DXpertは、設計から後処理まで、金属3Dプリンターのワークフローのすべてのステップに対応する3Dシステムズの造形準備ソフトです。金属のみを対象とする造形準備ソフトですが、配置、修正、最適化、設計、シミュレーション、分析ができ、サポート材の設計も自動生成機能を搭載とかなり高機能。大容量ラティス構造のスライスデータの計算も「Lattice QuickSlice スライサーエンジン」を搭載することにより解決するなどバージョンアップのたびに課題点が克服されています。開発元は3Dシステムズですが、M&AしたOqton社のブランドでソフトウェア展開を強化していく方針です。造形シミュレーション解析機能の強化や造形後の熱応力の事前に検討など今後の機能拡充も期待できる造形準備ソフトウエアだと言えるでしょう。

長所必要な機能がそろう。今後のOqtonブランドでの機能拡充にも期待。
短所 コスト面
公式サイトhttps://oqton.com/ja/3dxpert/

年間数百万円の違いも!造形準備ソフトウェアも特徴や価格で賢く選ぼう

造形準備ソフトは3Dプリンターメーカー支給のものを使えばOKというのはあながち間違っていませんが、他の選択肢もある、ということを今回お伝えしました。

3Dプリンターもそうですが、造形準備ソフトウェアも安い買い物ではありません。3Dプリンターを購入する前に、実際に造形する可能性がある部品を複数事前に試験造形することに皆さん取り組まれていると思うのですが、装置購入の前に、造形準備ソフトも同じようにデモをみるだけではなく、実際のデータを実際に使う環境で操作をしてみると、もう一押し、生産性の向上やコストダウンを実現できるかもしれません。

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