AM(アディティブ・マニュファクチャリング)とは
AM(Additive Manufacturing/アディティブ・マニュファクチャリング)は、従来からある切削加工や成形加工とは異なる加工手法の一つで、近年さまざまな業界で試作品開発などを目的に、採用が進んでいます。今後は量産品への対応も含め、活用の幅は広がり続けるでしょう。この記事では、AMとはどのようなモノなのかを改めて確認し、インターモールド2019に登壇された3名の方へのヒアリングを元に、AMの特徴を5つご紹介します。
AM(アディティブ・マニュファクチャリング)とは
AMは、材料を「積層」または「付加」することでさまざまな形状の製品を製造する手法です。
2020年にJIS規格B9441「付加製造(AM)-用語および一般概念」として規格化され、「3Dモデルデータを基に、材料を結合して造形物を実体化する加工法。多くの場合造形層を積み重ねる形態をとる。除去加工および成形加工と対照的な方法」と定義されています。
AMでは、対応した設備本体とその材料、また設計情報となる3Dデータがあれば、3Dデータ通りの製品の製造に着手できます。さまざまな業界が治具製作や試作品の開発に対して、すでに導入を進めており、少しずつ最終品の開発へも適用が始まっています。AM関連の設備・材料などの市場は今後も成長を続けていくことが予想されています。
AMの特徴を3人の識者に聞いた
金型技術の大規模展示会であるインターモールド名古屋2019に登壇した、3名の方にAMの特徴をお聞きしました。
1人めは、テュフズード・ジャパン株式会社 アディティブ マニュファクチャリング チーム / マーケティング担当 畝 竜哉氏
2人めは、オークマ株式会社 技術本部ソリューション開発センター先端加工開発課課長 石原 洋成氏
3人めは、GE Additive 日本統括責任者 トーマス・パン氏
お三方にお伺いしたAMの特徴を紹介します。
① 補修作業に向いている
AMは、新規部品の製造だけでなく、現在使用している部品や金型などの補修にも適用できます。
「例えば、円錐状の針が剣山のように多くついている金型の針が破損してしまった場合、通常であれば複数の加工業者の協力が必要なため、補修をするには3週間程度必要です。その間は金型がありませんので、生産ラインが停止し、大きな損害に繋がってしまいます。
AMを上手く活用し、金属積層造形の技術で破損してしまった針の部分を一度‟生やし”、それを切削加工で破損前の形状に仕上げていくことで、補修に必要な期間を1週間以上短縮することができました」(オークマ 石原氏)
このように、AMではワンストップでの補修が実現できるため、運搬コストの低減や所要時間を短縮を実現しています。
② カスタマイズと多品種少量生産に向いている
製造依頼のなかには、量産ラインで実現が難しい多品種少量生産の依頼や量産品をベースに一部カスタム品の対応依頼があります。
しかし、既存の量産ラインでは多品種少量生産に対応できなかったり、カスタム品の対応が小変更だったりしても、従来の工法では柔軟に対応できず、コストが高くなってしまう傾向があります。結果的に、顧客がカスタム品の発注をあきらめ、新規受注や継続受注を獲得できないという課題があります。
AMは、このような多品種少量生産やカスタム品加工に関してもメリットがあります。例えば、既存の手すりにそれぞれ異なる点字を付与する場合には、AM技術で点字部分だけを付与することで、コスト増を最低限に抑えながら、狙い通りのタイミングで手すりを完成させた事例があります。
依頼者の希望を実現し、仕事を受注するためには効果的な選択肢となります。
③ 高効率のプロセス
従来から行われている鋳造や切削加工では実現できないような、こだわりを持った造形もAMと切削加工を組み合わせることで実現できます。
「レーシングカーのエンジンに使われている排気用の部品は、流体をスムーズに流すために経路上の直径が変わったとしても、表面の滑らかさを変えないことが必要でした。従来の切削加工だけでは、この部品の形状を実現することは困難でしたが、AMでは切削加工後に材料を積層できるため、積層と切削加工を繰り返すことで少しずつ狙いの形状に近づけ、最終的には要求された精度を保ちながら、狙いの形状を実現できています」(オークマ 石原氏)
一見非効率に見えますが、このような職人技を実現できるのもAMのメリットの一つです。
④ 複雑な形状でもコストかわらず
切削加工や鋳造などの従来の加工法では、製品形状の複雑さが直接コストに反映されていました。そのため、性能的には一体成形が望ましい場合でも、あえてシンプルな形状を複数組み合わせる形に分割し、結果的に重量増や部品点数増につながることがあります。
材料を積層していくAMでは、複雑な形状であったとしても生産の難易度は従来の加工法ほど大きな差はなく、コストの増加も限定的です。AMを用いることで、従来は20個の部品に分割していたものをひとつのワークとして生産できるようになった事例もあります。
「航空機のジェットエンジン部品のなかには、製造上の課題から設計変更しスペックを落とさざるを得なかった部品がありました。AMでこの部品を製造することで、重量を10%削減し、航空機の燃費を10%改善するような革新的な性能改善を実現しています」(GE トーマス・パン氏 )
⑤ 万能ではないが新しい可能性がある
AMは、なんでも実現できる万能の製造技術ではありません。しかし、従来の製造法で実現できなかったことが可能になるので、AMを採用することでモノづくりの幅は大きく広がります。
「AMで補修を行えるようになれば予備部品の在庫圧縮ができ、カスタマイズの要望にも即座に対応できます。これらは経営上の大きな強みとなるでしょう」(デュフズード・ジャパン 畝氏)
「3Dプリンターを用いたAMで、何かを実現できるか?という問いはもう過去のもので、これからはAMを用いて何をするべきか?といった未来を見据えていく時代になっています」(GE パン氏)
AMがモノづくりの可能性と現場の選択肢を広げる
3Dデータと材料と設備さえあれば、同じものが実現できるAMの普及により、従来の切削加工や成形加工では実現できなかったモノづくりが実現できるようになりました。多品種少量生産やカスタマイズ品の加工に対応しやすく、製品の補修にも活用できるため、現場の選択肢を広げ、AMに取り組んでいることが企業の強みとなっています。
これまでは「AMで何ができるのか?」ということが議論の対象になっていましたが、これからは「AMで何をしていくか?何をするべきか?」という議論をしていく時代になっており、今後も活躍の場は広がっていくでしょう。