【3Dプリンター導入②】導入依頼時の注意点
業務用3Dプリンターの導入が決定すると、次に出てくるのが専門業者やメーカーの選び方とコミュニケーションです。家庭用3Dプリンターと異なり業務用3Dプリンターとなると、大きさはもちろん採用する機種によって追加せねばならない設備が出てきます。
導入に際して、斡旋してくれる業者やメーカーに対して、何をどのように伝え、準備せねばならないのか、といった導入依頼時のポイントをご紹介します。
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導入前のポイント
- 業者やメーカーには作りたいと思っているもののサイズ、使う場面を伝える
- 3Dプリンターの導入では本体以外に必要な付帯設備や工事、諸手続きがある
- 装置の納期や工事、諸手続きに必要な期間を確認する
- 保守、材料の供給体制などを確認
- 問い合わせ窓口がしっかりしているか確認する
導入依頼時にベンダーに伝える確認事項
作りたいもの・目的・場所
造形方式や機種を決定して見積もりをとり、業者を決めて内部調整も済ませたら、いよいよ発注です。このとき、発注する業者に伝えておきたいポイントがこちらの2点です。
- 3Dプリンターで作りたいもののサイズ
- 3Dプリンターを用いる目的と場所
機種によっては造形範囲が狭く、自分たちの希望するサイズで造形できない場合があります。なので、余裕を持ったサイズ選びが必要になります。希望する素材が使えなければ強度や精度が出すことができず、まったく役に立たないなんてケースも。
使用目的によっては、最終製品レベルに使いたいのに、そのクオリティに達しない性能の機種では意味がありません。逆に試作などそれほど精度が求められていない治具を作る程度であれば、最終製品製作にも対応できるハイスペックな装置は必要ありません。
この2点を業者に伝え、選択した造形方式や機種が最適であるかを改めて確認しましょう。もちろん、見積もりを取る段階でこれらの情報を業者に伝え、そのうえで機種の選定を行うのも良いと思います。多方面から検討して、やりたいことに合った3Dプリンターを選ぶことが重要なのです。
付帯設備の確認
次に、3Dプリンター本体以外にどのような付帯設備が必要で、設置のためにどのような工事が必要かを確認しましょう。選んだ3Dプリンターの造形方式によっては、本体以外にさまざまな付帯設備や工事が必要となります。
例えば、粉末床溶融結合法(PBF/Power Bed Fusion)の場合は、粉末をフィラメントとすることから、まず粉塵が周囲や外部に飛び散らないようにする排気設備と機密性が高い部屋が必要になります。次に、できあがったものから周囲の粉末を飛ばすためのエアー装置も必須です。選んだ業務用3Dプリンターによっては、粉塵爆発を防ぐための装置内の酸素濃度を下げる装置や、温度調整のためのチラー装置も必要となる場合もあります。その他、焼結されずに残った粉末を回収、リサイクルする装置や、粉末そのものを保管する保管庫などが挙げられます。
このような付帯設備や工事の他に、防火対策として防火責任者を決め、避難路を確保しなければなりません。それにともない、労働安全衛生法に関する手続きも必要です。これらの準備を搬入される日までに行っておかなければ、装置を設置することができず、できたとしても稼働することはできなくなってしまうのです。
液槽光重合(VPP/Vat Photopolymerization)でも、換気設備や洗浄用の水回り、材料を保管する保管庫が必要で、設置する場所も太陽光などの外部の光が遮断される場所が好ましいとされます。また強い臭いが出る素材もあるので、外部へ漏れないように換気以外にも注意をせねばなりません。使用する材料液によっては下水に直接流せないものもあり、廃液処理の設備や関係各所への届け出が必要にもなります。
インクジェット方式とも呼ばれる結合剤噴射(BJT/Binder Jetting)においても、使用する材料によっては、空調、保管管理、廃液処理のための設備や届け出が必要になります。
材料押出方式(MEX/Material Extrusion)を採用している3Dプリンターは、比較的小型で設置も簡単なことから、大がかりな付帯設備や設置場所の工事はありません。しかし装置内がかなり高温になる場合があるのでここは注意ポイントです。空調のきかない室内に置いてしまうと、労働安全衛生法の基準に抵触する可能性があります。また不要なサポート材が多く出る方式なので、その廃棄の方法も考慮しておきましょう。
納期
採用する業務用3Dプリンターによっては受注生産の装置もあり、納期などもしっかり確認しておかねばなりません。導入業者には「いつから稼働させたいのか」を伝え、そこから逆算していつまでに何を準備しておかなければならないのかを把握しておきましょう。
装置の納期に加えて設備工事や諸手続きにより、希望する稼働日までに稼働することが困難になることも。ハイスペックな装置になればなるほど、稼働までに半年から1年を要するケースがあります。長ければ1年半前から準備を進めねばなりません。導入から稼働までの期間はある程度余裕を見て執り行うのが良いでしょう。
保守要項
導入業者やメーカーとの保守に関しての契約も確認しておきましょう。稼働頻度が少なく、試作などでときどき使用する程度であれば、仮に故障して修理に時間がかかっても影響は少ないですが、頻繁に使用するのであれば保守に関してはしっかり確認しておくべきです。通常の工作機器と同様に、多くの場合は年間保守契約に加えて状況に応じた保守内容が加わりますが、自分たちの使用レベルに合った保守契約を結ぶのがベストです。
消耗品の供給ルート
材料の供給についても確認は必要です。材料押出方式の場合、使用するフィラメントは市販品も多く手に入れやすいですが、造形方式によってはメーカーから材料を調達することも少なくありません。
いずれにおいても、導入業者やメーカーに問い合わせ窓口があり、しっかりとしたサポートをしてもらえるかということは重要です。導入時に限らず、アフターサポートが十分に受けられるところを選んでおけば3Dプリンターの導入や運用をスムーズに進めるのです。
まとめ
業務用3Dプリンターの導入においては、本体以外に必要なもの、やっておかなければならないことが多岐に渡ります。導入決定後、または導入するまで気づかないと、導入そのものができなかったり、導入まで想定外の時間がかかったり、導入しても運用できないなんて事態に陥ることも。
導入に際して、何が必要で、いつまでにやればいいのかを事前にしっかり把握しておきましょう。多くの導入業者、メーカーはそのようなところまでちゃんとサポートしてくれますが、運用すべき自分たちが理解しておくことが重要です。3Dプリンターの導入で失敗のないように、不明な点はどんどん聞いておきましょう。