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3Dプリント義足企業を経産省が後押し。その背景に見える世界の情勢を探る

東京都千代田区に本社を構えるインスタリム社が、経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラムであるJ-Startupにおいて「J-Startup企業」として選定された。

ここから世界の義足作成における3Dプリンターの活用例や世界の情勢を見ていこう。

インスタリム、経産省が推進する「J-Startup」認定企業に選出

J-Startupは前述したとおり、経済産業省が推進するスタートアップ企業の育成支援プログラムのことで、約1.5万社の日本のスタートアップから厳正な審査で選ばれる。

インスタリム社は2019年から3Dプリンティングおよび機械学習(AI)技術を活用して、世界初となる3Dプリント義足の製造販売(インスタリム社調べ/試供品提供ではなく、事業化を前提としたカスタム量産体制が構築された3Dプリンター・CAD義足事業として)をフィリピンで開始し、日本向けの製品は2021年2月から展開を開始している。経産省には世界初となるこの試みが評価されたものと考えられる。

インスタリム社について

インスタリム社は2019年設立の新しい企業だ。「必要とするすべての人が、義肢装具を手に入れられる世界をつくる」をビジョンとしている。

義足の購入ができないフィリピン人、特に貧困層に向けて開発がはじめられたことが事業のはじまりで、いまではフィリピンでは、通算200名以上がインスタリム社の義足を使用している。

義足の作成は本来であれば、患者個人に合わせて製作する義肢装具士の技術力が必要となる。しかし、インスタリム社の義足は、義足作成用に開発した業務用3Dプリンターと、オリジナルの設計用ソフトを用いており、義肢装具士の手間と材料費を最低限に抑えられる。その結果、安価に義足が提供できるようになった。

日本の場合、支援制度を利用すると義足の1本目は4万円程度で手に入れられる。しかし、スポーツや日常生活のためのスペアが欲しいといった場合にはほとんど支援が受けられず、最低でも40〜50万円以上、スポーツ用の高機能な義足は、100万円ほどしてしまう義足を自費で購入せねばならない、という現状がある。

しかし、インスタリム社製のものなら数万円程度で購入が可能になるとのこと。

インスタリム社製の下腿義足および大腿義足。プラスチック部分に積層痕がややあり、言われれば3Dプリントされたものと気が付くが、遠目からは何の遜色もない。

インスタリム社製の下腿義足(写真左2本)および大腿義足(右2本)

これまでのインスタリム社のフィリピンでの活動、日本向けの製品ラインナップ発表については、ShareLabでも記事にしている。詳しくはそちらも参照してほしい。

≫ 世界初となる3Dプリント義足事業。総額8,400万円を調達し、フィリピンにて開始

≫ 3Dプリンティング技術を活用した低価格の3Dプリント義足、日本向け製品を発表

J-Startupとは

J-Startupは経済産業省・日本貿易振興機構(JETRO)・新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が事務局となり、推進するスタートアップ企業の育成支援プログラム。「世界で戦い、勝てる」スタートアップ企業を生み出し、革新的な技術やビジネスモデルで世界に新しい価値を提供することを目的としている。

1万社以上の日本のスタートアップ企業から、厳正な審査でJ-Startupの「特待生(J-Startup企業)」を選定し、「世界で戦い、勝てる企業」に育て上げるために集中支援が受けられる。

世界の情勢

3Dプリンターを使って義肢や体の動きをサポートする装具を開発している例はほかにもある。

グアテマラの北部では非営利団体が、患者の3Dスキャンから納品までを1ヶ月以内で行っている。グアテマラは他国と比べて医師の数は少ない。1,000人あたり0.93人の医師が在籍しており、これはプライマリヘルスケアの適切なカバー率を達成できていません。グアテマラの600万人以上(人口の約35%)が切断者を含む重要な医療サービスへのアクセスを欠いている状態だ。3Dプリント義肢の活用は、この医師不足の状態に貢献できると見込まれている。

障がい者向けのツールが多く出品されているJames Dyson Awardでは、参加国の1つ、ベルギーにおいて、脳性麻痺児向けの3Dプリント製装具「Maniflex」が国内最優秀賞に選ばれた。

これについては、ShareLab NEWSでも以前詳しい内容を記事にしている。

≫ James Dyson Award 2021 最優秀賞に3Dプリント製装具が選ばれる

世界の動きから見える傾向

世界に目を向けると、日本より先んじて義手・義足の作成について、安価での支援を積極的に行っている。今回のJ-Startupサポート支援の狙いは、3Dプリンターを活用した世界の動きを察した経産省が、日本で同じ取り組みをしているインスタリムを後押しすることで 世界に遅れを取らないようにしようとするものだろう。

事業として3Dプリンター製の義足を販売するのは、インスタリム社が世界初だ。同社をJ-Startup企業に選定した背景には、今後3Dプリンターを活用する医療サポート企業の台頭を促す目的もあると考えられる。

まとめ

J-Startup企業は公募によって選定される。3Dプリンターを活用して既に事業展開している企業、またこれから事業を始めようと思い描いている企業があれば、ぜひチャレンジしてほしい。日本で3Dプリンターを活用する企業が増えることは、ビジネスシーン全体において大きな刺激となるはずだ。

関連情報

国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。

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