宇宙空間で活躍する3Dプリンターが登場、ESAの 3Dプリンター戦略とは
2022年3月、ESA(European Space Agency:欧州宇宙機関)は、宇宙空間での利用を目的とした新たなポリマー3DプリンターIMPERIALの最終版を発表した。IMPERIALは、プリンター自身よりも大きなサイズのポリマー部品を製造できることを特徴とする。
ESAは、金属3Dプリントにおいて粉末を用いない新たなプリンターをISSに導入する計画を進めている。
目次
オフアース(地球外)3Dプリンターへの期待
ロケットで一度に打ち上げられる部品の数には限りがある。複雑な形状の部品はスペースを占有するため、スペースを取らない材料状態で打ち上げ、ISSで組み立てることが望ましい。3Dプリンターはこうした要求を満足するものだ。
2016年、Made In Spaceが初めて国際宇宙ステーション(ISS)に 3Dプリンターを設置してから、地球外(オフアース)での 3Dプリント技術の発展には多くの関心が寄せられ、様々な努力が為されてきた。
オフアース3Dプリンターは、将来的な宇宙船の故障修理や、宇宙飛行士の生命維持戦略に活用が期待されている。
オフアース3Dプリンター導入プロジェクト 「IMPERIAL」
ESAは、オフアース3Dプリンター導入プロジェクト「IMPERIAL」をヨーロッパの幾つかの企業(OHB、Azimut Space、Athlone Institute of Technology、BEEVERYCREATIVE など)と共同で進めている。2022年3月には、その最終版である IMPERIAL3Dプリンターのプロトタイプが完成したことを報じた。
IMPERIAL3Dプリンターは重力に依存せずにポリマー部品生産が可能だ。つまり、地球上で逆さまに設置しても動作できる。今後は、地球とISS内で動作比較を行い改良を加えていく。
IMPERIAL3Dプリンターの特徴
IMPERIAL3Dプリンターは、プリンター自身よりも大きなサイズの部品を出力ができる。
これにより、空間的制約の強いISS内で、プリンター自身のサイズを抑えつつ、大きな部品を製造できる。今回の成果は、スペアパーツやツールを大量生産する必要のある将来の活動に大きな違いをもたらすことだろう。
ESAのオフアース3Dプリンターの取り組み:金属ワイヤー送給方式の推進
ESAのオフアース3Dプリンターに関する攻勢は、IMPERIALプロジェクトに留まらない。IMPERIAL はポリマー材料を用いた3Dプリンターであったが、金属3Dプリントに関しても宇宙進出を進めている。
こちらは、金属3Dプリントに強いAirbus Defense and SpaceやAddUpを含む多くの企業と共同で進めるプロジェクトで、2023年2月に導入予定だ。
これまで、金属3Dプリントでは粉末を焼き固めて立体造形することが多かったが、ESAの進めるオフアース金属3Dプリンターでは、ワイヤー送給方式を採用していることが興味深い。
宇宙空間では細かな粉末が飛散した場合に、あらゆる場所に侵入する可能性があり、大事故に繋がりやすい。粉末の飛散を防ぐためには厳重な密閉装置が必要となる。
こうした危険性や煩雑さを排除し、安価で安全なワイヤー方式を採用したわけだが、ワイヤー方式では基本的に高精度な造形ができない。部品の凹凸を無くすためには後工程で機械加工が必要となる。これら要件を如何に回避するのか、に注目が集まる。
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