仏オベール&デュバル社のライセンス供与をもとに材料製造の本格稼働目指す―三菱パワー
三菱重工グループは国策プロジェクトTRAFAMへの参画などを通じて、国産AM造形機(3Dプリンター)の開発に積極的に取り組んできた。
すでに三菱重工工作機械では国産金属3DプリンターLAMDAシリーズを5,000万円台から、という戦略的な価格設定で市場投入し、さらに装置の大型化を目指している。また100%子会社の多田電機では、ビーム溶接機で培ったノウハウを活かして、電子ビームを用いたパウダーベッド方式の金属3Dプリンターを投入している。さらに三菱電機も金属ワイヤーをレーザーで溶接しながら積層造形するワイヤーDED方式の金属3Dプリンターの開発を進行中だ。様々なアプローチで産業分野へのAM実装を進めている途上だといえる。
こうした中、三菱重工グループの中でも発電プラント開発分野で実績を持つ三菱パワー(旧三菱日立パワーシステムズ:2020年9月に名称変更)は、発電設備などの製造で培ってきたAM生産技術をもとに、素材提供ビジネスを本格的に立ち上げることを表明している。
AM―ZONE(実践的ショールーム)
三菱パワーはAM-ZONEという名称で、ショールーム兼生産設備を日立工場内に開設している。AM-ZONEでは、仏Addup社製金属3Dプリンター「Formup350」や仏BeAM社製「Modulo250」、米Exone金属3Dプリンター「invent」のほか、独GEFERTEC社製WAAM方式の金属3Dプリンター「Arc405」を配備。
実際に金属積層造形を行うだけではなく、ガスアトマイズシステムに三菱パワーが独自開発した高性能ガスノズルを組み込むことで高効率な金属粉末の製造も行うほか、独自技術をもとに高密度な造形を可能にしたワイヤーDED用の金属ワイヤーも製造している。製造面の設備だけではなく、評価・分析用検査装置も備え、材料、AM造形、評価分析と一連のプロセスを自社施設内で完結して行うことができるという。
2020年9月に開催されたフォームネクストフォーラム東京 2020でも、展示ブースでバーチャル工場見学を行い多くの見学者を集めていた。
仏金属粉末メーカー大手のオベール&デュバルと提携を発表
また11月には高性能合金と金属粉末を提供する仏オベール&デュバル社(Aubert & Duval)との提携を発表。オベール&デュバルは仏鉱業・冶金グループ企業であるエラメット(eramet)社の子会社で、従業員約4,100名、売上高847百万ユーロ(約1,071億円)。特殊鋼、超合金、アルミ、チタン合金の製造販売を行う中、AM用金属粉末に力を入れている。航空宇宙、エネルギー、防衛などの各市場向けに冶金ソリューションを提供しており、エアバス、ボーイング、GE、IHIシーメンス、フェラーリなどを顧客に持つ。
オベール&デュバル社が持つ粉末組成・製造ノウハウのライセンス供与を受ける事で、自社保有技術を使った最適な粉末製造を行っていくという。重電分野で豊富な実績を持つ三菱パワーだけに、本格始動に対する期待は高まるところだ。
水面下で活発化する金属3Dプリンター用材料市場
2019年以降、金属材料メーカーは展示会等でAM分野での材料提供に関して情報発信を強めているように見受けられる。またそれだけではなく、大同特殊鋼の製造ライン増設やエプソンアトミックスの製造ライン増設のように、10億円以上の投資を行い、金属粉末製造ラインを整備する動きが加速している。自動車のCASE対応を背景にした芯材用途やMIM用途の金属微細粉末需要への対応という堅い市場への対応を追い風にしていることは間違いなく、一概にすべてがAM用というわけではないが、「各社AM需要は視野に入れている(アトマイズ装置業者)」という事だ。
その背景には金属3Dプリンターメーカー各社が(コロナで遅れている事情もあるが)2020年から2021年にかけて中量生産機を発表するというロードマップを公表していたり、2025年には一定の市場規模を期待できるという各種市場調査の観測がある。
また国内でも航空宇宙分野での最終部品製造に用いられたり、水面下で検討を続けてきた自動車業界各社が次世代パワートレーン開発や静粛性対策のために3Dプリンティング技術に対する期待を表明するなど、概念検証をおこなってきた結果が見え始めた。3年後の開発時にスペックインするための各社の水面下の綱引きが進んでいるとみられる中で、3Dプリンターメーカー各社の取り組みと合わせて、材料メーカー各社の動きが気になるところだ。
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。