名古屋大学の研究グループが、光造形3Dプリンティングに活用できる、柔らかく強い生体適合材料を開発
名古屋大学の竹岡敬和准教授らの研究グループは 、生体適合性を持つが加工の難しいpoly(2-methoxyethylacrylate)(ポリ2-メトキシエチルアクリレート:PMEA)に大きさ100nmのシリカ微粒子を高濃度に導入することで、柔軟でありながら、なかなか切れない高靱性材料として利用できるという研究成果を発表した。シリカ複合PMEAは柔らかく良く伸び、高い靭性を有する。造形方式は光造形方式を想定しているが、生体適合性材料を複雑な形状で表面性高く造形できる長所を活かすことで、血管や臓器などの人工組織を造形した先進治療の実現が可能になるかもしれない。
目次
生体適合材料PMEAは粘度が高く加工難易度が高い
近年バイオ3Dプリンティングの分野では、再生医療向けの製品や材料の開発が活発に進められている。人体や血液と直接触れ合うこれら材料において、何よりも重要となるのは生体適合性だ。人体に悪影響を及ぼす材料は再生医療に用いることができない。
人体との親和性が高いポリマー材料であるPMEAは、再生医療への応用が期待されている。しかし、粘度の高いポリマーであるため、成型加工が難しいという欠点があり、現在の用途はコーティング剤に限定されている。
そこで、名古屋大学、竹岡敬和准教授らの研究グループは、上記のような「加工が難しい」というこれまでのPMEAの問題を回避し、再生医療への応用を目指す研究を行っている。
ナノシリカ配合PMEAを光造形方式で造形!自由な形状に加工可能に
名古屋大学の竹岡教授らの研究グループでは、PMEAに大きさ100nm程度の硬いナノシリカ粒子を配合し、PMEA-シリカ複合エラストマーを作製した。このエラストマーは光照射によって硬化し、光造形3Dプリンタで加工成型ができるため、加工が難しいというPMEAの欠点を回避することが可能だ。
実際に、光造形で成型した弾性の高いエラストマー樹脂の物性を計測したところ、柔軟ながら高い靭性(千切れにくさ)を示すことが分かった。また、血小板の吸着しやすさについてもPMEA単体の場合と比較実験を行っている。こちらに関してもPMEA単体と遜色なく、優れた生体適合性を持つことを示した。
研究グループでは、本材料を人工血管や臓器などの再生医療分野向けの材料として活用していきたいとしている。
本研究結果は、2022年11月15日、16日に東京のタワーホール船堀で開催された「第31回ポリマー材料フォーラム」において発表された。詳細は以下のリンクを参照して頂きたい。
>>名古屋大学研究成果発信サイト「血管に代わる!柔らかくてよく伸びて強い生体適合性材料の開発」
難加工材料を自由に造形できる3Dプリンティング技術の可能性
3Dプリンティングは、元来、複雑な立体形状の構築を目的とする加工手段であった。本研究でも見られるように、切削や成形では加工が難しい材料も、3Dプリンティング向けの材料開発を行うことで、形状の自由度を飛躍的に向上させた加工が可能になる。「3Dプリンティングを使うことで加工の難しい材料を加工する」という用途は、3Dプリンター活用を考える上では無視できない要素になってきているといえるだろう。実際に金属3Dプリンターの活用方法として、難削材と言われるチタンや工具鋼などの非常に硬い金属を3Dプリンターで造形する取り組みが具現化している。
他にも、環境負荷低減のための省材料やリサイクル材料の活用など、3Dプリンティングの持つ様々な付加価値が注目されつつある中で、こうした取り組みは一層加速していくことだろう。
>>大手企業が進める3Dプリンターを用いた環境への取り組み事例
3Dプリンティング技術を取り入れた研究や製造がさらに普及していけば、今後も思わぬ活用用途が発見されていくかもしれない。まだ新しい技術である3Dプリンティング技術だが、取り組みを行う中が製造現場の課題や社会課題にたいして新しい観点からの貢献を行うこともできるだろう。
「3Dプリンティング技術と先進医療」に関する関連記事
なお、過去の医療関連記事については以下のリンクを参照して頂きたい。
国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。