3Dプリンターで蝶の羽を模した構造色フルスペクトルディスプレイを開発
スイス連邦工科大学チューリッヒ校(以下、ETHZ)の研究チームは、蝶の羽にみられる微細構造を 3Dプリンターで模倣することで、構造色を発現させた。更に、微細構造を調整することで、フルスペクトルの構造色ディスプレイを作り出すことに成功した。
将来的には、この技術を応用して高解像度カラーディスプレイを作れる可能性を秘めた研究について解説する。
ETHZ研究チームとは
ETHZ(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)はスイス連邦のチューリッヒ市にある、スイス連邦経済・教育・研究省下の国立大学で、多くの3Dプリンター技術を活用した研究開発を推進している。
ShareLabNEWSでも、その先進的な3Dプリンターの研究事例はいくつかご紹介してきている。
≫ 水温の変化で動くように設計された4Dプリンティング潜水艇の模型
≫ 0.1mmのダビデ像をプリントする驚異の高精細金属3Dプリントシステム
≫ 髪の毛の3000分の1サイズ!ナノスケールの新たな金属3Dプリント技術を実現
特に金属3Dプリンターを活用した高精細なマクロ~ナノスケールまでの繊細な造形を活用した開発は今後、特にエレクトロニクス分野において新たな可能性が示された。そして今回、その技術にカラー技術を組み合わせることで誕生した新たな開発事例をご紹介する。
開発背景
ETHZの研究チームは、蝶の羽に注目し3Dプリンターを活用した構造色の再現を試みた。
構造色は、見る角度や当てる光によって色が変化するという特徴もあるため用途は限定的が、光で劣化しないというメリットがある。構造色を自由に制御することができれば、次世代のデザイン、特に建築やエクステリア分野を大きく変えるものとなると想定されている。そこで、研究チームはその構造食を再現するため蝶の羽を3Dプリンターで再現する開発に着手した。
そもそも、構造色とは何か
構造色とは可視光と同程度のサイズ(200~800nm)の微細構造によって、光の干渉や回折、散乱が生じ物体が色付く現象を指す。代表的な例が、水面に浮かんだ油膜や、コンパクトディスク(CD)の虹色だ。また、一部の蝶や昆虫、鳥の羽にも構造色が見られる。
構造色は、色素による着色と異なり光による劣化で退色することがない。これは、発色が物体のナノ構造に起因するためだ。物体が化学的に変質したとしても、物理的に構造が破壊されない限り、色が変化しない。
また、従来広く用いられる色素顔料と違って、人体や環境への影響も排除できる。なぜなら、構造色を発現させるにあたって、材質は関係ないからだ。よって、環境負荷の少ない材料を選択することができるためだ。
3Dプリンターで 蝶の羽構造を模倣
蝶の羽の構造は、種類によって様々だ。中には、とても複雑な構造をしているものもある。研究チームは、その中でも、比較的簡単な周期構造を持つ蝶の羽を手本とした。これは、3Dプリンターでの再現を容易にするためだ。
用いた3Dプリンターは、二光子レーザーリソグラフィを利用した、Nanoscribe社の「Photonic Professional GT」だ。この3Dプリンターは100nmオーダーの高い分解能が特徴だ。
下図は、手本とした蝶の羽と、実際に 3Dプリンターで作製した微細構造だ。非常によく似た構造となっていることが分かる。
研究チームは、作製した微細構造によって、蝶の羽と同様の構造色が発現できることを示した。
構造色で作られるフルカラースペクトル
研究チームは更に進んで、全ての可視色を構造色で発現させることに成功した。
構造色は物体の微細構造で発現するため、構造を変えれば、容易に色を変えることができる。微細構造の格子間隔を細かく変更することで、色の制御が可能だ。
下図は、研究チームが作製したフルスペクトルディスプレイだ。背面から白色光を照射することで、様々な色のピクセルが浮かび上がる様子が見られた。
こうした、細かな格子間隔の調整が行えることは3Dプリンターならではの特徴と言える。
また、2種類の格子を組み込むことで、色同士のチューニングを行うことも可能だ。こうした色の制御には、有限要素法によるシミュレーションも大きく寄与している。分光法によって生成した色を分析することで、色の制御やチューニング技術は、今後も発展していくことだろう。
今回開発された技術は、将来、重要書類のセキュリティ機能として利用や、透明な材料で発色させることができることも判明したため光学技術用のカラーフィルターを作製できる可能性もあるとのこと。さらに、この技術は大規模なナノ構造の3Dプリントにも応用できると考えており、デジタル3Dディスプレイや高密度記録マイクロ画像ディスプレイのような高解像度カラーディスプレイを作ることができるようになるという。
将来的には、3Dプリンターを利用することで、耐用年数が大幅に向上した新たなディスプレイが作られるかもしれない。
関連情報
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