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不透明樹脂に対応した、超高速光造形3Dプリンター技術を開発

EPFLの研究チームは、瞬時に光造形3Dプリントを完了させる体積法を改良し、不透明材料でも体積法による造形を可能とした。本技術は人工動脈を作る際など、医療系、バイオ系での活用が特に期待される。(写真は体積法と光強度補正による光造形精度の比較。左から透明樹脂、不透明樹脂で光強度補正無し、不透明樹脂で光強度補正有り(出典:EPFL)

光造形3Dプリンターの弱点を解決する「体積法」とは

スイス工科大学ローザンヌ校(EPFL)の応用フォトニックデバイス研究所(LAPD)は、3Dプリントの分野で先進的な研究を行っている。数μmの解像度と造形速度を両立した電気的3Dプリント手法は、以前当サイトでも取り扱った。

わずか数マイクロメートルの構造をプリントできる3Dプリンターがスイスで開発される

EPFLの研究は光造形3Dプリントの分野でも目覚ましい功績を残している。LAPDの開発した「体積法」は、造形速度が遅い、という光造形3Dプリントの弱点を見事に解決した。

一般的な光造形ではでは、複数のレーザー光を重ね合わせた「点」で材料を硬化させる。レーザー光をシフトさせると材料が硬化した「面」が出来上がり、その面を積み重ねて「立体」を作る。これがいわゆる積層造形(Additive Manufacturing)だ。

対して、体積法は材料が入った容器を回転させつつ、様々な角度から光を照射する。材料が蓄積したエネルギーが反応閾値を超えると、同時多発的に光化学反応が生じ、材料が硬化する、という仕組みだ。

積層造形では10分かかるような造形であっても、体積法ならば20秒で完了する。

体積法で作成した透明ヨーダ
体積法で作成した透明ヨーダ(出典:EPFL)

体積法の弱点

解像度としても申し分のない性能を発揮する体積法だが、弱点もある。それは、透明材料でしか適用できない、という点だ。

体積法の適用には、容器内の材料における光の吸収を厳密に制御しなければならない。よって、照射する光が溶液内の不純物で拡散すると、光がスムーズに伝搬せず、硬化するために必要なエネルギーが上手く蓄積されなくなってしまう。

光拡散の計算と修正

今回、LAPDは「体積法が不透明溶液に適用できない」という課題を見事に解決した。詳細は以下の論文で述べられている。

J. Madrid-Wolff, A.Boniface, D. Loterie, P. Delrot, C. Moser, Controlling Light in Scattering Materials for Volumetric Additive Manufacturing. Adv. Sci. 2022, 2105144.

上記の課題に対するLAPDの回答は意外なほど簡単なものだ。LAPDは、ソフトウェア的な解決手段を取った。

まず、不透明溶液に対し、測定用の光線を照射し、散乱が起きている光の軌道をビデオカメラで撮影する。この観察結果からは、どの位置に光のエネルギーが蓄積しにくいのかが分かる。

続いて、溶液内各所で所望のエネルギー蓄積が行われるように光の当て方を修正し、硬化のための光照射を行う。

実際に研究者たちが行ったことは、測定用光線の結果に応じて、硬化用光線を修正するプログラムを作り上げることだ。完成したプログラムにより、不透明溶液における体積法の精度は飛躍的に向上した(下図参照)。

不透明材料による立体造形技術は、特に医療やバイオ分野で必要となる。

医療分野では、臓器や体組織のモデルとして3Dプリントが用いられることが多い。不透明溶液が使えるようになれば、実際の色に近い医療モデルを製作することができ、外科手術の成功率などに関わってくることになるだろう。

バイオ分野では、近年、動物の細胞を使ったバイオ3Dプリントが注目を集めている。人体組織の培養などに新たな可能性を与えるバイオ3Dプリントだが、細胞を混ぜた溶液は透明度が低下する。こうした溶液においても体積法が活用できれば、人工動脈などの製作効率は飛躍的に高まるだろう。

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