「手で触った感じ」を3Dデータでデザインする取り組み―広島大学大学院栗田研究室/株式会社アプリクラフト
デジタルなモノづくりにおいて、プロダクトの形状や色は、3DCADなどで作業に取り組む際に確認しながらデザイン出来るようになってきた。 プロダクトの“モノの表面(サーフェス)”のデザイン要素で、「Color(色)、Material(素材)、Finishing(加工)」の3つの要素を指して、CMFと呼ばれる概念で、人の感性に訴えかける価値として取り組まれてきた分野だ。
しかし実際にプロダクトを評価する際は、形状、色だけでなく触った際の「持ちやすさ」、「触り心地」も重要になる。ところが、その『触感』は、試作で形にしてみてから微調整していく事が多かった機能ではないだろうか。そのため、プロダクトに触れた際の「触った感じ」である『触感』は、使いやすさや使い心地に影響する要素でありながら、現状のデジタルなモノづくりでは、まだ十分なアプローチが出来ていない分野だといえる。
こうした『触感』へのアプローチを「素材や形状の定量的なパラメータとの相関」で3Dデータに取り込み、デザインしていこう、という意欲的な取り組みが 広島大学大学院工学研究科・栗田雄一研究室と株式会社アプリクラフト(代表取締役:女井誠司、以下アプリクラフト社 ) の手で発表された。
アプリクラフト社のプレスリリースによると「 3DモデリングツールのRhinocerosおよびそのプラグインソフトであるGrasshopperによって“高付加価値・触感デジタルデザイン”を生成するアルゴリズムを共同開発 」したとの事で、「 広島大学大学院工学研究科・栗田雄一研究室の依頼により作成した触感評価用サンプルの生成を支援するアルゴリズムを搭載した10種類のGrasshopper定義ファイル」を無償公開している。
同社の発表によると「“Grasshopper”は、Robert McNeel & Associates 社(本社 米国・シアトル)が開発する3次元曲面モデラー“Rhinoceros”に含まれる機能の一部」とのことだ。
また同機能は、「GAE(Graphical Algorithm Editor)」とも呼ばれ、視覚的にデジタルモデルを生成するアルゴリズムを作成することができ、コンピュテーショナル・デザインやジェネレーティブ・デザインなどと呼ばれるコンピュータを利用したデザイン手法を実現するツール」 との事で、ジェネレーティブデザインを実現する際に、触感も含めたデザインを実現するための取り組みと言えそうだ。 同ソフトで作成した3Dデータは、”STL”での出力も可能とのことで、3Dプリンタでの造形もすぐに可能なので、複数の造形材料での試験も容易な可能性がある。
「持ちやすさ」や「触った時の心地良さ」といった『触感』に関する評価は、定量的に表現出来てこなかった分野だ。今回の取り組みのように「感覚を正確に他者とシェアすること」が出来れば、良い触感/悪い触感に関する知見やノウハウが蓄積でき、可視化できるようになる。また定量化されたライブラリがあれば、さまざまな触感を持つ試作サンプルを基に、試作する前に開発者間で触感のイメージを共有しやすくなる。試作を行う生産現場と設計者が、試作の前段階で仕上がりイメージを共有しやすくなるだろうし、将来的には、手袋状のデバイスで触った感じを再現できる可能性もあるかもしれない。今後の活用に期待が高まる。
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2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。