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バイオ3Dプリンタで作製した「細胞製人工血管」を移植する再生医療の臨床研究をスタート

細胞製人工血管移植イメージ

概要

佐賀大学医学部附属再生医学研究センター 中山功一教授、佐賀大学医学部胸部・ 心臓血管外科 伊藤学助教及び株式会社サイフューズ(本社:東京都文京区)は、独自に開発したバイオ3Dプリンターを用いて作製した「細胞製人工血管」を世界で初めてヒトへ移植する臨床研究を開始した。

背景

現在、腎不全等により血液透析※1が必要となった場合、人工透析患者の96%以上がバスキュラーアクセスとして動静脈内シャントを使用していると言われている。

バスキュラーアクセスとは、 血液透析を行う際に血液を出し入れするための入り口のことで、 動静脈内シャント とは、手術で動脈と静脈を連結し、動脈の血液を直接静脈に流れこませることによって血液透析が円滑に行える十分な血液量を確保させる仕組みのことをいう。

この動静脈内シャントの作製には患者様ご自身の自己血管を用いるか、または自己血管による作製が困難な場合には合成繊維や樹脂といった人工材料から作製される小口径の人工血管が使用されているが、従来の人工血管は感染しやすく閉塞しやすい等の課題を抱えているのが現状だという。

バイオ3Dプリンタ ー による 細胞製人工血管を開発

この問題に対して、これら小口径の人工血管の課題を克服するべく、より生体血管に近い人工血管の開発を目指し、佐賀大学と京都府立医科大学及び株式会社サイフューズは、これまでにAMEDの支援を受け、バイオ3D 3Dプリンター 「Regenova®」を用いた細胞塊の積層技術により、細胞のみから構成される小口径の細胞製人工血管(スキャフォールドフリー※2細胞製人工血管)の開発に取り組んできた。 その成果をもとに、今回、バスキュラーアクセスの再建を目的とし、細胞のみから構成される細胞製人工血管をヒトに移植する臨床研究をスタートした。

細胞製血管利用イメージ

期待される成果

改善点として期待されるポイントは二つある。

一つは、本細胞製人工血管は、人工材料を用いず患者様ご自身の細胞のみから作製されているため、従来の人工材料から作製された人工血管に比べ抗感染性や抗血栓性において有用性が期待されること。

二つめは、バスキュラーアクセスの開存性向上やバスキュラーアクセスで繰り返すトラブルによる患者様の苦痛が軽減されることだ。

臨床研究の流れ (概要)

臨床研究 を 「スキャフォールドフリー自家細胞製人工血管を用いたバスキュラーアクセスの再建」と題し、対象疾患を「維持透析を要する末期腎不全」として、 以下に臨床研究の流れを示す。

① 患者様ご自身の鼠径部などから皮膚組織を約1cmx3cm程度採取。

②(株)ジャパン・ティッシュエンジニアリング(J-TEC:愛知県蒲郡市)内の細胞培養専用のクリーンルームに皮膚片を専用容器で輸送。

③ 皮膚片を酵素処理にて細胞を分離し、数日間培養して線維芽細胞を増殖させ、必要な数の細胞が得られたら、細胞凝集現象を誘導する専用の培養皿で細胞凝集体(スフェロイド)を作製。

④ J-TECのクリーンルーム内に設置した臨床用のバイオ3Dプリンター を用いてチューブ状にプリント

⑤ 細胞製人工血管の強度を高めるよう線維芽細胞にコラーゲン産生を促す培養を実施。

⑥ 一定の強度が確認されたら蒲郡から佐賀大学医学部附属病院へ出荷。

⑦ 細胞製人工血管内の細胞を生かしたまま輸送。

⑧ 移植に適しているか細胞製人工血管を担当医が判定。

⑨ 患者さん自身の肘~前腕の動静脈へ移植を実施。

⑩ 移植直後から細胞製人工血管の状態を定期的に観察。

用語解説

※1 血液透析
腎臓の機能が低下し、体内の老廃物が尿へと排泄されない場合に、血液を毎分200CC 程度抜出し、機械によって余分な水分や老廃物を除去し、再び体に戻す治療。

※2 スキャフォールド(足場材料)フリー  Scaffold free
再生医療、特に組織工学(ティシューエンジニアリング)の研究分野では細胞だけ集めても複雑な立体化は困難と考えられており、細胞の足場となるポリマーやハイドロゲルなどの生体材料を混和するのが国内外の研究者の常識とされていた。今回の研究グループによる技術は生体材料を用いることなく細胞だけで立体化に成功したため、足場材料無し=スキャフォールドフリーと呼ばれている。

バイオ3Dプリンティングの世界

バイオ3Dプリンターとは、多数の細胞などの原料と3次元デザインをセットすると、元のデザイン通りの立体構造体を出力する装置の総称のことだ。さまざまな手法が存在するが技術全般をバイオファブリケーションとも呼ぶ。

世界で100以上の企業や研究者グループが取り組んでおり、今回の佐賀大学とサイフューズによる研究グループは「剣山メソッド」と呼ばれる独自方式によって細胞だけで外科的操作に耐えられる強度を持った細胞構造体をプリントできる独自のバイオ3Dプリンターを開発している。 

2019年11月現在、細胞だけで外科的操作に耐えうる立体構造体を作製・出力できるバイオ3Dプリンタは当該研究グループが開発した装置のみだという。

国内のバイオ3Dプリンティングの分野では、他にリコーも現在研究・開発を進めている。

>> バイオ3Dプリンター、細胞から人体組織

こちらのバイオ3Dプリンターは 複写機で40年培ってきた技術の結晶であるインクジェットヘッドを活かしたインクジェット方式を採用している。

>> 細胞の3次元配置によるヒト組織作製で医療に革新を

>> 日経ビジネス2018年9月3日号の記事

細胞を吐出し、 狙い通り3次元的に組み立て 、細胞積層体を作るというのだからこちらも驚きだ。

ヒトの細胞の一般的サイズは20ミクロンと言われる。1ミクロンといえば、1000分の1ミリだから0.02ミリということになる。インクジェットヘッドのノズルにこんな微細な穴があるというだけでもイメージしにくい。

多くの会社で置かれるプリンターの大手メーカーとして知られるリコーさんが、まさかこのような形で医療の分野まで進出していることは知らない人も多いだろう。

欧米では3Dプリンティングによる 人口臓器の開発も進んでいるが、急速に進んでいるバイオ3Dプリンティングの世界から当分目が離せない。

関連情報

バイオ3Dプリンターを開発したサイフューズと丸紅がグローバル展開に関する業務提携契約を締結

株式会社サイフューズ

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