髪の毛の3000分の1サイズ!ナノスケールの新たな金属3Dプリント技術を実現
ETH Zurichは、電気めっきを応用し直径25nmの銅製立体造形物を3Dプリントすることに成功した。
電気めっきを応用した超高精細3Dプリンティング
3Dプリンティングにおいて高精細な造形を行う場合、一般的にはレーザー焼結法が用いられる。これは材料となる粉末を吹き付け、レーザー光を当てて焼き固める方法だ。しかし、この方法を用いた場合の解像度は、粉末サイズを超えることができず、せいぜい数百マイクロメートル(※1)オーダーとなる。
ETH Zurich(スイス連邦工科大学チューリッヒ校)の Dr. Dmitry Momotenko率いる研究チームは、電気化学的手法を用いた超高精細金属3Dプリンティングを得意としている。これは、基板上の金属を堆積させたい場所に金属イオンを含んだ溶液を触れさせ、表面張力で溶液と触れ合った状態のまま、電流を流す方法だ。溶液中の金属イオンは基板表面から電子を受け取り、還元されて、その場で固体の金属となる。
この方法によって従来の解像度限界を大きく超え、解像度100nm以下の超高精細な金属3Dプリンティングを実現した。
参考:0.1mmのダビデ像をプリントする驚異の高精細金属3Dプリントシステム
研究グループの目標はマイクロメートルの更に下、ナノメートルオーダーの超超高精細3Dプリンティングだ。
(※1)1 マイクロメートル = 1/1000 ミリメートル
(※2)1 ナノメートル = 1/1000 マイクロメートル
ナノメートルオーダーへの挑戦
2021年10月に発表された論文(※3)によると、研究グループは「幅25ナノメートルの立体構造物の作製に成功した」ことが報じられた。下図を見ても、柱状構造物の直径が100nm を下回っていることが分かる。
この成功の要因は2つ。1つ目は「直径1.6ナノメートルの超小口径ノズル」を用いたことだ1.6ナノメートルとは、銅イオンを2つを並べた長さと同じだ。超高精細な3Dプリンティングには、超小口径のノズルが必要となる。
しかし、超小口径のノズルを使うと、「溶液の途絶」という別の問題が生じた。
連続的に銅を積層するためには、銅イオンが還元されて銅に戻るスピードに合わせて、ノズルを上方向に移動させなければならない。ここで少しでも制御を誤ると、積層された銅とノズルがぶつかったり、逆に、表面張力による溶液の繋がりが途絶してしまう。研究グループが過去に積み上げてきた高精度な機械制御技術を用いても、溶液を途絶させず、連続的に反応を進行させることは不可能だった。
そこで考え出されたのが、第2の工夫、「電流感知による非連続積層」だ。
連続的に積層が難しいならば、連続的に積層することは諦める。彼らは「一層ずつ(Layer-by-Layer)」銅を積み上げていくことを選んだ。
研究チームは、敢えてノズルを遠ざけながら、銅イオンの還元を進行させ、溶液の繋がりを途絶させる。繋がりが切れたら、今度はノズルを近づけながら、溶液を繋げる。これを秒間30回以上繰り返す。
何も考えずに高速でノズルを上下させれば、積層構造物にノズルが衝突してしまうが、これを避けるために溶液の接触を電流によって感知した。ノズルと基板の間には、銅イオンを還元するために、常に電圧が印加されている。溶液と基盤が電気的に接触した瞬間、両者の間には電流が流れ、接触を感知できるという仕組みだ(下図参照)。
新たに開発されたこの非連続積層法は、従来よりも速く3Dプリントができるという副産物も生むこととなった。
(※3)Julian Hengsteler, Dmitry Momotenko, et al., Bringing Electrochemical Three-Dimensional Printing to the Nanoscale. Nano Lett. 2021, 21, 9093-9101
金属3Dナノプリンティングの応用
これまでの常識を覆すほど高精度な3Dプリンティングが可能となったことで、特にエレクトロニクス分野において新たな可能性が示された。
近年の電気自動車や自然エネルギー発電技術の発展に関連して、電気エネルギー貯蔵装置(電池)の高性能化は大きな課題となっている。エネルギーの充電速度は電極面積に依存するが、平面的な電極を用いる場合、充電を速くしようすれば、電池を大きくするしかなかった。
しかし、電極に立体構造を持たせることができれば、表面積は何倍にも大きくなる。電池のサイズをそのままに、充電速度を大幅に向上させることもできるかもしれない。
規則的な金属ナノ構造はエレクトロニクス分野だけでなく、化学合成における触媒や光学フィルムなど、物質表面が重要となるあらゆる分野で活躍が期待される。
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