BoeingとTitomicが航空宇宙産業を変える。チタンの3Dプリント事業について提携を発表
航空機開発大手 Boeing社は、チタンを利用した部品開発について、独自の 3Dプリント技術を有するTitomic社と提携し、調査を進めることを発表した。Titomic社は、自社の有する TKF技術と地勢的優位性を最大限に活用し、航空宇宙産業におけるオーストラリアの地位向上を目指している。
目次
航空宇宙産業におけるチタンの役割
高い機械強度に比して軽量、耐熱性と耐腐食性を併せ持つチタン(及びその合金)は、材料に対する要求の厳しい航空・宇宙分野において非常に重要だ。
チタンは民間機だけでなく、Boeing社が開発する戦闘機 F-22 や、Sikorsky Aircraft社の軍用ヘリ UH-60 Black Hawkにも大量に使われる。
現在、チタンの生産量トップは中国、2位がオーストラリアだ。激化する宇宙開発事業を支援するためにも、持続安定的なチタン部品の供給体制を構築することが求められる。
BoeingとTitomicの目指す航空宇宙産業
こうした背景のもと、Boeing社は、金属3Dプリントを得意とする Titonic社と提携し、チタン部品製造についての研究を進めることを発表した。
Titonic社は、オーストラリアのメルボルンを拠点とする。オーストラリア政府が拠出する製造業支援の取り組み(Modern Manufacturing Initiative)から 232万ドルの助成金を受け、現在大きな注目を集める企業だ。
Titonic社は、2021年に工作機械メーカーのRepkonと提携し、兵器開発に注力した 3Dプリント生産拠点を設立した。また、最近ではライバルであったオランダの 3Dプリント部品開発企業のDycomet Europeを買収し、ヨーロッパへも販売を拡大するなど、成長著しい。
Titomic社は豊富なチタン資源を有し、安定的で持続的なチタン部品の供給が可能だ。Boeing社は大量のチタン部品製造を Titonic社に委託することで、リスクを抑えつつ、コスト減を狙っているものと考えられる。
TKFプロセスによる合理的な部品生産
Titomic社は TKF(Titonic Kinetic Fusion)と呼ばれる金属3Dプリント技術に秀でる。これは壁にペンキをスプレーするのと同じように、下の固体基板に金属の微粉末をスプレーする方法だ。
金属3Dプリントに多いレーザー焼結法と異なり、熱ベースのエネルギー源に依存しないため、コールドスプレー法とも呼ばれる。この方法は熱ベースのプリンティング技術と比較して大幅な製造時間短縮が可能で、廃棄物も少ない。高い生産性を有し、経済的な手法だ。
熱エネルギーを用いないため、ただ金属粉末を吹き付けるだけでは、基板と金属が癒着せず剥がれやすくなってしまうが、Titomic は高圧・高速の圧縮ガス流を使用することでこの問題を解決した。大きな運動エネルギーを持った金属粉末が基板に衝突することで、強靭な部品を製造することが可能だ。Titomic社の有する TKF技術は宇宙産業の在り方を大きく変える可能性を秘めている。
TitomicのCEOであるHerbert Koeck氏は、「宇宙船と部品の製造プロセスを再定義」し、宇宙産業におけるオーストラリアの地位を強化できる、と確信している。
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