折り紙×3Dプリント=柔軟な構造を設計を実現
折り紙に着想を得たソフトロボット研究が、アメリカの防衛分野で学際的大学研究イニシアチブ賞を受賞。本研究では、柔軟な特性と複雑な設計を実現するために3Dプリンターが重要な役割を果たす。
今回は受賞したプロジェクトの概要をご紹介するとともに、なぜ3Dプリンターが採用されたか、将来的に活用が期待される用途についてご紹介する。
「折り紙」の数学
日本人にとってはなじみ深い「折り紙」だが、数学の一分野である幾何学や群論では、折り紙の研究が真面目に行われている。
幾何学では古くから定規とコンパスのみで様々な長さや角度を作図することに関心が寄せられてきた。例えば、定規とコンパスを使った角の2等分は小学校で習う基本的な作図法だが、角の3等分は不可能であることが証明されている。
しかし、折り紙を使うと、角の3等分が実行可能だ。また、4次までの方程式は折り紙を使って解けることが知られている。定規とコンパスだけでは解くことが不可能な問題も、折り紙を使うことで解決できる場合があるのだ。
こうした、折り紙の持つ特殊性や不思議な性質から一躍注目を集めた。
「折り紙」の工学
折り紙を工学的に応用しようとする研究も存在する。
例えば、折り畳める自転車は場面に応じてスペースや機能を変えることができる。また、段ボールなどの梱包材は、その折り方によって強度が変わる。
「折り畳む」という行為は、物体の機能やサイズ、強度を時間とともに変化させる操作と捉えることもできるのだ。
近年では、コンピュータの処理能力が向上したことで、折り紙の各部位に生じる複雑な力を計算できるようになった。質量や厚みの存在しない理想的な2次元平面ではなく、現実に存在する「紙」を扱えるようになってきたのだ。
折り紙の原理を3Dプリンターで表現
アメリカ国防総省は、ジョージア工科大学に、2022年学際的大学研究イニシアチブ賞(MURI)を2つ授与し、総額約1400万ドルの賞金を提供した。MURIは防衛分野での優れた研究を支援するプロジェクトだ。
受賞したうちの1つは「位相幾何学的デザイン論を用いた折り紙、及び、切り紙様多相安定構造の設計」と題する研究だ。この研究では、折り紙の原理を3Dプリントと組み合わせ、変形できる柔軟な構造を設計する。
将来的には、多機能ロボットや変形する橋梁、折り畳めるアンテナ、防弾シールドなど様々な構造物へ応用されることになるだろう。
この構想を実現させるための鍵となるのが、3Dプリンターだ。
物体が自律的に形を変えるためには、アクチュエータや、それを制御するコンピュータ、センサーなどを搭載する必要がある。折り紙の数学的、及び力学的研究とロボティクスの集大成である「可変ソフトロボット」の構造は非常に複雑だ。3Dプリンターは、こうした複雑な設計を形にする上で、大きな力を発揮するだろう。
ジョージア工科大学の研究グループは現在、これらのソフトロボットを設計するための包括的な数学モデルの開発に取り組んでいる。実物の作製や評価は今後の課題だ。
研究グループのEb Rocklin助教授は、本プロジェクトに対する思いを以下のように語った。
「このプロジェクトは、先端工学技術と厳密な数学理論、及び物理理論の発展を密接かつ強力に結びつけるジョージア工科大学の能力があったからこそ実現しました。私たちは、見たり触ったりして誰もが感覚的に理解できる『折り紙』という概念から出発し、ロボット工学と多機能3Dプリントを使って、 複雑で柔軟かつ堅牢な力学的構造を作成します。 それは、これまで誰も見たことがないようなものとなるでしょう。」
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