3Dプリンターがつくるのはモノより〇〇である?
3Dプリンターがつくるのはモノより〇〇である?
「暑さ寒さも彼岸まで」と言われますが、今年はまだしばらく暑い日が残るようです。そうは言ってもコンビニでは中華まんやおでんを売り始め、衣料品店は売り場が秋冬物に変わり、おせちの予約も見かけるようになり、なんだか時の流れと自分の感覚のずれが年々大きくなっているように感じます。時間はいつでも、だれにとっても同じものではありますが、それをどう感じるか、捉えるかは時代や環境によって変わることもあるようです。
さて、最近いろいろなご縁があって、様々な分野のAMユーザーやDXに詳しい方々とお話しする機会がありました。その中で、3Dプリンターをどう使っているか、何が使う前と変わったのかを伺ってみると、もちろん何かのモノは作られていますが、モノ自体よりも、その前後や周辺の変化や、ストーリーが興味深かったり、感心したりすることが多くありました。そこから、3Dプリンターがつくるのは、表面的には何かのモノではあるけれども、それ以外につくっている「モノ以外の〇〇」がいろいろあることに気づきました。
まずひとつめの〇〇は、ありきたりではありますが「時間」です。昔から、また今でも試作品を作る時間、また開発設計時間が3Dプリンターにより短縮、削減される、されたという話はよくあり、それは今までかけすぎていた時間やコストを減らすという捉えられ方をする方がほとんどでした。もちろん減らす効果はそれなりにあるのですが、逆に言うと減らした分だけの効果や利益しか得られないとも言えますし、昭和から平成の製造業の環境ではそれで十分でした。しかし、現在の製造企業が置かれている環境では、国際競争の中でまずニーズの変化が早まり、「いいものであればいつかは売れる」時代から、「売れるときに売らないと売れない」時代になっていること、一方で働く人の数と、その人が働ける時間が間違いなく減り、これからさらに減り続ける時代になっています。そうすると減らすというより積極的に時間をつくらなければ、競争はおろか、生き残りも左右するという現在においては、3Dプリンターは「時間」をつくるのに使う効果が高まります。そこで出来た時間は「減らす」時代より、本来人が価値を生むために有効に使う時間にすれば、昔よりはるかに高い価値をつくることになると思います。
ある講演で知ったことですが、中国ではSNSでの膨大な情報から「流行」を分析、その結果から新製品を3日で販売できる衣料メーカーがあったり、オンラインで製品企画を提示すると、コスト見積もりから実際の製造まで短期間で請け負う企業が見つかるサービスがあったり、これまでと桁違いの時間感が当たり前になっていて、それらはデジタルや通信が無ければ出来得なかったとのことでした。もちろん、全ての製造がそうなるわけではありませんが、3Dプリンターを含んだデジタルエンジニアリングでないと作り得ない、時間価値が大きくなることは世界的に広がる傾向だと考えています。
ふたつめの〇〇は「人」です。異なる日本のメーカーの方々から、偶然にも似たような話を伺うので、多くの製造企業で起きていてもおかしくないのですが、製品開発設計をされる方の中で、「前例や実績から離れた発想が出来ない」方が増えているようです。それは人だけでなく組織や経営の背景から、致し方ない傾向なのかもしれませんし、それが悪いばかりでもないのですが、どうも3Dプリンターが使えたとしても、結局従来の「カイゼン」レベルにしか考え方が変わらない例が良くあるそうです。一方で、3Dプリンターが使えることによって、AMの出来ること、出来ないことを理解し、従来の設計を見直すことで、既存品の仕様や機能について深いところまで「本当に今までこれで良かったのか」とか、「もしAが変わるとBやCがいらなくなる、または安い部品にできるのでは」とか、「性能やコストだけでなく、故障率や補修に大きな利点が出来るのでは」などと考えるようになる方もいらっしゃるそうです。また、技能技術継承の面でも、デジタルエンジニアリングの教育を受け、使い慣れている世代の方には、3Dプリンターによりまず見せる、体験させる、自分でもやってみることが有効とも聞くことがあります。これらの点から、3Dプリンターは「人」を作るとも言えると思います。
このように、時代、環境、人が変わることで、3Dプリンターがつくるモノ以外の〇〇も、時間、人だけには限らず、またその価値も変わるという視点は、これからも大事になると思いますし、シェアラボでもそういったことを少しでも多くお伝えしていきたいと思っています。
新刊書籍「BtoB製造業のコミュニケーション革命」のご紹介
自社の宣伝ではありますが、皆さんにもどこかでお役に立つのではないかと思い、9月4日に発売された新刊書籍をご紹介したいと思います。
「BtoB製造業のコミュニケーション革命」-顧客接点のデジタル化がもたらす未来-
出版元:東洋経済新報社
詳しくはこちらのウェブページをご覧ください。
著者はシェアラボを2019年に作り、育ててきた、弊社イントリックス株式会社の共同創業者であり代表取締役社長である氣賀 崇(きが たかし)です。20年以上にわたり、特に日本のBtoB製造企業のお客様と共に企業とお客様とのコミュニケーションのデジタル化に関わってきた経験から、日本の製造企業の課題とこれからあるべき姿を国内外実例と共にお伝えする内容です。私が読んだ感想としては、まず現状も課題も対策も、デジタルマニュファクチャリング、またはAMと共通点が多いことに驚きました。つまり、デジタルという道具を本当に、企業全体で活用して成果を得ようとすると、まず自社が持っているもの、自社の価値を掘り下げて見直し、言語化して関係者が共有することが大事であり、時間をかけてビルを建設するように、少しずつ作り、かつ継続してカイゼンしていくことが成功につながるということと読み取りました。一部3Dプリンティングにも触れています。もしご興味があり、お役にたてそうであればぜひお読みください。
CEO 来日講演 マークフォージドのトップが語った製造業の課題に対する使命と手段とは?
私が参加して書いた記事ですが、コロナ禍のせいもあり以前よりも海外メーカーのトップが日本のユーザーに自分の言葉で直接話す、対話するという機会が少なくなって残念だと思っていましたが、デジタルの時代であってもこのような対面の機会はメーカーにもユーザーにも大事だと改めて思いました。もちろん装置メーカーなので、機械や材料のアピールも大事ですが、企業としてユーザーが分かっている、または分かっていない課題に対し、何を提供する企業なのか、これからどの方向に向かっていくのかを簡潔な言葉にして示すことは、日本の企業にとってもますます大事になるとも気づかされたイベントでした。一方、言葉の壁は仕方ないのですが、このような機会に日本のユーザーの本当に求めていること、知りたいことをもっと直接伝えたほうが、お互いによりよくなるのにと、正直少し残念な思いも残りました。
ご出展、ご参加を予定されている方も多いかと思いますが、下記の通り開催が予定されています。
開催日:2024年9月26日(木) – 27日(金)
開催時間:10:00-17:00
会場:東京都立産業貿易センター 浜松町館
主催:メッセフランクフルト ジャパン(株)
※全ての来場者様は事前登録が必要。
公式URL:https://formnextforum.jp.messefrankfurt.com/tokyo/ja.html
シェアラボも会場内シェアラボブース(4-E002)で「3Dプリンター無料相談所」を開設し、私を含む編集メンバーが製造業の3Dプリンター活用のお悩みにお答えします。ぜひお立ち寄りください。
ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!