Formnext2024から見えるAM産業の課題と対策は?
Formnext2024が開催されました
早いもので2024年もあと1月を切りました。東京近辺は朝晩はそれなりに寒い日もありますが、日中は暖かい日も多く、先週末も地域の清掃に参加したら、すぐに暑くなって困りました。寒暖差に加え、マイコプラズマ感染症とやらも流行っているようで、穏やかな年の瀬とは簡単にいかないようですが、私自身含めそれぞれご自愛いただければと思います。
さて、先回のコラムでもお伝えしましたが、世界最大規模のAM産業専門展示会「Formnext 2024」がドイツ フランクフルトで11月19~22日に開催されました。私は行けませんでしたが、日本からも出展、見学で行かれた方も多かったようで、みなさんお疲れさまでした。コロナ禍の年には主催者がイベントステージの動画配信などもされ、日本からも見ることが出来ましたが、今年はおそらく「人と直接会う」ことに重きを置いたのか、動画で様子を知ることは出来ませんでした。主催者発表では、経済や政情の不安定にもかかわらず、トータルで864の出展者(内61%はドイツ国外)と34.404人(内48%はドイツ国外)の来場者があり、盛況だったとのことでした。
特に海外の出展企業やAMメディアからも多くの新製品、新ビジネスのニュースが配信され、ShareLabからも主なニュースをお届けしました。Formnext関連ニュース一覧はこちらをご覧ください。
Formnext2024から見えるAM産業の現状と課題は?
そのようなニュースや、現地に行かれた方から伺った情報を通して、世界的なAM産業の現状課題、またそれの対策について見えてきたことがあると思いますので、個人的な見方ではありますが、お伝えしたいと思います。
AMビジネスの起点と重点の変化
Formnextの会場は、数年前と比べメーカーの実機展示や大々的な新製品発表が減り、活用事例成形品展示が増え、また来場者と話したり、交流を深めるブース設計や交流懇談の催しが増えたとのことでした。このことから、AM産業でのビジネスが、メーカー側の新しい装置や材料から起きるより、ユーザー側の課題や需要と対話から起きるようになり、それに伴い「見せる、見る」展示会より「話す」展示会になったように見えます。また、これまでは各出展者どうしが「競争」する場であったのに対し、「協業」を発表したりブースでアピールする例が増えており、これも単純に3Dプリンターで「モノ」を作ることから、ビジネスや製造プロセスなど「コト」を作ることに重点が移っていると見られます。「コト」を作るにはユーザーだけでも、メーカー1社単独でも作るのは難しく、川上、川中、川下それぞれが連携することが必要で、そのニーズに応えようとする企業が増えていると考えています。また、会場の雰囲気も、以前のように投資家や起業家含めた大勢の人による「過剰な扇動や喧噪」から、落ち着いた雰囲気になったとのことで、かつてを知っている人には少し寂しい感じもあったようですが、出展者も来場者も地道にAMを続けてきた人々が集まる場になった点では、悪いことではないと思っています。
AMをリードするプレイヤーの変化
これまでは、欧米の3Dプリンター大企業が次々と製品や材料を開発発表する場であり、今後どこがリードしていくのかが話題の中心で、その競争がAM産業をリードしてきた感がありましたが、今年は規模縮小、また出展しなかった大企業があったりする半面、中国系企業のブースが急増したというニュースがありました。一方で、これまでは「業務用」と認識されていなかった大きさや価格帯の中小規模3Dプリンターメーカーの出展や、後仕上げ、工程自動化、ソフトウェア系の出展が注目されていたようで、このことから今はリードするプレイヤーがそれらに変わってきていることが伺えました。これも、これまでは「こんな形状、材料、大きさがプリントできます。さあ、何にでも使いましょう!」という「汎用・モノ先行企業」から、ユーザー側が「作りたい、こうしたい」に応える製品やサービスを提供する企業「特定・ニーズ対応企業」が市場をリードしつつある変化が起きているのではと考えています。
知的財産とセキュリティ重視の変化
公式な報道はなく、現場を見たり聞いたりした方からの情報なので詳細は省きますが、会期中会場内で知的財産権侵害をめぐる出来事が起きたとのことです。これはAM産業がこれまで急成長してきた間に表に出てこなかった、または軽視されていたかもしれない知的財産権について、AM産業の売り手も使い手も重視する流れへのきっかけになるかもしれません。同時に、デザインやデジタルデータ権利やセキュリティ管理も課題として増えてきたり、その対策の技術やツールも出てきており、AMだから特別ということはなく、当たり前にルールと機密を守り、信頼できる企業が選ばれ、成功していく産業でなければならないことは言うまでもありません。
課題と対策
このような変化は海外だけのことではなく、日本でも起きつつあると見たほうが良いと思います。AMの使い手、売り手それぞれに良い面悪い面両方ありますが、変化に気づかない、気づいても対処しないというのも良くないことでしょう。AM産業の変化による課題に対し有効な対策のひとつは、情報発信と対話だと考えています。まず売り手は、これまでのように製品性能だけの優位点の発信ではなく、どのような使い手に対し、どのような価値を、どのように提供できるのか、ユーザの「コトづくり」にどのような協業や連携で応えられるのかを「言語、可視化」して、いろいろな方法で伝えていくことが重要になるかと思います。使い手側も受け身での情報収集だけでなく、課題、希望などを正しく十分に伝え、対話を通して適切な売り手や製品を選んでいくことも大事です。
ご参考までですが、先日弊社イントリックス株式会社のウェブサイトで、「BtoB製造業は日本の産業界の大谷翔平。もっとビッグマネーと名声を手にしていい。ー黙して語らない日本のBtoB製造業ー」という対談記事を公開しました。この中で、「アメリカ人は精神論よりも物量、生産よりも流通(筆者注:仕組み)が好き」「日本人は質や道(どう)が好き」だけれども、これから両方できる方が良いという話題や、「客目線で物を見て、己の持つ価値に気づいて情報を出し、それに応じた顧客の反応に勇気を得る。その循環で誇りも生まれますし、『もっと稼いで投資して、その価値を維持しなければ』という危機感も生まれます。」という言葉は、上記の対策と通じると思いました。みなさんはこの変化と対策について、どのように考えられるでしょうか?
3Dプリント製シューズを取り扱う常設店舗が大阪にオープン
AMによる市販シューズの製造は国内外で次々と行われ、ShareLabニュースでも偶然3本連続でシューズのニュースをお伝えしました。そのうちの1つでしたが、ついに日本でも常設販売店舗が出来るとのことで、AM産業の変化を感じました。大阪でというところも、新しいものを面白がって受け入れる文化のある地域なので、ぴったりだなと思いました。万博開催も近いですし、海外からの観光客にも受けそうです。
ミズノ、スポーツ業界初!3Dプリンターで個人専用一体ソールを設計・製造「3D U-Fit」
同じくシューズのニュースで、こちらはAM製造だけでなく、足形状のスキャニングとデジタルデータからカスタマイズソールシューズがいよいよ一般消費者向けに市販されるとのことで、AMの黎明期から期待されていたことが現実になるという大きな変化だと思います。2025年4月1日から注文受付開始で、MIZUNO TOKYOの店舗のみで予約して足形計測から始めるとのことですし、なかなかのお値段なのですが、AM製造をソールだけにしたことは、実用機能とカラーを含めたデザイン、コストのバランスに企画開発の方が苦心された成果かと、勝手に想像しています。このような日本での挑戦が来年ももっと増えることを期待させる、年末の良いニュースでした。
ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!