建築設計を手掛ける名古屋発のベンチャー企業XENCE Architecture Studio(以下、XENCE[ゼンス])は、竹中工務店およびシモダフランジ株式会社と共同で開発されたWAAM方式金属3Dプリンターを活用し、未利用の森林資源と先端製造技術を融合した新たな建築モジュール「WOOD X NODE」の設計および施工を完了した。金属3Dプリントによって造形されたジョイントと未利用木材とを組み合わせ、地方の林業と建築の未来を接続する新しい建築の在り方を提案するものである。
目次
プロジェクトの概要
本実証プロジェクトでは、シモダフランジがオランダのMX3D社から導入したWAAM方式(金属ワイヤとアーク溶接を用いた積層造形)金属3Dプリンターを用い、竹中工務店との共同技術開発をベースに、XENCEが設計・施工を担った。特徴的なのは、単一部材の試作にとどまらず、複数の異素材から成る建築架構システムの全体設計とその実装にまで踏み込んだ点である。
ジョイント部材には、トポロジー最適化技術を活用し、材料効率に優れた形状と配置を実現。これにより、軽量かつ施工性に富む金属ジョイントを創出し、実際に木材と組み合わせて接合。構造体としての信頼性と施工性を両立させる設計思想が具現化された。
WAAM方式金属3Dプリンターの可能性
WAAM(Wire Arc Additive Manufacturing)方式は、溶接技術を応用した金属3Dプリンターであり、従来の粉末系AM技術と比べて造形速度や経済性に優れ、大型構造物への応用にも適している。建設業界でも、自由な形状の実現、省人化、省資源、省工程の観点から、こうした技術への期待は高まっている。

未利用木材の再価値化
建築に用いる木材には、三重県熊野市の製材業者である株式会社nojimokuが供給する「ミミ材」や「チップ材」など、通常であれば廃棄される副産材を活用した。これにより、未利用森林資源の再価値化と循環型社会の構築に貢献。金属3Dプリンターによるオーダーメイドなジョイント部材と地域木材との組み合わせは、画一的な建築の枠組みからの脱却と、地域性や多様性の回復を示唆する取り組みとなった。

木取りの例:製材時に角材がとれない周囲の、三日月形状部は廃棄される(出典:XENCE)


地域産業とのダイレクトな連携
デジタルファブリケーション技術、とりわけ3Dプリンターの活用は、地方の林業・製材業と建設産業とを直接結びつける新しい産業構造モデルを創出する可能性を持つ。本プロジェクトが提示する、ばらつきある素材の利用、小ロット対応の製造、少人数施工可能な構造体の提案は、従来相反していた「効率性」と「個別対応」を同時に実現する可能性を秘めている。


今後の展望
XENCEは今後も、金属3Dプリンター技術を活用した建築分野での応用を推進していく方針を示している。農村地域においては、既存産業からの副産物を建築材料として転用し、都市部においては、解体された古民家の柱材や梁材などの廃材を、構造的に最適なジョイントと組み合わせて再構成することで、再利用可能な構造体の設計・施工を行う構想である。
また、密集木造地域におけるシェルター構造の開発など、建築×林業×デジタルファブリケーションの三位一体によるサーキュラーエコノミーの実装を目指す。地方創生、SDGsへの貢献、産業構造改革の観点からも、本プロジェクトは先駆的な試みといえる。

現在は、パイロット建築や産業・公共施設への展開を視野に入れており、今後のさらなる発表が期待される。
シェアラボ編集部コメント
本プロジェクトは、建築分野における金属3Dプリンターの実用的活用例として、非常に意義深い取り組みである。特に注目すべきは、WAAM方式という造形スピードと経済性に優れた技術を、未利用森林資源と結びつけることで、建築資源の循環モデルを提示した点である。製材副産物の再活用やトポロジー最適化による構造部材の軽量化など、単なる技術デモにとどまらず、地域産業との連携・実装可能性を視野に入れていることも高く評価できる。
デジタルファブリケーションの発展が、従来の大量生産・標準化モデルとは異なる「地域に根ざした多様な建築」を可能にする時代が到来しつつある。XENCEの取り組みは、その変革の一端を明確に示すものと言えるだろう。
用語解説
| ■ WAAM(Wire Arc Additive Manufacturing) ワイヤ・アーク積層造形法。金属ワイヤを材料とし、アーク溶接の熱源を用いて金属を溶融・積層していく金属3Dプリント技術。粉末材料を使う方式と比較して、コストが低く、造形速度が速いことから、大型構造部材の製造に向いている。建築分野や造船、重工業などでの活用が期待されている。 |
| ■ トポロジー最適化 構造物の「形」を数学的に最適化する設計手法。荷重条件や材料特性をもとに、最小限の材料で最大の性能を発揮できる形状を自動的に導き出す。複雑な形状でも3Dプリンターでの造形が可能なため、AM(Additive Manufacturing:積層造形)との親和性が高い。 |
| ■ 金属3Dプリンター 金属素材を用いて、設計データから直接立体的な部品を造形する3Dプリンターのこと。粉末(PBF方式)、ワイヤー(WAAM方式)など材料やプロセスに応じて方式が分かれる。精密部品から大型構造物まで多様な応用が進んでいる。 |
| ■ デジタルファブリケーション デジタルデータを元に、加工機や3Dプリンターなどを用いてモノを製造する手法の総称。建築やプロダクトデザイン分野では、カスタム設計・製造や少量生産を可能にする手段として注目されている。 |
| ■ ミミ材・チップ材 製材工程で出る周辺部分の木材。通常は廃材やバイオマス燃料として扱われるが、今回のプロジェクトでは建築材料として再活用された。未利用資源の活用例として重要な位置づけとなる。 |
| ■ サーキュラーエコノミー(循環型経済) 資源を「採って、作って、捨てる」という従来の直線型経済から脱却し、リユース・リサイクル・再資源化を前提にした持続可能な経済システム。3Dプリンター技術は、その柔軟な設計・製造力を通じて、廃材の再利用や地域資源の価値化に貢献できる。 |
| ■ 建築架構システム 建築物を構成する骨組み・フレームの構造システム。異なる素材(例:金属と木材)を組み合わせるハイブリッド構造は、素材の特性を活かしながら、新しいデザインや機能性を追求する上で有効。 |
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