世界的に枯渇する砂資源と建設用3Dプリンターへの期待
「砂が不足している」といわれても日本の都市部に住んでいるとあまり実感がない。しかし世界の建設業界では砂が高価な資源として取引され、違法な砂資源の調達と販売を行うSand Mafia(サンド・マフィア)と呼ばれる違法な砂資源の取引業者が取引をおこなうブラックマーケットが国際的に暗躍する事態ともなっている。(上部画像は、Finiteプロジェクトサイトより引用)
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背景には世界的な建設ラッシュ
日本でも首都圏のタワーマンションや渋谷駅の再開発など、中長期にわたって都市部の再開発は続いているが、世界ではさらに著しい。1975年には人口1000万人を超える「メガシティ」と呼ばれる大規模な都市圏は世界でもわずか3つの都市圏に限られていた(東京、ニューヨーク、メキシコシティ)。
しかし、2015年の段階で、インド(ムンバイ、デリー、コルカタ)、中国(上海、広州)、ブラジル(サンパウロ)、バングラディッシュ(ダッカ)、インドネシア(ジャカルタ)、ナイジェリア(ラゴス)、パキスタン(カラチ)、アルゼンチン(ブエノスアイレス)、エジプト(カイロ)、フィリピン(マニラ)、ブラジル(リオデジャネイロ)、トルコ(イスタンブール)、ロシア(モスクワ)など世界各地で都市部への人口集積が進んでいる。
都市部に人口が集積すると当然建物は高層化する。現代的な高層ビル群にはコンクリートとガラスが多用されているが、こうした建設資材は砂を原料としている。この30年で砂の価値が激変するわけだ。そしてこの傾向は今後も変わるどころか、世界人口の増加と都市化の進展とともに今後も継続するトレンドだ。(2050年までに今よりも25億人も人口は増加する。)
砂漠の国が砂を買う。それも大量に。
水資源の枯渇と共に砂漠化が進む、という話もある。砂漠は有効に利用されない土地である印象がある。むしろ資源としての砂は増えていくものなのではないか、と思う方も多いだろう。
そうでなくとも、シンガポールなど国土が極端に狭い国はともかく、どこの国にも地面はあり、地面には土がある。各自自給できそうなものだ。たとえばドバイの高層ビルを建てるために、中東の砂漠の砂は使えないのか?結論はシンプルで、「使えないから世界中から輸入している」のだ。
長年風にさらされ、角が取れ小さく削れ丸くなった砂漠の砂は非常に美しい。しかし、粒が小さすぎ、丸すぎるため、建設用のコンクリートにも埋め立て用の土砂としても使えない。そのため、オーストラリアの土石業者がドバイに大量の土砂を輸出しているという。
埋め立てに適した土、建設資材としての細骨材に適した砂とそうでない砂
料理に使う塩コショウに種類があるように、砂や土にも専門的な分類がある。本来的にはコンクリートに適した砂は川砂と呼ばれ、粒の大きさは2.0mm程度までのものをいう。花崗岩などが水にさらされて粘土質が落ちて細かくなって角が取れているのが特徴だという。
こうした川砂の需要がひっ迫すると、供給が追い付かない。そこで山砂や海砂とよばれる種別の砂が代替で利用される。海砂には塩分や貝殻が細かくなったものが含まれ、鉄筋を腐食させやすいため本来は細骨材としては適さない為、塩を抜く工程を必要とするとされている。
勿論産地によって異なるのだろうが、例えばドバイ付近の砂漠の砂は粒の大きさが平均で0.5㎜と非常に小さく、角が取れ丸みを帯びている。強度面で適さないとのことだ。(昼夜の寒暖差により粒子がどんどん割れて小さくなっていくようだ)
3Dプリンターで砂漠の砂を造形できないか
日本語での情報が少ない状況ではあるが、「砂漠の砂」をつかって3Dプリンティングするというアプローチで研究を続けている取り組みを2つほど紹介したい。高層建築の資材としてすぐに検討できるものではないが、今後の発展性には期待できる取り組みだ。
太陽光で石英質の砂を溶融して造形
手作り感があふれる装置ではあるが、太陽光発電で稼働し、太陽光を巨大レンズで集める虫眼鏡式の熱源で砂を溶かしながら手動で砂を補充する「パウダーベッド方式」。動画はサハラ砂漠で撮影されたもののようだ。
サハラ砂漠の砂は、石英ガラスの材料である石英が成分の90%以上を占め、球形で粒子も細かい。石英は機械的強度、耐熱性、耐薬性に優れる素材なので熱に強い。しかし、ふんだんにある太陽と砂を使って積層造形してみようというのがこの取り組みだ。建設資材に使える量産性はないようだが、発展していけば、建設資材としての砂不足に光明が差すかもしれない。
生分解性のある素材と混ぜて3Dプリントで自由に造形する取り組みーFinite(イギリス)
ロンドンのインペリアルカレッジでの研究のようだが、チームメンバーに日本人も含まれている4人が取り組んでいるのが、このFinite。砂漠の砂に生分解性のある素材や接着剤を混ぜてコンクリート並みの強度に加工できるという。中核メンバーのサイトによると、3Dプリンティングで造形できるという(方式や造形に使った機種は明らかにされていない)
生産性、造形サイズ、強度の壁をどこまで越えられるか
もともと原材料としての砂は鉄などにくらべて、圧倒的に安く大量に消費される。採取設備を備え大量に販売すれば大量に売り上がるために「砂マフィア」も登場するほどの魅力がある資源でもある。
テクノロジーによる解決は価格に跳ね返る為、そうした需要増加や非合法な供給者との競争に打ち勝てるのかは、大量生産への対応や耐用年数、強度の壁、造形できるサイズの壁が存在する事は間違いないが、非常時に建物を高速で造形できる納期対応力や、建設コストに占める人件費を大きく抑えることができるといったメリットは非常に大きい。
今後も期待が高まる分野だ。
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。