マテリアライズ、Link3Dの買収に動く
ベルギー本社の3Dプリンティング企業Materialise(マテリアライズ)が、 積層造形ワークフローおよび製造実行システム(MES)企業であるLink3D Inc.を買収するオプションを取得したと発表した。
マテリアライズは3Dプリンターが造形を行う際の制御で世界的に大きなシェアをもつソフトウェア企業だが、近年はAM製造にかかわるソフトウェア領域全体にサービス範囲を広げ、クラウドベースでのサービス提供をロードマップとして発表していた。Link3DはAMに特化した製造管理システム(MES)で実績のあるソフトウェアベンチャーで、航空宇宙、 自動車、 コンシューマー、 医療、 エネルギーなどの主要な製造業でのアディティブ・マニュファクチャリング(AM)を推進する際の製造現場の管理を提供している。
今回の買収で、Materialiseは統合ソフトウェア・プラットフォームのクラウドサービスを提供するロードマップの実現を加速する構えで、Link3Dは、 既存の経営陣が引き続き経営を行うがマテリアライズは 年末までにオプションを行使する予定だという。
AMワークフローを見える化する重要性
欧米では、3Dプリンティングを利用した連続生産、大規模生産のケースが散見され始めた。実際に3Dプリンターによる製造プロセスを拡大する際には、既存の生産インフラとのオペレーションレベルでの統合が必要になる。当然管理会計にも接続する生産管理システムにもその範囲は及ぶ。
よく知られるように3Dプリンターはマスカスタマイゼーションと呼ばれる変種変量製造への取り組みに強みがあるため、本格的に運用を行うと、製造される部品や製品は多様化する。AM製造品は後加工を要したり、検査を既存ラインとは別の観点化も行う必要がある場合が多いため、生産状況や生産ロットごとの品質管理を行うためには、ワークフローと進捗管理を従来工法よりも細分化して管理していく必要がある。また部品の供給地域で製造し、物流コストや配送期間、在庫期間を圧縮することも導入効果として期待されるため、いままで生産を集約していた部品の製造が地理的にも分散化される可能性も高い。
こうした複雑な製造プロセスを、既存の製造管理システムへの追加改修で実現するよりも、外部システムとして切り出し、データ連携を図る方がコスト観点でも改修のための期間の観点でも優位性があるとして、導入が進んだのがLink3Dだった。
クラウド化をすすめるマテリアライズ
今回のマテリアライズによるLink3Dの買収のオプション取得は、 企業にクラウドベースの統合ソフトウェア・プラットフォームへのアクセスを提供する、同社のプラットフォーム戦略を加速させる効果が予想できる。デジタルトランスフォーメーションが盛んに叫ばれる中、パンデミックが発生する以前から管理のデジタル化、システム更新はすすんでいたが、COVID-19はこのトレンドを加速させたといわれている。
マテリアライズは、 eコマースおよびCRMソリューションを搭載したMagics Storefrontや、 3Dプリント部品の大量生産に必要なプロセスパラメータのチューニングを迅速化する直感的なオンラインプラットフォームであるProcess Tunerなど、 いくつかのクラウドベースのソフトウェアソリューションを発表している。
Link3Dは、 航空宇宙、 自動車、 医療、 その他競争が激しく規制の厳しい業界のクライアントに、 ミッションクリティカルなアプリケーションを提供しているが、マテリアライズによる買収によって、AMパーツの準備、 自動化、 生産最適化のためのMaterialise Magics 3Dプリントスイートにシームレスにアクセスできるだけでなく、 幅広い3Dプリンターへの接続と自動化されたワークフローの恩恵を受けることが期待できるということだ。
2025年の崖を超えて
経産省が「2025年の崖」と表現した、製造業を支える情報システムの老朽化への対応が、昨今のDXブームの一因となっている。生産設備に対応した生産管理システムの見直しは、現在多くの企業で取り組みが始まっているだろう。
試作や治具製造にとどまらず、装置性能の飛躍的向上にともなって、変種変量製造に3Dプリンターが利用される可能性が高まっているとはいえ、まだ概念実証段階で3Dプリンターでの製造が本格化していない企業では、3Dプリンターによる製造プロセスへの対応がシステム化要件からはずされる可能性が高い。いざ設備導入が進む際に、こうしたクラウド型サービスとの連携で補完されていく可能性が高い。今後も注視していくべき分野だろう。
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。