製造業各社に3Dプリンターは着実に導入されているが、使われ方は各社各様。他社はどんな風に使っているのか気になる方も多いだろう。そこでシェアラボ編集部では、Formlabs社のアジアNo.1セラーとして年間数百社に3Dプリンターを販売するだけではなく、自社でも設計支援や受託造形を行うYOKOITO社の協力で、実際に3Dプリンターを利用しているリアルユーザーのもとに伺い、活用状況を取材した。
今回応対いただけたのは、兵庫県で治具製造に取り組むALTER TECH株式会社と東大阪で試作開発を行うエムトピア社だ。 (紙面では語り切れないALTER TECHの取り組みは6月25日開催の無料ウェビナーでご紹介を予定している。乞うご期待!)
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ALTER TECH 美崎工場長が語る3Dプリンター導入の決断
兵庫県尼崎に拠点を置くALTER TECHは、大手カメラメーカーの高難易度の治具を一手に引き受ける凄腕の切削加工業者だった。過去形なのは、切削加工に加えて数年前から樹脂3Dプリンターに取り組み、大きく業務の幅を広げている最中だからだ。(下写真はALTER TECHインスタグラムより)

現場で3Dプリンター活用を推進するのはALTER TECHの美崎工場長だ。
「うちの父が社長なんですが、作業中に手や指を欠損してましてね。僕も警察官だったんですけど、訓練中に倒れてこの道に入った経緯があるんです。家業に入るとき父に言われました。『自分がケガしても倒れても仕事できるように考えろ』。自分なりに自動化に取り組む指針になっているような気がします」(美崎工場長)
加工中に手に大けがを負った父から言われた言葉を胸に、家業を引き継いで15年。先のことを見据えて投資を行い、DMG森精機やMAKINOのハイエンド工作機械を導入するなど、早くから自動化に取り組んできた。
切削加工で揺るぎないポジションの確立
着実に技術を身につけながら装置を導入し、乗りこなす中で、大手カメラメーカーの治具製造を一手に引き受ける重要なパートナー企業として、揺るがぬポジションを築き上げるに至る。
「ぼく、勝手に海外旅行行けないんです。取引先にお伺い立てて、許可もらわないと。うちでしか作ってないものがあるんで、お客さんとそういう契約になっているんですね」と微笑む。
「こんなん出てきたら仕事なくなるやんか」を逆手に
こうして着実に実績を積み上げてきた美崎工場長だが、数年前メディアで目にした3Dプリンターの姿に衝撃を受けたという。

「こんなん出てきたら仕事なくなる、と思いました。今これができるんだったら、きっとアレもコレもできる。それが今日ボタン押して明日にはできてる。悪夢です。自分の仕事、かなりなくなるぞと。3Dプリンターが自分の仕事を取ってしまうと怖くなりました」
3Dプリンターで納期を3日削減!脅威から武器への転換
しかし、よくよく考えてみれば、この3Dプリンターは自社でも導入可能な設備だ。導入すれば自社でも海外の先進的なモノづくりを行っている企業と同じものが作れる。「工作機械に比べれば価格帯も手が出しやすいこともあって、補助金なども活用して、すぐに導入しよう。早いほうがいいと頭を切り替えました」(美崎工場長)
そして3Dプリンターに取り組みはじめた美崎氏だが、FormlabsのFuse1に惚れ込んだという。
「ナイロン12でちゃんとモノが作れる。造形したものに、自分で穴開けたり割って強度を調べました。切削もしました。中までちゃんと焼いてある。これは使えると思いました。導入してからは角度を少しずつ変えて、どういう仕上がりになるか試しながら、癖を割り出していきました。この形状でこの角度だとこうゆがみが出る。なら別の角度では?別の位置に配置したら?いろいろ触っていって、事前に3Dモデルをこう変えておけば大丈夫など、あたりをつけていきました。こんな形状の部品はこう作れば大丈夫とわかるようになって、これで納期を3日は削れると手ごたえが持てました」
3Dプリンターが案件を連れてくる!~2号機導入までに成長~

こうした試行錯誤を通じて3Dプリンターでの造形の勘所をものにした美崎工場長。サンプルを出入りの商社や取引先に見せるうちに、「こんな形状の部品はできないか?」「こんなことに困っているんだけど」という相談が舞い込むようになったという。(写真はALTER TECHインスタグラムより。作業中に手を負傷した社長のために開発した片手でスマホが使える自助具。機動性の高いモノづくりを実感。)
ちょうど取材当日はFuseの2号機導入の日だった。相談が案件となり、装置がもう一台必要になる程となった。3Dプリンターへの設備投資がプラスのサイクルとして回り始めているのだ。
3Dプリンター活用のヒントは?取材の続きはウェビナーで一挙ご紹介
しかし、もちろん順風満帆だったわけではない。導入時に装置の原因不明の初期不良に悩まされるなどの苦難があった。
シェアラボ編集部では、YOKOITO社の協力のもと、誌面では書ききれない美崎工場長の生の声を紹介するウェビナーを開催する。装置立ち上げの苦労をどう乗り切ったか、3Dプリンターの買い時は?、買わないほうがいい場合って?、事業として成長させるために徹底すべきことは?など経験者に聞いた生の声をご紹介していこうと思う。当日はもう一社エムトピア社の取り組みもご紹介予定だ。無料のこの機会をぜひ活かして自社の活用検討の参考にしていただきたい。
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。