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3Dプリンターを活用したプレキャスト部材の擁壁工事への適用 ― 株式会社大林組、日本ヒューム株式会社

3Dプリンターを活用したプレキャスト部材(赤枠)。

株式会社大林組(東京都港区、以下、大林組)は、日本ヒューム株式会社(東京都港区、以下、日本ヒューム社)と共同で、2024年7月に新丸山ダム建設工事(岐阜県加茂郡八百津町、可児郡御嵩町)における仮設工事用管理施設の擁壁に、規格品と3Dプリンターで製作したプレキャスト部材を採用した。この工事は国土交通省中部地方整備局・新丸山ダム工事事務所が発注し、大林組を代表者とする共同企業体(JV)が施工を担当したものである。これにより、擁壁工事の完全プレキャスト化が実現した。(上部画像は3Dプリンターを活用したプレキャスト部材(赤枠)。出典:大林組)

日本ヒューム社の概要

日本ヒューム社は、1919年に創業したコンクリート製品の総合メーカーである。主にヒューム管やプレキャストコンクリート製品を製造し、上下水道、道路、橋梁、港湾などの社会基盤整備に貢献している。独自の技術開発力と製造ノウハウを活かし、高品質かつ耐久性に優れた製品を提供。さらに、環境配慮型製品の開発や、建設業界の生産性向上を目指した新技術の導入にも注力。持続可能な社会の実現に向けて、多様なインフラ事業を展開している。

3Dプリンター技術で進化するプレキャスト工法の課題解決と活用促進

建設業界では、新規入職者の減少や就労者の高齢化に伴う担い手不足、さらには長時間労働を含む労働環境の改善といった課題が山積している。こうした中、建設工事におけるプレキャスト化は、工期短縮や品質確保、省人化といった効果が期待され、有効な手段とされている。国土交通省が提唱するi-Construction 2.0においても、プレキャスト工法の活用は重要施策の一つとして位置づけられている。

プレキャスト工法は、規格化された製品を大量に使用する場合には、量産化によるコスト削減が可能であり、効果的な手法である。しかし、特殊な形状を伴う場合、専用の型枠製作に多大な時間とコストを要するため、必ずしも効率的ではない。このため、特殊形状部分については、建設現場内で型枠を製作しコンクリートを打設する方法が一般的であったが、これには生産性の課題があった。

この問題を解決するため、大林組はこれまで培ってきた建設用3Dプリンター技術と、日本ヒュームが有するプレキャスト製品の生産力を融合させ、3Dプリンターを活用した土木構造物のプレキャスト製作を開始した。

大林組の建設用3Dプリンターにおける取り組み

内容
2014研究開発開始
20173Dプリンター用モルタルの開発小規模部材(アーチ橋)を製造
2019スリムクリート®を使用し引張力を強化
大型シェル型ベンチを製造
2022国内初の大臣認定を取得した3Dプリンター建設物「3dpod®」を建設
2023大型構造物(潜水突堤の一部)への適用
TLP型浮体式洋上風力発電施設に用いるコンクリート浮体の模型を製作

3Dプリンター活用で実現した擁壁工事のフルプレキャスト化と工期短縮

新丸山ダム建設工事における仮設の工事用管理施設で、擁壁のフルプレキャスト化を実現した。擁壁の直線部には規格化されたプレキャスト部材を使用し、規格化されていない隅角部3カ所には建設用3Dプリンターを活用したプレキャスト部材を適用した。2024年7月にはすべての擁壁設置が完了している。

専用の鋼製型枠を用いる従来のプレキャスト部材と比較し、3Dプリンターを活用したプレキャスト部材では、型枠製作から現場施工までの工程を約30%短縮できるほか、コストを約5%削減する効果がある。さらに、特殊性の高い部材では一層のコスト削減が期待される。

また、建設現場内で型枠を製作しコンクリートを打設する従来手法と比べると、現場施工にかかる日数は約20日からわずか1.5日に短縮され、工期を約90%削減することに成功した。

3Dプリンターを活用したプレキャスト部材の製作工程[隅角部]
3Dプリンターを活用したプレキャスト部材の製作工程[隅角部](出典:大林組)
埋設型枠プリント状況
埋設型枠プリント状況(出典:大林組)

3Dプリンター活用で目指すダム堤体工事のフルプレキャスト化と生産性向上

新丸山ダム建設工事では、2025年度以降に着工予定のダム堤体工事において、堤体内部の監査廊のフルプレキャスト化を実現する計画を検討している。今回の取り組みと同様に、工程短縮が期待できる箇所には建設用3Dプリンターで製作したプレキャスト部材を適用し、プレキャスト化による現場の生産性向上を目指す。

ダム堤体内の監査廊イメージ[青線部]
ダム堤体内の監査廊イメージ[青線部](出典:大林組)

大林組は、本取り組みで得られた知見を基に、さらなる多様な構造物への3Dプリンター活用を進める方針である。これにより、土木構造物のフルプレキャスト化を推進し、建設業界の生産性向上と安全・安心なインフラ整備に寄与していく。

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