日本初、3Dプリンター×プレハブのハイブリッド建築が静岡に登場 ― 百年住宅

2025年5月12日

静岡県静岡市駿河区において、百年住宅株式会社(静岡県駿河区、以下、百年住宅)は、建築用3Dプリンター技術とプレハブ建築のWPC(Wall Precast Concrete)工法を融合させた、日本初のハイブリッド建築物を開発・施工した。2025年2月、SBSマイホームセンター静岡展示場(静岡県静岡市駿河区)に同手法を活用したトイレ建屋が完成し、建設技術の新たな可能性を示した。(上部画像はSBSマイホームセンター静岡展示場に完成したトイレ建屋。出典:百年住宅)

背景と課題

近年、日本各地で地震や台風、豪雨、土砂災害といった自然災害が相次いで発生しており、住まいに対する安全性や耐久性の重要性が一層高まっている。こうした背景から、コンクリート住宅のような強固な構造物が強く求められているが、従来の鉄筋コンクリート(RC)造は、施工に熟練した職人を必要とし、資材の価格高騰や工期の長期化といった要因から、小規模な建築物への導入が進んでいないのが現状である。

このような課題を克服すべく、近年は工場で製造されたプレキャストコンクリート部材を現場で組み立てるWPC(Wall Precast Concrete)工法が注目されている。WPC工法は、施工の効率化や品質の安定化に優れる反面、自由な意匠設計には制約があり、柔軟なデザインへの対応が難しいという問題を抱えていた。

そこで、百年住宅は建設用3Dプリンターの技術をWPC工法に統合し、従来の課題を解決するとともに、意匠性と施工性を兼ね備えたまったく新しい建築手法として「ハイブリッド建築」の開発に着手した。半世紀以上にわたり培ってきたプレキャストコンクリートパネルの製造技術を基盤に、3Dプリンター建築において先進的な取り組みを行うセレンディクス株式会社(兵庫県西宮市)と連携。両社によるオープンイノベーションの取り組みから生まれたのが、今回のハイブリッド建築である。

3Dプリンター出力特有の積層模様
3Dプリンター出力特有の積層模様。(出典:百年住宅)
自由度の高いデザイン再現が3D出力の特徴
自由度の高いデザイン再現が3D出力の特徴。(出典:百年住宅)

ハイブリッド建築の構造と技術的特長

前述した通り、今回の公衆トイレに採用された構造躯体は、PCパネル部材を現場で組み立てるWPC工法によって構築されたものであるが、その後、構造体全体を包み込むようにして、意匠性を持たせた壁部材を建築用3Dプリンターにより製作し、外装として設置している。これにより、従来の鉄筋コンクリート造では困難とされてきた円形や曲線、複雑な凹凸表現といったデザインが可能となった。
使用された部材は、すべて愛知県小牧市にある百年住宅小牧工場で製造されたもので、特に3Dプリンターで製作された部材は13種類に分類されており、設計に応じて最適化されている。また、各部材は中空構造を採用しており、軽量化が図られるとともに、大型トラックによる効率的な輸送が可能となっている。
現地での施工においては、各部材を組み立てたのち、中空部分にコンクリートと鉄筋を挿入し、内部から構造的に連結させる手法が取られている。これにより、デザイン性と構造強度の双方を両立させることが実現された。

3Dプリンターで出力後の各部材
3Dプリンターで出力後の各部材(出典:百年住宅)
大型トラックにて容易に運搬が可能
大型トラックにて容易に運搬が可能(出典:百年住宅)

今回のハイブリッド工法では、構造躯体の組立工期が従来の鉄筋コンクリート構造と比較して約4分の1にまで短縮されている。この大幅な工期短縮は、施工効率の向上だけでなく、建設業界が直面している深刻な職人不足や、それに伴う人件費の高騰といった課題の解消にも寄与するものである。
さらに、本工法は高い耐震性と耐久性を確保しており、安全性を損なうことなく効率的な施工を実現している点が大きな特長である。そのため、住宅をはじめとした多様な建築物への展開が見込まれており、今後の建設分野における有力な選択肢となる。
加えて、設計面においても将来的な大地震への備えとして十分な耐性を持ち、国が推進する住宅ストック活用政策にも適応可能な仕様となっている。これにより、災害対策と住宅資産の有効活用の両面において貢献が期待される建築手法である。

組立工期は1/4程度に短縮される
組立工期は1/4程度に短縮される。(出典:百年住宅)
中空部分へコンクリートと鉄筋を差し込み連結させる
中空部分へコンクリートと鉄筋を差し込み連結させる。(出典:百年住宅)

採用された3Dプリンターとその仕様

本プロジェクトで採用された3Dプリンターは、オランダTAM社製のアーム式プリンターである。モルタルに独自の添加剤を加えた専用材料を使用し、3Dデータに基づいて自動的に部材を出力する仕組みだ。通常は2名体制で部材の製造が可能で、作業の省力化が図られている。

建築用3Dプリンターでの出力の様子
建築用3Dプリンターでの出力の様子(出典:百年住宅)

他の3Dプリンター建築との違い

本ハイブリッド工法は、次のような点で他の3Dプリンター建築と一線を画している。

  • 居住部となる構造躯体の安全性・耐久性は、百年住宅による100年保証付き。
  • 構造部材も工場製造のため、品質が安定し、施工期間が短い。
  • コンクリート造であるため、火災に対しても強い。
  • 建築確認申請の取得が比較的容易。

このように、意匠性と構造性能の両立を可能にしたハイブリッド建築は、今後の災害対応住宅や住宅ストック政策において、重要な選択肢となる可能性を秘めている。

ハイブリッド建築が切り拓く建設業の未来

本ハイブリッド建築技術は、意匠の自由度と構造性能を両立し、建設期間や人員を大幅に削減できる点で、今後の住宅・公共建築における有望な選択肢となる。特に自然災害が頻発する日本において、耐震・耐久性を備えた住宅需要は今後も高まる見通しであり、本工法はそのニーズに的確に応える。また、3Dプリンター技術の進化に伴い、設計の柔軟性や製造効率がさらに向上すれば、建築業界全体の構造改革につながる可能性もある。今後は法制度との整合性や量産体制の構築がカギとなり、地方自治体や民間との連携による実証・展開が期待される。

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