培養肉を用いてチキンナゲットを生産 ― Matrix F.T.
米オハイオ州のスタートアップMatrix F.T.は、培養肉からチキンナゲットを作ることに成功した。培養肉でのチキンナゲット生産製は、Matrix F.T.の強みである足場技術やマイクロキャリア技術の実証実験として行われた。
食料不足の解決が期待される「培養肉」とは
培養肉とは、動物の細胞を培養して作られた「代替肉」のことである。
可食部の細胞のみを取り出して対外培養することで、動物の命を犠牲にせずに済む。また、生産効率も良いため、世界的な食糧不足を解決するために、さまざまな企業が培養肉の開発に取り組んでいる。
細胞培養には、培養槽の中で組織を浮遊させる「浮遊培養」と、壁面に組織を接着させる「接着培養」の2種類がある。浮遊培養は壁面から細胞を剥がすプロセスが必要ないため、組織の運搬などに有利だ。一方、接着培養は細胞が成長しやすいため、大量生産に向いている。
食肉生産にあたってどちらの方が有利なのかは、未だ結論の出ていない問題である。
培養肉からチキンナゲットを作ることに成功
米オハイオ州に本社を置くMatrix F.T.（Matrix Food Technology）は、培養肉からチキンナゲットを生産することに成功した。
今回のチキンナゲットの生産で用いられたのが、「足場」と「マイクロキャリア」の技術だ。
ここで言う足場とは、接着培養において細胞成長の土台となる機材のことだ。Matrix F.T.では、食品応用のための安全な足場の開発や、細胞の成長方向を制御する表面改質などの研究に取り組んでいる。
マイクロキャリアとは、足場技術を浮遊培養に応用させ、浮遊培養における細胞の成長を促す技術のことを指す。
数百μmの球状構造を持つマイクロキャリアには無数の穴が開いており、大きな比表面積を持つ。細胞がマイクロキャリアに付着するとマイクロキャリアを土台として効率的に成長が進み、タイムパフォーマンスを高めることが可能だ。マイクロキャリアはそれぞれが独立して浮遊しているため、組織の運搬にも支障は出ない。
Matrix F.T.のマイクロキャリアはビーズ状のみならず繊維状に成型することもでき、サイズも100~800μmと自在に調整できる。その原料としてもさまざまな植物を検討し、種類を増やしてきた。
培養細胞を使った食肉生産で重要になるのは、細胞が集まってできる「組織」の構造制御だ。培養肉の場合、「筋細胞と脂肪の比率」や「筋細胞組織の形状」が食感を決める。
また、組織は一定以上のサイズを超えると内部で栄養を受け取れなくなった細胞から死滅するため、ある程度のサイズにした後、運搬して最終製品に成型する必要がある。
これらの「触感」「運搬・成型」の課題については、各社それぞれに研究開発を行っている。
今回のチキンナゲット作製の手順としては、まず、マイクロキャリアで細胞を十分に増殖させ、その後足場上に細胞を移す。足場上でさらに細胞を増殖させ、後に分化（※1）させることで複雑な組織構造を形成した。
完成した組織構造に植物ベースの調味料を混合させ、パン粉をまぶして揚げればチキンナゲットの完成だ。
Matrix F.T.に筋芽細胞を提供したGeorgetown大学のHeidi Coia 氏は以下のようにコメントしている。
「風味、食感ともに素晴らしいものでした。今回の例では、今後市場に投入されるであろう細胞由来食品に対し、私たちの製品がどのように貢献できるかを示すことができました。小さな例に過ぎませんが、嬉しく思います。」
（※1）分化：発生初期の胚細胞が筋細胞、神経細胞、上皮細胞等の特定の機能を持った細胞へ非可逆的に変化する現象。
培養肉の開発事例については過去の記事でも取り上げているので、こちらもあわせてご覧いただきたい。
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