神奈川県綾瀬市に本社を構える株式会社日南(以下、日南社)と、東京都港区に本社を置くミライズウェルメディカルグループ・株式会社メディデント(以下、メディデント社)は、世界初の多素材・フルカラーによる超精密3D顔面医療モデル『3D Live Clone Face Model』のプロトタイプを共同開発し、発表した。この画期的な医療モデルは、以前、米国スタンフォード大学にて正式発表された際には、医療・教育・テクノロジー各分野の関係者が集結し、大きな注目を浴びた。(上部画像は日南社、メディデント社のプレスリリースより。左から富田大介、Don Cameron教授、Endo Giichi 、スタンフォード大学にて。出典:日南社、メディデント社)
目次
“生きた顔”を再現:0.02mm精度と出血機能を備えた次世代3D医療モデル
本モデルの最大の特徴は、個人の顔面データをもとに、硬組織である骨から柔らかい皮膚に至るまでを、0.02mmという極めて高精度で再現している点にある。さらに、今後はポンプと連動した循環システムを導入することで、切開時に出血を伴い、かつ体温に近い温感を持たせることが可能となる設計が進められている。
これにより、医学生や若手医師が実際の手術に近い環境下でトレーニングを行えるようになり、安全かつ高品質な医療の提供に寄与することが期待されている。本モデルは、将来の医療人材の育成や外科的技能の向上に大きく貢献し得る技術として、今後の展開が注目される。


なぜ今、“超リアル”な医療モデルが求められているのか
外科医療の現場においては、医師の経験と技術が患者の治療成績や予後に直結する。しかしながら、若手医師が高度かつ実践的な外科手技を学ぶ機会は依然として限られているのが実情である。既存のトレーニング手段である一般的な樹脂模型や献体では、実際の臨床に近い複雑な状況を忠実に再現することが困難であった。
こうした課題に対応するために開発されたのが、『3D Live Clone Face Model』である。本モデルは、臨床現場に即したリアリティを追求し、若手医師の技能向上と安全な医療提供体制の構築を支援するための新たなトレーニング基盤として位置付けられている。
モデルには精密なセンサーが搭載されており、切開の位置、深さ、加わる圧力といった手技の要素をデジタルデータとして記録・分析できる。本モデルを用いた高度な手術シミュレーションを繰り返し実施することで、術者の技術的熟練度のみならず、状況判断能力、さらにはチーム医療における連携体制の強化が図られるということである。
なぜ最も困難な「顔」から開発に着手したのか
『3D Live Clone Face Model』は、診断、手術トレーニング、医療教育、患者説明、さらには献体の代替としての利用に至るまで、従来の医療現場や教育の在り方を根本から変革し得る、新たなスタンダードを提示するモデルである。その初手として「顔」という極めて複雑な部位を選択した背景には、明確な理由がある。
顔面は、歯牙、歯肉、舌、粘膜、骨、筋肉、神経、血管、眼球、耳、脳、咬合といった多層構造が、極めて精密かつ高密度に集積する部位である。これらの複雑な要素を0.02ミリメートル単位の精度で再現し、多素材かつフルカラーで一体成形することは、技術的にも極めて高難度とされてきた。
この挑戦にあえて正面から取り組んだのが、本プロジェクトの発案者であり顎顔面外科の専門医である富田大介氏である。彼は、顔を選ぶこと自体が技術力の真価を問う試金石であり、成功すれば応用の幅が一気に拡がると確信していた。実際、その完成度は医科・歯科の領域を越え、国際的な教育・臨床現場への展開を見据えたものであり、本モデルの可能性を強く示唆するものである。
『3D Live Clone Face Model』を支える三つの中核技術
1.【超精密実体モデル】0.02mm単位の再現性を可能にした日本の技術力
本モデルでは、患者本人のCTやMRI、三次元スキャン等の医療画像データを統合し、マルチマテリアル対応の最先端3Dプリンターによって出力を行っている。骨、皮膚、歯牙、歯肉、舌、軟骨といった多様な組織において、それぞれの硬さ・柔らかさといった物性を忠実に再現し、一体成形を実現した。この極めて高度な造形精度は、日本の精密加工分野で培われた技術の蓄積、特に株式会社日南が有する“ものづくり”の粋によって初めて実現可能となったものである。
2.【バイオニック技術】出血し、体温を有し、感覚に反応する“生きた模型”の実現へ
従来の教育用模型の枠を超え、本モデルはバイオニック(生命模倣)技術の応用により、よりリアルな臨床環境を再現することを志向している。将来的には、血管構造内部に疑似血液を循環させることで、切開時に出血を伴う反応を実装し、血圧変化や麻酔時の生理応答までも再現可能とする構想が進行中である。さらに、内部に組み込まれたセンサー群により、術者の手技を詳細に記録し、モデル全体を人体と同様の約37℃に保温することで、臨場感あふれる没入型トレーニング体験を提供する。
3.【XR・AI融合】触覚と可視情報を統合した次世代医療教育環境
本プロジェクトでは、医療分野におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の第一人者である富田大介氏の主導により、XR(クロスリアリティ)とAI技術を統合する構想が進められている。XRゴーグルを用いることで、術者は実際にモデルに触れながら、皮下に存在する血管や神経の立体構造を透視することが可能となる。加えて、AIがリアルタイムに手技の動きを解析し、即時にフィードバックを返す機能も備える予定である。このように、構造理解・感覚訓練・動作評価を一体化した学習環境により、従来の教育概念を根底から変える革新的な医療教育が現実のものとなる。
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