3Dプリントされたチタン骨格を胸部に埋め込み、胸骨と肋骨を再建
インドのManipal病院で、チタン骨格のインプラント手術が行われた。チタン骨格は、がん腫瘍の摘出に伴って失われた胸骨と肋骨の代替となり、術後のスムーズな回復に大きく貢献した。
今回は医療業界で活躍する「チタン×3Dプリンター」の活用事例をご紹介する。
目次
症例:胸部に生じた巨大ながん腫瘍
バングラデシュに住む 50歳の患者の胸部には、稀で複雑な形状ながん腫瘍が発生していた。
心臓と肺の近くに生じた15 cm×12.7cm もの巨大ながん腫瘍は、胸骨と肋骨にも悪影響を与える。腫瘍の圧迫によって胸骨と肋骨が破壊されていたのだ。
例えがん切除が成功しても、胸骨と肋骨を固定することはできない。これでは正常な呼吸はできず、以後、将来に渡って、人工呼吸器が必要となる。
インドの Manipal病院は、この患者に対し、チタン骨格を胸骨と肋骨の代替としてインプラントする手術を提案し、それを実行した。
胸骨と肋骨を再現するチタンインプラント
チタン骨格作製にあたって、まず最初に、CTスキャンされた患者の体型に合わせて、3Dモデルが作られた。腫瘍を切除することで生じるスペースや、そのまま残る部分との接続も考慮する必要がある。設計段階では、技術者と腫瘍外科チーム、及び形成外科チームで複数の話し合いの場が設けられた。
チタンは金属の中では比較的軽いとは言っても、骨の代替として今回のようなサイズの骨格を作ると、通常5kg ほどの重量になる。患者が胸に入れて日常生活を送るには重すぎる重量だ。
チームは、ハニカム構造を利用して、必要な強度を残しつつ、軽量化に取り組んだ。最終的に作製されたチタン骨格の重量は250g 未満の軽量化に成功。
がんの摘出と、チタン骨格のインプラントは無事成功し、患者は人工呼吸器を使うことなく、正常な呼吸機能を回復することに成功した。
術後のスムーズな回復へ寄与
特筆すべきは、手術後のスムーズな回復だ。患者は、術後の合併症もなく、正常に食事を摂り、呼吸し、歩行も行っていたと報告されている。
一般に、インプラント手術では、埋め込まれた物体に対し人体が拒絶を示すことが懸念される。これは人体の有する免疫反応によるものだ。しかし、今回の手術では、こうした拒絶反応は見られなかった。
また、インプラントされた骨格と周囲の骨組織との間で不均一に力が加わり、骨粗鬆症や骨折が起きることが危惧されるが、そうした症状も起きていない。人体や骨格についての理解、3Dプリントによる設計の自由度によって、患者に合ったチタン骨格を作り上げたことが成功の要因だろう。
Manipal病院の会長である Somashekhar博士 は、今回の手術成功を、「医療と技術を組み合わせた完璧な例だ」と評した。また、次のようにも述べている。
「この成功は、形成外科、がん治療、3Dプリントに関するそれぞれの機関が、上手く連携したことで成し遂げることができたものだ。また、この成功は、医療分野における専門家達の協力を加速させるだろう。そして、世界中で苦しむ何百万人ものがん患者に希望を与えるものだ。」
3Dプリントを活用した医療分野は、近年急速に発展している。これまで治療不可能だった症例でも、救われる人が増えた。同時に、治療費削減や医療資源の節約にも寄与している。医療分野においては、3Dプリント技術の発展が、これまで以上に期待されている。
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