食品廃棄物を再生するAI搭載3Dプリンター ― FOODres.AI Printer

2025年9月1日
3D printer mock-up

食品廃棄物を活用し、家庭で日常的に利用できるクラフト品へと生まれ変わらせる革新的なデスクトップ型3Dプリンター「FOODres.AI Printer」が、国際的な注目を集めている。同製品は、食品残渣や有機廃棄物を素材に変え、誰もが簡単に持続可能なものづくりを体験できる装置である。2025年には「iF Design Award」を受賞し、さらに「A’ Design Award 2024–2025」では最高位のプラチナ賞を獲得した。環境問題と創造的活動を融合させた本プロジェクトは、未来の暮らし方を変える可能性を秘めている。(上部画像はbirucao.comより。出典:Biru Cao 氏、Yiqing Wang 氏)

MIT発の研究支援から生まれた食品廃棄物アップサイクルの挑戦

開発を主導したのは、Biru Cao 氏とYiqing Wang 氏である。プロジェクトはMIT IDEASプログラムの研究支援を受けて始動した。米国では家庭で消費される食品が多く廃棄されているとされ、その大部分が埋立地やコンポストに送られている。FOODres.AI Printerは、その廃棄物を新たなクラフト品へと即座に転換する手段を提供する。食品を「捨てるもの」ではなく「資源」として扱う発想を、家庭のレベルにまで引き寄せた点が画期的である。

印刷プロセス
印刷プロセス(出典:Biru Cao 氏、Yiqing Wang 氏)

ワンクリックで誰でも簡単、食品廃棄物がクラフト品に変身

同プリンターの特徴は操作の簡便さにある。ユーザーは食品残渣を投入し、希望する形状やサイズを選択するだけでよい。内部に搭載された自ら訓練した物体検出モデルが、スマートフォンのカメラを通じて材料を識別し、印刷可能かどうかを判定する。さらに、内蔵の材料処理モジュールが廃棄物を天然添加物と混合し、ペースト状のバイオプラスチックへと変換する。この材料は自動加熱・補充機能を備えたエクストルーダーに送られ、3軸システムによって造形される。結果として、カップホルダー、コースター、装飾品といった日用品から、ユーザー自身が定義したカスタムデザインまで幅広く製作できる。

初心者から上級者まで支えるモバイルアプリの柔軟性

専用のモバイルアプリも重要な役割を担う。アプリには内蔵デザインライブラリが用意されており、初心者はその中から好みのオブジェクトを選択するだけで製作可能である。インターフェースは初心者に優しく設計されており、材料の検出からオブジェクト選択、印刷までの流れを段階的にガイドする。一方で上級者向けには、複数の材料を混ぜ合わせて色や質感を調整する機能も備わっている。AIによる補正機能が組み込まれているため、品質を犠牲にすることなく多彩な表現が可能になる。この柔軟性により、3Dプリンティングの経験が全くない人から、創作に慣れたユーザーまで幅広い層が利用できる。

ユーザーインターフェース
ユーザーインターフェース(出典:Biru Cao 氏、Yiqing Wang 氏)

家庭に広がる即時的アップサイクルの価値

FOODres.AI Printerの意義は技術面だけにとどまらない。食品廃棄物を「即時的にアップサイクルする」という発想を家庭に持ち込み、持続可能な行動を日常の中で誰もが実践できる仕組みを提示している点に価値がある。従来のリサイクルやコンポストは、処理のための時間や設備を必要としたが、このプリンターは家庭で直ちに実行可能であり、行動と成果を結び付ける。利用者は単なる廃棄ではなく「新しいものを生み出す体験」として食品残渣に向き合うことができる。

個人の習慣からコミュニティ文化へ

さらに、この取り組みは地域社会における環境意識の醸成にも寄与するだろう。家庭で作られたクラフト品をシェアしたり、食品残渣を活用したものづくりを通じて交流が生まれたりすることで、環境配慮の実践が「個人の習慣」から「コミュニティの文化」へと広がる可能性がある。創造性を伴った持続可能な行動は、従来の「我慢」や「制限」としての環境活動とは異なるポジティブな価値を提供する。

循環型社会への新潮流!国際的評価が示す未来の可能性

食品廃棄物の削減は、世界的な課題である。特に先進国においては消費と廃棄が同時に増大しており、資源循環型社会の実現が急務となっている。FOODres.AI Printerは、誰もが楽しみながら参加できる解決策を提示することで、この課題に新しい光を当てる。家庭用3Dプリンターという枠組みを超え、持続可能な未来を築くための教育的・文化的なツールとしての役割をも担い始めている。

FOODres.AI Printerが受賞した国際的なデザイン賞は、その革新性と社会的意義の両面が高く評価された結果である。食品廃棄物を資源へと変換するこの取り組みは、循環型社会の実現に向けた新しい潮流を象徴している。今後、このような家庭用機器が広く普及すれば、食品ロス削減だけでなく、持続可能なライフスタイルが社会全体に根付く契機となるだろう。

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国内外の3DプリンターおよびAM(アディティブマニュファクチャリング)に関するニュースや最新事例などの情報発信を行っている日本最大級のバーティカルメディアの編集部。

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