2025年を見据えた英国の新たな「Modern Industrial Strategy(近代産業戦略)」が、6月23日に発表された。本戦略は今後10年にわたり、未来産業への投資を促進し、企業成長を加速させ、長期的な安定を提供することを目的とするものである。企業が安心して迅速に投資できる環境を整えるための青写真であり、政府はこれを国家的な優先課題と位置づけている。(上部画像はイギリス政府の公式ウェブサイト「GOV.UK(ガブ・ドット・ユーケー)」より。出典:GOV.UK)
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「IS-8」持続可能な成長を牽引する英国の戦略的重点産業群
本戦略の中心にあるのは、政府が「IS-8」と呼ぶ8つの成長可能性の高い産業分野である。すなわち、先進製造、クリーンエネルギー、クリエイティブ産業、防衛、デジタル・テクノロジー、金融サービス、ライフサイエンス、そしてビジネス・専門サービスである。これらは異なる分野でありながら、持続可能な経済成長において最も大きな可能性を秘めているという共通点がある。IS-8の各分野には、それぞれ特化した成長戦略が策定されており、現在までに5つの分野に関する計画が公表された。その中には、今回焦点となる「先進製造セクター計画」も含まれている。
先進製造セクター計画の概要
本計画では、英国の先進製造業が年間約76万人の雇用を支え、毎年820億ポンド超(約16兆円)の付加価値を創出していることが強調された。今後5年間で28億ポンド(約5,600億円)を研究開発に投入することを含め、最大43億ポンド(約8,500億円)の支援が予定されている。資金支援の枠組みとしては、英国ビジネス銀行の「Industrial Strategy Growth Capital」からの40億ポンド(約8,000億円)、さらに国家富裕基金(National Wealth Fund)からの278億ポンド(約5兆5,000億円)も動員される計画である。
また、規制面でもイノベーションのスピードに対応する措置が講じられている。例えば、自動運転車に関する新法の制定により、ドライバーなしの走行を可能にし、業界の成長を後押ししている。このセクター計画の最終目標は、「英国の先進製造業における年間の企業投資額をほぼ倍増させ、次世代の6つの重点分野で国際的な優位性を確立すること」である。その6分野には、先進材料、航空宇宙、アグリテック(農業テクノロジー)、自動車、バッテリー、宇宙産業が含まれる。
AMへの影響と政府の継続的支援
AMは、先進製造の一翼を担う技術として、本計画の中でも注目されている。英国企業Renishawは、高精度エンジニアリングと3Dプリントにおけるパイオニアとして称賛されており、「Make Smarter Initiative(製造業のスマート化推進事業)」も、AMやAIなどの産業用デジタル技術(IDT)に関する共同研究と実用化支援に貢献している。
また、航空分野では、パリ航空ショーに先立ち、英国政府が2億5,000万ポンド(約500億円)以上を投入し、より環境に優しい航空機開発のための技術プロジェクトを支援すると発表した。これには、Airbus主導の「DecSAM(Digitally Enabled Competitive and Sustainable Additive Manufacturing)」が含まれ、レーザー粉末床溶融(LPBF)のスケールアップに3,800万ポンド(約75億円)が投じられる予定である。さらに、GKN AerospaceのISLAA(Integrated System Level Aerostructures Assembly)計画にも1050万ポンド(約21億円)の支援が行われ、大型部品向けのワイヤ方式金属積層造形技術が強化される。
国防分野でもAMは重点技術とされており、2024年4月に英国国防省が「Defence Advanced Manufacturing Strategy(国防先進製造戦略)」を発表した。これは、これまでに蓄積されたAM技術活用の実績を公式に制度化するものであり、同省が主導する「Project Tampa(プロジェクト・タンパ)」などの取り組みにも基づいている。
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