大阪・関西万博のシグネチャーパビリオンとして注目を集めた、メディアアーティスト落合 陽一 氏プロデュースの《null²(ヌルヌル)》が、会期終了後も新たな地で再設計・再構築される見通しとなった。プロジェクトは、落合 氏が代表を務める一般社団法人「計算機と自然」が主導し、クラウドファンディングを通じて1億円の支援を募っている。目標は、移設に向けた企画設計費、活動費、アーカイブ映像制作費の確保である。
目次
万博を象徴した「変化する建築」null²とは
《null²》は、「変化する建築」をテーマにした実験的なパビリオンである。外装は鏡面膜で覆われ、ロボット制御や振動機構によって表面が揺らめく構造を持つ。来場者の身体データを3Dスキャンし、映像演出として反映するなど、デジタルと物質の境界を揺さぶる表現が特徴だ。基本設計は建築設計事務所NOIZ、施工はフジタ・大和リースJV、構造設計はArup日本支社が担当。技術と芸術、そして建築とメディアの融合が実現した空間として高い評価を得た。
「ぬるぬるのお引越」計画の狙い
「ぬるぬるのお引越」プロジェクトは、万博閉幕後も《null²》の理念を継承し、場所やスケールを変えて再構築することを目的としている。
夢洲で展示されたパビリオンをそのまま移設するのではなく、新天地の環境に合わせて設計を調整し、再構成していく構想である。落合 氏率いる一般社団法人「計算機と自然」は、もともと万博運営のために立ち上げられた組織であり、閉幕後の活動資金を持たない。そのため、移設に必要な初期検討や設計を進めるための資金をクラウドファンディングで募ることとなった。
1億円で進む次のステップ――資金の使い道
クラウドファンディングの目標額は1億円。万博での《null²》建設費が数十億円にのぼったことを踏まえると、今回の資金は再設計・再構築のための第一歩に位置づけられる。主な資金使途は、新天地での企画・設計・管理費用、一般社団法人「計算機と自然」の運営費、そして展示内容をアーカイブとして記録する映像制作費である。具体的な移設先や設置時期は現時点で未定だが、全国各地から引越先の打診が寄せられているという。
製造業が支える“動く建築”の裏側
《null²》は、鏡面膜や振動制御といった動的な構造を備えた稀有な建築物である。その実現には、ロボティクス制御、軽量膜素材、構造解析、制御アルゴリズムなど、複数の産業技術が関わっている。とくに、可動構造の部材設計や精密制御の分野では、製造業の知見が不可欠であり、今後の再構築においても多様なものづくり企業との連携が想定される。デジタルファブリケーションや3Dプリンティング技術を活用した部材の試作・更新も、再設計プロセスの一部として検討される可能性がある。
移設先は未定―モジュール化と再設計への挑戦
引越先や再構築のスケジュールは現時点で明らかになっていないが、プロジェクトチームは環境や規模に応じて設計を再構成する方針を示している。モジュール化や部材再利用など、移設を前提とした建築手法が検討される見込みであり、建築・製造・デジタル分野が交わる新しい協働モデルの試金石となりそうだ。「ぬるぬるのお引越」は、単なるアートの延命ではなく、デジタル時代の建築とものづくりの関係性を問う次章の実験といえる。
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