株式会社SIJテクノロジは(東京都八王子市)、チェコ共和国のIQS nanoが開発した二光子重合(TPP)方式の3Dプリンターを、日本国内において正式に販売開始した。本製品は、ミクロン単位からミリ単位に至るまでの高精度な三次元構造体の造形を可能にし、バイオメディカル、フォトニクス、ナノデバイスといった先端分野での応用が見込まれている。(上部画像はSIJテクノロジのプレスリリースより。出典:SIJテクノロジ)
目次
TPP技術(Two-Photon Polymerization、二光子重合)とは
TPP技術は、フェムト秒レーザーを樹脂に照射し、二光子吸収という非線形光学現象を利用して樹脂を三次元的に硬化させる微細造形技術である。造形分解能はナノメートルからミクロンオーダーに達し、従来の光造形では困難だった複雑で精密な立体構造の作製が可能となる。主に光硬化性樹脂を材料とし、バイオメディカルやフォトニクス、MEMSなど多様な分野での応用が進んでいる。
欧州先行のTPP技術と日本の塗布技術が融合し次世代マイクロデバイス開発が加速
TPP技術に関しては、欧州が製品化の面で先行している状況にあるが、インクジェットをはじめとする塗布技術においては、日本が世界に誇る独自の強みを有している。今回、卓越したTPP技術を有するIQS nanoと、極小吐出量を実現する世界最小クラスのスーパーインクジェット技術を有するSIJテクノロジが提携することにより、両社の技術的優位性を融合させる形で、次世代高機能マイクロデバイスの研究開発が一層進展することが期待される。
異素材の積層・機能付加による新たな応用領域を拓き製造受託サービスも展開へ
本提携により、樹脂材料を用いた高精度造形に加えて、金属系あるいは機能性材料の局所的あるいは全面的な積層・機能付加が可能となり、造形プロセスにおける新たな応用領域が開拓される見通しである。装置の販売に加え、3Dプリントを用いた製造受託サービスも展開していく予定であり、両社の高い技術的親和性を活かした事業モデルの確立を目指す。
産業界と学術界に向けた造形ソリューションを展開し展示会で本製品を出展予定
SIJテクノロジは今後、産業界および学術界を対象に、多様で高度な要求に応える微細加工技術の提供を通じて、より高機能かつ高精度な造形ソリューションの展開を進めていく方針である。

なお、2025年7月9日から11日にかけて東京ビッグサイトで開催される「次世代3Dプリンタ展」において、本製品の展示を行う予定だ。
TPPとスーパーインクジェットの融合が拓く高性能マイクロ光学素子の可能性
現在、光硬化性樹脂を用いた3Dプリンタは広く普及しており、フィギュアや各種部品の造形に活用されている。TPP技術を搭載した3Dプリンタも同様に光硬化性樹脂を材料とするが、極めて微細な構造の形成が可能である点において、従来技術とは一線を画している。
しかし、単に微細構造を形成するだけでは、研究の発展に限界があり、将来的に技術的な停滞を招く可能性がある。こうした中、微細構造に新たな機能性を付加する技術との融合が極めて重要となる。

たとえば、TPP技術で作製した立体構造に対して、スーパーインクジェット技術を用いて選択的に材料を塗布することで、光学機能を有する部品の形成が可能となる。実際に、TPP技術とスーパーインクジェット技術を組み合わせて製作された光学部品の事例が存在し、高性能なマイクロ光学素子の開発に貢献している。
生体足場への応用も視野に日本の塗布技術でTPPの可能性を拡張
さらに、TPP技術によって作製された細胞足場の一部に、スーパーインクジェット技術を用いて成長因子やタンパク質などの生体分子を局所的に塗布することで、より高度で機能性の高い生体足場の開発も可能となる。このような技術の組み合わせにより、TPP技術単独では実現が難しかった応用研究の領域が大きく広がることが期待される。
日本は、TPP技術の製品化においては欧州に後れを取ったが、インクジェット技術をはじめとする塗布技術については、世界に誇る独自の強みを有している。こうした日本の技術的優位性を活かすべく、当社はTPP技術を有するIQS社と業務提携を締結した。今後は、次世代の高機能マイクロデバイスの研究開発に携わる研究者や技術者に向けて、最適なソリューションを提供していきたいと考えている。
多分野で進む実用化。TPP技術が切り拓く応用研究の最前線
本製品は、以下のような最先端研究分野において活用が進んでいる。
- バイオメディカル分野:細胞培養足場、組織工学、ドラッグデリバリー、マイクロニードルなど
- 光学・フォトニクス分野:マイクロレンズ、回折光学素子(DOE)、メタマテリアル、光通信部品の微細構造など
- MEMS・マイクロマシン分野:微小ギア、ばね、機械部品、マイクロロボットなど
- エレクトロニクス分野:微細な絶縁構造、配線、封止、電子構造および回路の試作など
- 材料科学・構造材料分野:メカニカルメタマテリアルの設計や、光硬化性材料の評価など

微細加工の限界を超える融合技術が未来の研究開発を牽引
TPP技術とスーパーインクジェット技術の融合は、微細構造への機能付加を可能とし、従来の限界を超えた応用研究を加速させる。特に光学部品や生体足場、微小デバイスなどの分野において、新たな製品や技術の創出が期待される。今後は、産業界・学術界を問わず、多様なニーズに応えるプラットフォームとしての展開が見込まれており、日本の得意分野である塗布技術を活かしたグローバルな研究開発への貢献が注目される。
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