玉川大学工学部と座間市、縄文時代の重要文化財を最先端の3D技術で復元!

2025年6月2日
玉川大学プレスリリースより、関係者の集合写真。


玉川大学(東京都町田市)工学部デザインサイエンス学科インタラクションデザイン研究室に所属する青山 恭章 氏(4年生)と木村 光希 氏(3年生)は、座間市指定重要文化財である「表裏型顔面把手(おもてうらがたがんめんとって)」の3Dモデル化に取り組んだ。両名は、学内のメーカーズフロアに設置されたデジタルファブリケーション機器を活用し、約15回にわたる試行錯誤を経て、高精度な複製モデルの完成に至った。完成品は、座間市で開催された式典において実際に活用され、地域文化の発信に寄与した。(上部画像は玉川大学プレスリリースより、関係者の集合写真。出典:玉川大学)

全国的にも珍しい「表裏型顔面把手」、座間市で出土し重要文化財に指定

「表裏型顔面把手」は、2022年10月に実施された水道管の布設替工事中に発見されたものである。この遺物は縄文時代中期、すなわち今から約5500~4500年前に作られた深鉢形縄文土器の一部であり、把手部分の両面に顔面が造形されている点が極めて特異である。このような構造の顔面把手が見つかるのは全国的にも稀であり、その歴史的価値の高さから、座間市は本遺物を市指定重要文化財として登録した。

表裏型顔面把手(おもてうらがたがんめんとって)
表裏型顔面把手(おもてうらがたがんめんとって)出典:玉川大学

文化財を学びの題材に!座間市と玉川大学、複製制作で連携プロジェクト始動

座間市教育委員会は、市指定重要文化財である「表裏型顔面把手」の複製体を制作し、それを教育現場で活用したいとの考えから、玉川大学工学部デザインサイエンス学科へ協力を依頼した。この依頼を受けた平社和也講師は、過去に相模原市において同様の文化財を題材とした取り組みを行った経験を有しており、大学内の「メーカーズフロア」を活用することで、学生にとって実践的な学習の機会を創出できると判断した。こうした経緯を経て市と連携が図られ、本プロジェクトの実現に至った。

文化財を精密データ化

木村 光希 氏は、本プロジェクトにおいて3Dスキャンおよび画像処理を担当した。作業は座間市役所において実施され、座間市教育委員会の立ち合いのもと、市指定重要文化財の表面に刻まれた凹凸や欠損、さらには内部の空洞構造に至るまで、細部にわたって丁寧なスキャン作業を行った。その結果、高精度な3Dデータの生成に成功している。

スキャン作業後は、学内のメーカーズフロアに戻り、平社和也講師の指導を受けながら、スキャンデータ上に含まれる不要部分の除去や、後続工程に適したデータ整形といった処理を施した。整えられたデータは、次の工程を担当する青山恭章氏へと引き継がれた。

3DCADと造形技術を駆使

青山 恭章 氏は、インタラクションデザイン研究室に所属する以前から3D編集ソフトの習得に努め、独学で数多くの造形作品を制作してきた経験を有する。金属加工にも高い関心を示しており、大学内のメーカーズフロアに設置された各種設備を積極的に活用している。本プロジェクトでは、木村光希氏が作成した3Dスキャンデータをもとに、3DCADを用いてデータの統合および編集作業を担当した。特に結合部の処理には細心の注意を払い、高精度なプリント用データに仕上げている。

さらに、複雑な形状をもつ造形物を安定して出力するためには、サポート材の設計が不可欠であり、青山氏はこれまでの制作経験を活かして、適切なサポート構造を設計・実装した。出力に使用した素材は、土器の質感を再現するため、木材を20%含有した特殊な3Dプリンター用フィラメントを採用。造形にはおよそ13時間を要し、2台のプリンターを並行稼働させながら複数回の試作を重ねた結果、最終的に完成度の高い複製作品を作り上げることに成功した。

座間市指定重要文化財「表裏型顔面把手」3D造形(右側が表側・左側が裏側)
座間市指定重要文化財「表裏型顔面把手」3D造形(右側が表側・左側が裏側)出典:玉川大学

文化財のデジタル活用と教育連携の未来

本プロジェクトは、地域文化財の保全と教育的活用を目的に、学術機関と自治体が連携した好例である。今後は、3D技術を活用した複製モデルを教育現場に展開し、児童・生徒が実物に触れながら学ぶ機会を創出することで、地域の歴史理解を深めることが期待される。また、今回得られた知見や技術は他地域の文化財活用にも応用可能であり、将来的には全国規模での文化財のデジタル保存・共有にもつながるだろう。

詳しくはPRRTIMESによる玉川大学のストーリーをご覧いただきたい。

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