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金属スクラップから3Dプリンティング材料を製造?AM業界のサステナビリティを牽引するContinuum

ここ数年の展示会を見ていると「サステナビリティ」や「カーボンニュートラル」「循環型社会」という言葉を見ない展示会はない。製造業にとって、エコやリサイクルという言葉は過去10年を振り返っても重要視されていたし、取り組みは多種行われていたが、より踏み込んだ対応を求められているとも言える。

社会の中の一員としてどのように貢献できるか頭を悩ませている企業トップも多い中、AM業界でもサステナビリティ対応を差別化要素として重要視し始めている企業が現れてきている。

今回は米国とシンガポールに拠点を持ち、数々のビジネスアワードに輝いた金属材料リサイクルの取り組みを行っている企業であるContinuumを紹介する。元々は2015年にMolyworksという会社名でカリフォルニアにて設立。その後、同社は顧客によりわかりやすい形でContinuumというブランド名とロゴにリブランディングした。

同社は日本ではまだあまり知られておらず、その技術の性質上、事業の秘密性も高い。シンガポールで旗揚げし世界中に拠点を伸ばそうとしている同社は、AM用金属材料のリサイクルで世界の企業からの注目を集めている。その取り組みに迫った。シンガポールからウェブ会議で取材に応じてくれたのは、同社で事業開発に携わるAlbert氏とMarc氏だ。

>>Continuum企業サイト

Continuum社のAlbert氏とMarc氏
左がContinuum社のAlbert氏、右が同社Marc氏

米軍にも採用された金属粉末のリサイクル装置

ShareLab編集部:金属リサイクル粉末の分野における皆さんのご活動は以前から噂に聞いていました。また、3D Printing Industry Awards Sustainability in Additive Manufacturingでの受賞を含め、海外では数々の賞を受賞されていることも話題になっています。

日本でもTCT Japanへの出展やオンラインイベントへの登壇などで、情報発信を始めているところなども拝見していますが、まだ国内市場はこれからの展開だと思うので、ご存じない方にもわかるように御社についてお話を伺えればと思います。

Albert氏:私たちは100%リサイクル素材を利用した金属用の粉末の製造と販売を行っています。また、金属用の粉末を製造する独自の装置であるGreyhoundシステムを開発しました。現段階ではニッケル合金、ステンレス鋼、チタン合金が製造可能な金属粉末です。

Greyhoundシステムは従来の設備に比べると非常に小型で、40フィートコンテナ(長さ約12メートル、幅約2.4メートル、高さ約2.5メートルの貨物コンテナ)に収まってしまうほどの大きさです。運用も簡単で、金属片を投入すると、装置内で溶融しパウダー化が可能です。金属スクラップや金属の余剰材料から金属粉末を製造することが可能になります。金属粉末を製造している一般的なガスアトマイザーは設備が大掛かりで、導入には11年程度かかることでしょう。しかし、私たちのGreyhoundシステムは小型で、導入も半年未満で稼働まで持っていくことができます。

金属を利用するとはいえ、事前に材料を分別し、不純物が混じらないように選別する必要はあります。こうして廃棄された原材料を使用して製造すると、資源の廃棄が削減され、二酸化炭素排出量が削減されます。

⾦属⽤の粉末を製造する独⾃装置「Greyhoundシステム」
⾦属⽤の粉末を製造する独⾃装置「Greyhoundシステム」
⾦属⽤の粉末を製造する独⾃装置「Greyhoundシステム」

また、サステナブルなメリットだけでなく、昨今問題になっているサプライチェーンの輸送や調達の問題も解決できると考えています。世界中がここ数年でコロナ禍や国際紛争で物流が停滞し、材料が調達できないという事態を経験しました。金属材料を自前で製造する能力を持つことは安全保障上でもサプライチェーン上でも大きな意味を持っています。

もちろん全てを賄えるわけではありませんが、緊急時には自分達の国で必要な時に自分達の国にある廃棄材料を基に粉末を生成すれば良いわけですから。

気になる金属粉末の品質は?

ShareLab編集部:サステナブルやサプライチェーンに関しての優位性というのはわかりました。それでは製品としての具体的な粉末の品質についてお聞かせ下さい。現在利用している金属粉末と比べて実際使い物になるのでしょうか。

Marc氏:廃棄材料を基に粉末を生成するということで、皆さん品質はとても気になるところだと思います。日本でも金属スクラップから粉末を生成することにトライしている企業が出始めているようですが、あまり上手くいってはいないようですね。私達の感覚では、7年くらい前の私たちがそのような状態だったと思います。

私たちは製造の段階で完全なトレーサビリティで品質を確保し、世界的にも認められているASTM (アメリカ材料試験協会, American Society for Testing Materials)の金属粉末のふるい分析の標準試験方法であるASTM B214、ホール流量計漏斗を使用した金属粉末の流量の標準試験方法であるASTM B213、ホール流量計漏斗を使用した自由流動金属粉末の見掛け密度の標準試験方法であるASTM B212にも適合している高品質の金属材料を製造しています。

また、蛍光X線(XRF)分析により元素組成レベルでのチェックを行なっております。このことにより、廃棄材料を基にした粉末でありながら、世界中のお客様が安心して利用出来るレベルの品質を担保しています。

AM用金属粉末
AM用金属粉末
ステンレス鋼316L
ステンレス鋼316L
ニッケル718
ニッケル718
チタン64グレード5
チタン64グレード5

Greyhoundシステムが実現するアップサイクリング

ShareLab編集部:すごいですね。実際にはどのような工程で廃棄材料をパウダー化するのですか?

Marc氏:それでは1つの事例を参考までにご紹介させていただきます。油田で廃棄されたドリルカラー(インコネル718)をアップサイクルしたケースです。

アトマイズされたハイグレードのAM粉末(出典:contiuum)
アトマイズされたハイグレードのAM粉末(出典:contiuum)

Marc氏:こうした金属リサイクルは、従来であれば、廃棄するために他国に輸送され、他の合金と混ぜ合わされ、より低付加価値なリサイクル処理をうけることが多かったと思います。輸送によるカーボンフットプリントの負担も大きな問題です。一方で、私たちの小型装置を現地に導入し利用すれば、サステナブルかつ高付加価値なアップサイクルを実現できます。

ShareLab編集部:ありがとうございます。仕組みをよく理解できました。日本のユーザーが実際の品質を確かめたい場合は、どのような手段がありますか?

Marc氏:スペックシートは用意していますが、米軍も認める品質を確認するために、当社のパウダーのサンプルを購入していただきたいと考えています。私たちは、EOSや3Dシステムズなどの自社の金属プリンターでも私たちの粉末を使用していますので、このサービスを提供する能力には自信があります。

Continuumだから提供できるコストメリット

ShareLab編集部:品質については全く問題がなさそうですが、価格についても気になるところです。しかし、国際的な金属粉末販売サイトなどを見ると、Continuumさんの金属粉末は他と比べて少し安いように感じます。リサイクルした金属粉末の方がより手間がかかっているはずですので、コストが高くなっているのではと思うのですが、何故安価に提供できるのでしょうか?

Marc氏:具体的な価格については詳細にはお答え出来ないのですが、通常では手間がかかる作業をGreyhoundシステムにより効率よくアップサイクルしていることで逆に価格を抑えることが出来ているとご理解ください。また、現状は少しでも多くのユーザーに当社の高品質な金属粉末を試していただき、実際にその価値に触れていただけるように価格も抑えています。

また粉末単体のコストもありますが、例えばアップサイクルができるGreyhoundシステムだからこそのコストメリットもあります。特にこれからAMに取り組む企業も多い日本では、高い材料で造形失敗という事態は1番避けたいところではないでしょうか。仮に大きな造形物をチタンで作って失敗すると100万円レベルの損失になります。しかし、失敗した造形物がリサイクル可能であれば、そのコストも軽減されます。

今後日本ではどのような活動をしていくのか

ShareLab編集部:それでは最後に今後日本でどのような活動を行なっていくのかお伺いしたいのですが、装置を販売していくのでしょうか?

Albert氏:いいえ、私たちは装置や設備の単純な販売は考えていません。技術的なノウハウを守るために、協業パートナーと合弁会社を作り、粉末を販売していくことを考えています。大手の自動車会社などが自社製品に関して利用するなどのケースはあるかもしれませんが、日本国内でリサイクルした金属粉末材料を日本国内向けに提供していきたいと考えています。

そのために、現在日本で私たちと協業をしてくれるパートナーを探しているところです。SDGsや安定したサプライチェーンの構築のように世界の持続可能性目標を達成するには、日本も含めて循環型金属経済を構築することが不可欠です。TCT Japan2023のような日本の展示会などにも参加し複数の企業との情報交換を始めていますので、ご興味がある企業さまはぜひご連絡ください。金属3Dプリンターをよく利用する製造現場の方、販売店の方、金属材料を扱うメーカーさまや商社さまとの協業は大歓迎です。

社会の中での責任を果たすために、私たちの技術をお役立ていただきたいと思っています。

まとめ:加速し始めたAM業界でのサステナブル対応

日本ではまだまだ3DプリンターやAM技術を最終製品に活用することに躊躇している企業が多いかもしれない。政府や官庁が掲げる政策や規制面でも世界の後塵を拝しているように見える。そもそも「何に活用すべきか?」というところで深く考えすぎて前に出られなくなっているのではないか。製造業にも欧米を中心に持続可能性という目的への貢献が求められている。製造現場での3R活動のように、すでに10年以上前からエコを意識した取り組みを行ってきた企業が大半だとおもわれるが、それ以上を求められた時に、どのような打ち手が残されているのか。

そんな中、Continuumは治金学者が従来のやり方に問題意識を持ち立ち上げた企業であり、目指すところは現代社会の課題である脱炭素などのサステナビリティにマッチしている。同じようなことを日本独自に行なっていくのも一つの手段だが、国際社会においての日本の役割として対応が急がれる脱炭素などの課題について、彼らが苦労し作り上げたスキームを取り入れていくのもまた一つに手段になるのではないだろうか。

>>Continuum企業サイト

システム開発会社のエンジニア、WEB制作会社のディレクターなどを経て独立。現在は企業コンサルティング、WEBサイト制作の傍ら3Dプリンターをはじめとしたディープテック分野での取材・情報発信に取り組む。装置や技術も興味深いけれど使いこなす人と話すときが一番面白いと感じる今日この頃。

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