累計60万パーツ以上の造形実績 日本最大級の造形実績を持つDMM.makeが取り組む素材の多様化
2022年6月3日(金)、DMM.make(秋葉原)のハウスセミナーが開催されたのでシェアラボ編集部として参加してきた。テレビCMなども行っていたこともある上、秋葉原にファブ施設を運営していたことから3Dプリンターを使った受託造形サービスといえば、DMM.makeを思い浮かべる人も多いかもしれない。実際、STLデータをアップロードすれば、オンライン上のやり取りだけで、数十種類の材料から造形したい材料を選ぶことができ、見積もりを取ることができる利便性が受けて、加賀市に大規模な工場をもち、20種類以上の業務用3Dプリンターを備えているDMM.makeの存在感は大きいといえる。
当日行われたハウスセミナーでは、実際に利用者が造形したサンプルを展示していた他、株式会社日本HPによるプレゼンテーション、DMM.makeによる人気材料トップ5の発表や新材料の発表なども行われた。会場を訪れた参加者からは専門的で熱心な質問も出た会場を訪れたので、その熱気をお伝えしたい。
セミナーは二部構成で、DMM.makeで実際に稼働している3Dプリンターを提供している日本HPとDMM.makeから講師が立ちそれぞれ講演を行った。その後、実際にDMM.makeで造形された造形物の展示を見ながら交流する場が用意された。
目次
「HP Jet Fusionプリンターと新しい製造の可能性」 (株式会社 日本HP 宮内氏 )
まずは、 日本HPの講演内容から報告したい。同社3Dプリンティング事業部の宮内氏によるセミナー「HP Jet Fusionプリンターと新しい製造の可能性」では、いまなぜ3Dプリンターを活用するべきかの時代背景と、同社のMJF方式(マルチジェットフュージョン方式)の3Dプリンターの仕組み、導入事例が紹介された。
宮内氏によると3Dプリンターで造形した造形物は「壊れやすく、製造コストが高く、造形時間がかかる」というイメージをもたれがちだが、最近の技術進化によって、大きく状況が変わってきているという。
実際に講演中のスライドで、クレーンで自動車を吊り上げる際に利用できるほどの強度をもった樹脂パーツが紹介されており、改めて技術進化を感じさせられた。
このクレーンとフックをつなぐ連結部のパーツは実際にHPの3Dプリンターで造形された樹脂パーツだ。120gのチェーン形状の部品が4500kgの自動車を支えている。縦積みで積層される3Dプリンターは上下に引っ張られると構造上弱い異方性を持っていることが多いが、HP社は独自の技術で異方性がごく少ない造形を実現している。
HPの展開するMJF方式は、薄く敷いた粉末樹脂の層に2種類のエージェントを噴射し、ハロゲンランプによってエネルギー照射を行って造形を完了するという方式で、高強度、設計自由度、生産性の高さなどを強みとする。エージェントとHPが呼んでいるのはいわゆる接着剤で、材料粉末を固め、熱で溶かしながら造形を行っていく原理だ。実に400以上の特許で守られているHP社独自の技術だ。
材料のラインナップは、PA12、PA11、PA12GB、TPU01、PP(TPU01とPPはHPブランドではなく、BASF社製)と多岐にわたっており、自動車・工作機械・医療・コンシューマー製品など各種方面のニーズに対応しているということだった。
一台数千万円する装置であるため、現在の納入先は、DMMのようなサービスビューロや大手自動車メーカーのような大量に部品を製造することが見込まれている企業が主体であるという。
「DMM.makeで使える素材」 (DMM.make 渡邉氏)
次に、DMM.make渡邉氏によるセミナー「DMM.makeで使える素材」が行われた。
DMM.makeは日本国内最大規模のサービスビューローであり、3Dプリントトータルプラットフォームとして、これまでに67万部品の造形出荷実績があるとのことだった。
渡邉氏によると、現在取り扱っている素材は23種類あり、ナイロン、MJF(PA12、PA12GB、PA11)、アクリル(UltraMode)が人気素材のベスト3とのことで、ナイロン・MJFは価格の安さ、アクリルは高精細な造形が可能な点から人気があるとのことだ。
DMM.makeのおすすめ素材として、チタン、NXE400、リアルシリコンの3つが紹介された。難削材であるためチタンは高級材料という印象をもっていたが、DMMのあつかう金属材料の中では「お値打ちな部類」だという。純チタンの粉末焼結によって強度を持った造形が可能で、軽量であること、強度にも優れるなどの面を考えると人気ランキング第4位という結果もうなずける。
NEXA3D社の3Dプリンターで利用できる材料だと思われるNXE400は、超高速光造形方式を採用可能なことによって、納期を早めたい一方でABSやPPのような特性が求められる部品に最適ということで、今後おすすめしていきたいと紹介されていた。
リアルシリコン材料は、射出成型相当の精度を持つ高精細なシリコンゴムを用いた造形で、破断強度、柔軟性、耐薬品性、耐候性に優れているとのことだった。
選べる種類が豊富であることは、使い手に取って、逆に何を選べばよいかわからないという戸惑いを生んでしまう場合もある。渡邉氏はいくつかの素材に関して、選ぶための考え方を紹介していた。
また、当日は、これまで23種類だった素材に新素材が増えて24種類になったことが発表された。新しい素材はResinA1、ResinA2、ResinA1Pro、ResinT1、ResinC1の5種類として、従来素材よりも安価で、1380*680*480mmといった大規模な造作物にも対応可能(A1、A2のみ)であるとのことだった。どこのメーカーの3Dプリンターで造形されたものかは企業秘密として回答はなかったが、ナイロンよりも安価な材料で造形できるということで、会場の関心は高い様子だった。
当日の展示品
また、当日は、展示品として、DMM.makeの自作キーボード、ストラタシス社の参考出品(布に直接3Dプリント)、株式会社日本HPのサンプルボックスなどが展示されており、個々の展示で活気を呈していた。
自分自身が小説を書くために最適なキーボード配列を考案し、作ってしまったという。
ストラタシスの参考展示もあり、新機種で造形できるという造形サンプルが複数展示されていた。誰かの手のサンプル造形に触れながら、「この手は骨がはいってないけど、骨を中に入れておくとさらにそれっぽくなるよね」などの会話がなされる。名刺交換するほどの格式ばった体裁ではなくカジュアルに3Dプリンターでモノづくりに取り組む者同士が会話を交わしていて、非常に面白い場だった。
布に立体的な樹脂造形を乗せることができるという参考展示。ぱっと身は非常にしっかりした密着度だったが、触ったら取れちゃう?洗濯しても落ちないかな?などわいわい会話しながら触ってみた。
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講師として登壇していた日本HP社宮内氏も参考展示の場でサンプルを手に取りながら、気さくに説明してくれた。サンプル造形としてさまざまな形状を造形して知育玩具のようにボックス状のギミックに仕込んだ特製サンプルは、家に持って帰りたいほど面白い仕組みだった。
このらせん状のギミックは引っ張ると伸びる!まさにメタマテリアルな造形。このほかMネジに対応した受けを埋め込むことで耐久性を保つなど、実践できるアイディアを詰め込んだ形状がたくさん詰め込まれている。
まとめ
DMM.makeの利用者の多くは個人として利用しているのは事実のようだが、法人利用も毎月450社前後があるとのことだった。
ここで紹介したような本格的なセミプロや小規模事業主の利用も多く含まれている上に、個人として販売を行っている作家もいることから、ビジネスとしての利用も相当数あることがうかがえる。膨大な時間をかけて3Dデータを自ら用意し、DMMが備えるような産業用3Dプリンターでモノづくりが行われている現状は、今後さらに広がりを見せることだろう。
コロナの影響でしばらくリアルな情報発信の機会がなかったということだが、今後徐々に情報発信の機会を増やすとのことなので、今後のイベントにも注目していきたい。
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