群馬から世界へ!AM技術の探索マップを通じてGAMが見据える2つの用途分野 ― 群馬積層造形プラットフォーム(GAM)
全国各地の産業技術センターで金属3Dプリンターの納入が始まり、地場産業の活性化を目指す機運が具体化しているが、民間企業が連帯して作る取り組みも負けてはいない。群馬積層造形プラットフォーム(略称:GAM / ガム )はタイヤメーカーのミシュラン・ジャパンを中心に2年前から活動を続けてきた。2023年5月17日にこの2年間の活動の成果を報告するとともに、今後の活動の指針を図に示した探索マップを発表した。大手自動車メーカーのティア1企業も参画するGAMの具体的な活動成果の発表は今回が初めてだが、今後の活動指針を示す探索マップの内容にも注目が集まった。(写真は発表会の様子。左から、日本ミシュランタイヤ社長の須藤 元 氏、群馬産業技術センター所長の細谷 肇 氏、共和産業社長の鈴木 宏子 氏、Cetimゼネラルマネージャーのポリーヌ・ル・ボルニュ氏、群馬県知事の山本 一太 氏)
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GAMの今までとこれから。道を示す探索マップ
探索マップはGAMが定義した「金属積層造形をモノづくりに実装し、新しい価値を生み出すまでの旅路」であると説明があった。具体的な価値や目的に対して、どのような実現方法をとるべきか、その際に何が課題になるかを可視化した図式だ。
こうした探索マップは、アプリケーションごとに作成されるということで、直近でGAMが取り組むのは2つのアプリケーションであると説明があった。1つは内部流路を持ち稼働時に温度維持を図るコンフォーマル冷却金型。もう一つは自動車の廃番部品のような少量生産品だ。どちらも研究ではなく実用化を目指す意欲的な取り組みとなっている。
こうした具体的な開発目標を定め、実現のための方策やその技術課題を明確に共有することで、広く協業相手を募りたい考えのようだ。
GAMと主要参画企業の取り組み状況
探索マップで表現されている取り組み目標に向けて、主要な参画企業から発表があった。
1. 東亜工業株式会社
東亜工業株式会社(以下、東亜工業)は、SUBARU・トヨタ自動車の部品供給メーカーである。自動車事業のほかに、住宅事業として鉄骨系ユニット住宅への部材供給も行っている。
東亜工業がGAMに参入した理由は、乗員の命を守る技術を開発するためである。その一環として、フランスの国立産業技術センター「Cetim」と共同で技術開発を行っている。
東亜工業代表取締役の飯塚慎一氏は、「私たちはプレスメーカーなので、切る・削るという引き算の発想しか持っていなかったんです。そこに積層造形という足し算の発想が加わることで、開発領域がものすごく広がることがはっきりしてきました。乗員の命を守る自動車の開発に一歩近づいたと思っています」と語った。
今後は開発の過程で生じる失敗から学びつつ、技術開発を目指していくとのこと。さらには、AM技術の手の内化とエンジニアの育成にも力を入れる方針だ。
2. しげる工業株式会社
しげる工業株式会社(以下、しげる工業)では、自動車の内外装品やシートの開発・製造を行っている。納品先はSUBARUが約8割を占める。
GAMに入会したきっかけは、「主要部品(樹脂の射出成型品)の製造にAM技術を活用したい」と考えたことである。現在は製品そのものではなく、射出成形用の金型製造にAM技術を応用するための技術開発を進めている。
しげる工業は、これまでの活動成果として「AM技術によって成形金型の冷却精度を向上させた事例」を発表した。従来工法の金型では連続稼働させると金型温度が上昇し、狙った温度帯で操業することが難しい。その結果射出品の形状に反りや変形が起こりやすくなる。金型内に冷却配管を数本配置することで対処は行ってきたが限界があった。
一方、AM技術を用いれば、金型内に冷却配管を縦横無尽に配置することができる。その結果、金型温度が安定し、射出した樹脂が均一に冷却できることで変形や反りの改善が実証できた。
今後は、樹脂の配分や製造条件などを変えながら、AM技術の強みを最大限に活かした金型製造に取り組んでいく。
3. 共和産業株式会社
共和産業株式会社(以下、共和産業)は、自動車のパワープラントの試作・開発やレーシング部品の開発を行う企業だ。本社のある群馬県高崎市のほかに、アメリカのミシガン州にも工場を構えている。また、愛知県安城市には、砂型鋳造を行う関連会社がある。
GAMに入会したきっかけは、レース用車両案件で、取引先から「既存工法の見積もりのほかに3Dプリント工法(AM技術)での見積もりも出してほしい」と依頼されたことだ。初めてのことに戸惑っていたが、群馬県内に「ミシュラン AMアトリエ」が開設されたことを知り、AM技術の知見を得るためにGAMのサロンメンバーとなった。
入会後の活動として、共和産業の社員14名がミシュラン・GAM独自の教育プログラムを受講したことを発表。同社代表取締役の鈴木宏子氏は、「1人20万円でミシュランが世界で蓄積したノウハウを学べ、実践もできるのは非常にお得だったと感じています」と述べた。
GAMでのAM技術の習得を通して、医療用微細パーツの開発や二輪車用シリンダーヘッドの試作を実施。医療用微細パーツについては、脳神経外科手術用の微細パーツ「TAKASAKI」を世界に売り出している。
今後は、職人が手作業で行っている医療用微細パーツの製造をデジタル化し、職人の技術を承継しながらものづくりを進めたいとのこと。また、新素材の開発とグローバル展開についても意欲を見せた。自動車のアフターマーケット市場と、医療領域におけるビジネスチャンス獲得に力を入れていく方針だ。
探索マップに基づく開発活動に向けて協業を拡大
GAMを主導する日本ミシュランタイヤの須藤 元 社長は「AM技術がすでに”わかっている技術”であれば、誰かがもうすでに取り組んでいると思うんです。AM技術はもっと可能性がある技術です。わからない市場を一緒に切り開く旅をご一緒したいと思っています。」と語り、山積する技術的課題を解決するために、参画企業の参加を呼び掛けた。イベントに参加していた金属3Dプリンターを販売する企業やや試験を請け負う企業などがこうした声にこたえる形で、GAM参画企業との交流の場がないか質問する一幕もあった。
いままで団体の詳しい活動内容や成果を詳しく発表してこなかったGAMだが、探索マップという形で具体的なアプリケーションを発表するとともに、必要な技術要素を目に見える形で共有した今回を皮切りに、参画企業との交流の場を今後積極的に企画していくとしている。
繰り返し語られたのは、協力企業との連携の重要さだ。まったく新しい工法を今までの工法と同じ品質で提供するには、一社だけの独自の技術開発、生産体制では限界がある。ノウハウを惜しみなく提供し、施設もミシュランの資本で用意した先に見すえるのは産官学が連携し、新しい成長領域を早期に立ち上げるという大きなヴィジョンが今後どのような進展を見せるか。今後企画されるとする活動にも期待したい。