世界に冠たる自動車大手トヨタの祖業はご存じのとおり織機製造だった。その祖業から発展してさまざまな研究開発やコンプレッサーなどの重要部品を製造する豊田自動織機では3Dプリンター活用が着実に進んでいる。同社でAM(Additive Manufacturing)推進を担う大岩 洋之 氏に、3Dプリンター活用の経緯と、注目している製造方式について話を伺った。(写真は粉末焼結で製作した初代フォークリフト。微細なレバーも正確に造形できた点に驚いたという。写真左に見えるFormlabs社のFuseシリーズで造形。)
グループ内でも競争する企業文化
――豊田自動織機さんはトヨタグループの中でどのような位置づけなのでしょうか。
大岩氏:グループというと役割分担しているように思われがちですが、実は基本的に各社独立しています。例えばグループ企業同士でも似たような部品があると競合になります。同じような部品を作った場合は、コンペを実施の上、最終的にトヨタ車への採用を決める。グループ内でもそういう競争があります。
――御社が担っている製品分野は?

大岩氏:自動車関連ですと、RAV4という車両やエンジン、カーエアコン用コンプレッサーですね。あとは充電関連のインバータやDC-DCコンバータ、車載電池などを製造しています。インバータは、車の中の電圧を100Vに変換して、キャンプなどで家庭用コンセントが使えるようにする製品です。ただ、これも車種ごとにコンペになります。
車以外ではフォークリフトをはじめとする産業車両、繊維機械なども手がけています。

「3Dプリンターでの最終部品製造」を目標に掲げた機種選定
――大岩さんがAM推進に関わるようになった経緯を教えてください。
大岩氏:2019年に今の部署に入りました。前任者が1人でインクジェット方式の3Dプリンターを使って試作を始めていたのですが、私が管理者になったタイミングで担当役員と話をして、「試作をやるだけの部署よりも、全社横断的にAMを推進する部署として取り組みを行った方がより効果があるのではないか」ということになりました。
そこで各部署で独自にFDM※1を入れて使っていた人たちを全部調べ、その人たちをメンバーとする「3Dプリンター連絡会」という会を作りました。そこから試作に加え、2019年10月から全社への3Dプリンター活用推進活動を始めました。
※1 FDM(Fused Deposition Modeling:熱溶解積層方式)。熱で溶かした樹脂(フィラメント)をノズルから押し出し、一層ずつ積み重ねて立体物を造形する3Dプリンターの代表的な方式のひとつ。 FDMはストラタシス社の商標であり、一般的には FFF(Fused Filament Fabrication)と呼称される。
――当初はインクジェット方式だったんですね。
大岩氏:大物やカラーの造形ができるインクジェット方式の3Dプリンターを使っていました。試作という意味で造形品の出来栄えはすごく良いのですが、3Dプリンター活用の中期計画を立てて将来を考えた時に、インクジェット方式では最終製品は難しいと気づきました。
――そこで方針転換を?
大岩氏:はい。世の中で実際に量産機として使われている3Dプリンターを調べたら、光造形と粉末焼結積層造形(SLS)の2つが有望だとわかりました。だからその2つに絞って検討を始めました。
まず光造形で、Formlabs社のForm 3ともう一台を同時に購入しました。両方試して、どちらが良いか現場の人たちに選んでもらおうと。
現場ユーザーが選ぶ競争原理
――2機種同時導入というのは珍しいですね。
大岩氏:そうかもしれません。私たちは全社のAM推進部門ですが、各部門も個別に3Dプリンターを購入しています。ですから補完的に廉価機ではできない「最終部品製造につながるAM装置」を選定するようにしています。そして機器を導入しますが、各部門に強制的に使うように押し付けているわけじゃないんです。「こういう機器を買いました、こういう特徴・うれしさがあります」と情報提供して、使う側が材料を選んで依頼されます。結果的にForm 3の方がどんどん選ばれていきました。
――なぜForm 3が選ばれたのでしょうか。
大岩氏:材料ですね。結局は材料なんです。もう一社の機器にも期待していた工業系の材料があったのですが、買ってしばらくしたら製造中止になってしまって。一方でForm 3はあれだけの材料が使えて、いろんなニーズに対応できる。そこが大きかったです。
――素人考えだと「ABSはできますか」「PPはできますか」という質問になりがちですが。
大岩氏:そうなんです。皆さん今使われている成形や加工用の材料と同じものを求められます。でも3Dプリンターには、まったく同じ材料はないんです。このため使用目的を教えてもらい、目的に合わせた材料を提案します。材料を選んだら、その材料が使える機種で造形しています。
粉末焼結装置「Fuse」導入のきっかけ
――粉末焼結装置としてFuse※2を導入されていますよね。どういう経緯で導入されたんですか。
大岩氏:原田車両設計の伊藤さんから「Fuseいいですよ」と勧められていたんですが、当時は粉っぽいし表面もザラザラだしで、ちょっと様子見でした。社内の人たちは射出成形品に見慣れているので、「なんかザラザラしててそれっぽくない」という反応だったんです。
※2 Formlabs社が提供している粉末焼結積層造形(SLS)方式の3Dプリンター。
転機になったのは、Formlabsのユーザー会で株式会社オウル・クラフトの武井 晋也さんのご講演をお聞きしたことです。
――どんな点が響きましたか。
大岩氏:Fuseを使って製品を作って販売されていたこと。最終製品という私たちの目標に対して、「これでできるんだ」という確信が得られました。
それと、ちょうど後処理を自動化するFuse Blastが出たタイミングで、粉っぽさや表面の問題がかなり解消できることがわかった。武井さんのところで実際に見せてもらって、「よし、これで行こう」と決めました。
Fuse導入で広がった用途
――Fuse導入後、何が一番変わりましたか。
大岩氏:これまで依頼がなかった部署から依頼が来るようになりました。技術部門だけでなく、環境チーム、広報、デザインの人たちからも相談が来る。ユーザーの幅がすごく広がりましたね。
――具体的にはどんなものを作っていますか。
大岩氏:例えばモーターの評価用部品。コイルを巻いて試験をするものなど、複雑な形状はFDMでは無理ですし、光造形でも製作は可能ですが、物性的にFuseの方がいいです。一回使った人は「前回の類似品をもう1回作ってほしい」などとリピートしてくれます。
あと、弊社は創立100周年を迎える年ということもあって、本社の事務棟を新たに建設し、1月から稼働しています。お客様をお迎えするロビースペースがあるのですが、そこに飾る自動織機のシャトルを模した照明オブジェもFuseで作りました。上から吊るすものなので軽さが必要ですし、夏の暑い日を想定しますと耐熱性も必要です。材料の特性を考えるとFuseで使うNylon 12(PA12)が最も適していると判断しました。
――サポートレスという特徴も大きいですか。

大岩氏:ものすごく大きいです。こういう細かいレバーまで一体で作れる。FDMだとサポートを取る時に折れちゃいますし、そもそもこの形状は作れない。Fuseだからできるんですよ、という話をすると、皆さん大変感心されます。
治具・試作の内訳
――依頼の内訳はどうなっていますか。
大岩氏:時期によって変動しますが、治具が約3割、残りの約6割が試作です。試作の中でも機能評価用が4割、形状確認用が2割ぐらい。形状確認だけなら部門所有のFDMでもできるので、そちらはどんどん減っていますね。
――各事業部にはFDMがあって、そこで作れないものがこちらに来ると。
大岩氏:そうです。自分たちで作れる範囲の治具は現場で作って、精度が必要だったり、強度がいるものはこちらに依頼が来ます。専門部署がある会社の構図かもしれません。
「3Dプリンターを入れたんだから使うように」と強制される会社や部門があるかもしれませんが、弊社は継続的に社内PRを行うことで、毎日引き合いが来て、社内で回っています。
量産という頂を目指して
――今後の目標を教えてください。

大岩氏:最終的には量産です。トヨタさんがHP社のMulti Jet Fusionでスープラの補給部品を作られている事例がありますよね。販売が開始されてすぐに楽天で購入して実物をしっかり確認しました。PA12で、Fuseで使っている材料と同じ材料なんです。
保有機器の中期計画にはJet Fusionのように造形エリアの広い粉末積層方式の機器の導入も入れてありますが、まずは小型でもFuseで技術を蓄積して、使いこなせるようになったら次のステップという考えで進めています。ただ、Fuseもどんどん進化しているので、実際に購入するものは状況を見ながら決めることになると思います。
――量産を頂上とすると、今は何合目ですか。
大岩氏:3合目か4合目ですかね。AMの進化はすごいと思っていますが、富士山と一緒で、最後の岩だらけのところが量産というハードルです。日本の製造現場で使えるレベルになるには、まだまだ道のりがある。
でも、できれば毎年1合ずつ上がっていきたい。自分の計画ではもっと早く量産に適用できるように持っていきたいと思っています。

――Fuseへの要望はありますか。
大岩氏:サイズですね。造形エリアがもっと大きくなると嬉しい。Form 3もLが出たように、FuseもLが出てくれると。あとは材料で、MCナイロンに代われるくらいの物性の材料が出てくると、現場は一気に切り替わると思います。
取材を終えて
印象的だったのは「現場が選ぶ」という競争原理だ。トップダウンで機種を押し付けるのではなく、複数の選択肢を用意して実際に使ってもらい、支持された機械が残る。グループ内でも競争するトヨタグループの文化が、3Dプリンターの選定にも反映されている。
そして「材料から入る」というアプローチ。目的に対して最適な材料は何か、それを実現できる機種は何か。この順番で考えることで、現場のニーズに合った機種が自然と選ばれていく仕組みができている。
大岩氏は2026年9月の国際技能五輪上海大会のAM(付加製造)職種で、同社から選出された日本代表選手の指導者として大会に参加するとのことである。世界の動向を見ながら、社内のAM推進をさらに加速させていく考えだ。
(取材:衛藤誓 文:伊藤正敏 提供:Formlabs株式会社)
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。



