AMでどうすれば「儲かる」のか?①
日本のAMは海外と比べ遅れているか?儲からないか?
日本各地で次々に、梅雨が開けたと同時に酷暑への注意がニュースで繰り返されています。また梅雨が明けたと言っても、毎日大気が不安定で、夕方落雷やゲリラ豪雨があちらこちらで起こるので、折り畳み傘は手放せません。子供のころ日本の気候は「温帯」と習いましたが、少なくとも夏は亜熱帯になっている気がします。ただ調べると、気候分類は5分類が基本で、さらに細分化した分類が多数あり、それぞれの国や地域で細かい違いがあり、単に熱い寒いで分類や比較は出来ないようです。
さて、今日の話題はそれと似た話です。先回の「AMは日本の製造業の労働生産性を上げられるのか?」について、SNSで文字誤入力のご指摘や、いろいろなご意見ご感想のコメントをいただきました。このコラムはニュースでも辞書でもありませんし、多くの方にとって右か左か、正しいか正しくないかの分類や比較をお伝えすることが目的ではなく、読んでいる方それぞれの立場で考えて、対話していただくきっかけ作りが目的と考えています。なので、それぞれ違った意見が出て当然で、対話が起こることはありがたいことです。それらのコメントの中で、「ふわふわしたことはいいから、AMでどうすれば、いくら儲かるのかはっきり書け」というお叱りのコメントをいただきました。そこで今回はそれについて書きます。
「日本のAMは海外に比べて遅れているかいないか、儲かるのか否か」の議論は私の周りでも、おそらく読者の方の中でも飽きるほど繰り返されてきて、日本のAMが進んでいる、または儲かっている実例は多数あり、逆の例もあり、またそれは海外でも対して変わらず、また製造産業全体からすれば極々小さなタコツボの中の話でもあります。ひとつ言えることは、AMは、その用途、AM工程に関わる要素の範囲、3Dプリンター製品の種類や価格帯レンジが広いことから、どの範囲で、どの時間軸で、を含めたどの「モノサシ」で見るか、測るかで答えが違うことは前提とすべきです。議論や評価をするなら「モノサシ」を決めないと意味がなく、またその結果から悪者探し、対策検討をしたところで、先に良いものを生むことにならないことは、言うまでもないことでしょう。
AMでどうすれば儲かるのか
AMでの儲けについての「モノサシ」とどうすれば儲かるのかについては、大きく2つに分けて、個人的な考えを以下に示します。「釈迦に説法」の内容が多く含まれること、全ては書ききれないことをあらかじめお許しください。
・AMで作るモノとしての儲け [利益]=[売価]-[原価]
①造形したそのものを社外に売る場合
まず「原価」ですが、AMが他の工法と比べ良い点として、3Dデータとソフトウェアがあれば、1個当たりの使用材料(サポート含む)と造形時間、つまり純粋プリント原価は、誤差はあっても短時間に数値把握できます。形状や条件もデジタルで変え、多くのパターンで時間や工数を少なく把握できます。一方、他の工法にはない「見えにくい流動・固定原価」を数値化して出来るだけ原価に入れるのが難しい点です。例えば未硬化材料の廃棄分と再利用分、プリンターの定期消耗交換部品費など。加えて「労務費」「減価償却費」もAMの場合重要かつ原価を大きく増減します。ただし、計算上それらをどこにどこまで入れるのかの「モノサシ」は絶対正解はなく、一つ決めて、より正確な原価で計算、比較すべきです。さらに儲けるには、AMの場合割合が大きい傾向にある「原料費」と「減価償却費」を下げることが効果的で、例えば原料費は設計形状や造形姿勢で減らせることもありますし、そもそもプリンターを買った場合の減価償却期間と1造形・1台当たりの生産数によっても大きく増減し、「借りる」「頼む」も含めて下げる方法は多様です。「労務費」も一般にプリンター台数や生産個数に比例して増えますが、装置やソフトウェアによる省人化をする、しないも、損益分岐点に影響します。
次に「売価」ですが、多くの場合市場、買い手、競合が決めること多く、つまり上記で適切に計算した原価に利益を乗せた売価では売れない場合が多いと思います。特に昔と違い、競合も多く、AMで出来ることの差も減っていて、AM品単体での価格競争はますます厳しいでしょう。よって儲けるには「売価」を付加価値で上げる方法があり、それは「短時間」から、AM上流の解析、デジタルデータ作成から下流の仕上げ、追加工、品質評価・保証などが考えられます。もちろんこれらを自社内だけで整備提供する以外にも、他社協働での方が良い場合もあります。
②製品の一部品として売る場合
この場合でも①の単品での「原価」を下げ、「売価」を上げることは儲ける原則ですが、AMの場合①の利益がマイナスかゼロでも、部品をAMで作ることが製品全体のライフサイクルやビジネスモデル全体としてメーカーとして「売価(単価もしくは総額)を上げる」か「原価を下げる」ことで儲かる場合があります。加えて、AM製造部品が製品の購入、使用、廃棄全体を通じてユーザーの使用価値を上げるか、使用コストを大きく下げるのであれば、さらにメーカーの儲けは多くなります。例えば、金型による製造をしていた部品をAM製に変えた場合、単に金型加工費だけではなく、試作から金型設計、製造・修正・補修から、輸送、保管廃棄、またサプライチェーンリスクまで含めると、部品単価が高くても製品として儲かれば、やるべきこととなります。
今回はここまでとして、次回「③試作実験や治工具・型として社内で使う場合」に続きます。
自社製造による3Dプリンター眼鏡ブランド「GLAFU 3D technology」を発表 ― 株式会社グラスファクトリー
以前よりご存じの方もいらっしゃるかと思いますが、このコラムバナーの私の顔写真で映っているメガネフレームも海外3Dプリント製(PA12材料 PBF製)です。このニュースでは別の工法と材料ですが、海外ではかなりメガネフレームAM生産は日本でも増えてきたことはうれしいニュースです。この例でも上記の②に当たると思います。当然組織としての利益が見込めるから始められたビジネスだと推測しますが、サイズ、デザイン、軽さ、丈夫さなど買って使う方にも付加価値があることは良い使い方だと思われます。メガネフレーム以外でも、似たビジネスモデルはありそうなので、この例をヒントにしていただければと思います。
ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!