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AM導入活用の正と負のスパイラルとは?

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸

イントリックス株式会社 丸岡 浩幸 樹脂製品メーカーで設計を14年、その後AMソフトウェア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、ShareLabを通じてAMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしています。

JIMTOFで感じたこと

先月から今月にかけて社会でも大きな選挙があったりして、いろんな変化が大きい月だったと思います。先週末川崎のランニング大会に参加しましたが、ほぼ夏と同じ格好でも暑かったと思えば、今日明日はコートが要るという気温の振れ幅で、1日の最低最高気温の差「日較差(にちかくさ)」という気象用語をテレビの天気予報で知りましたが、1日の中、または週の中でも気温差の大きい日がまだ続くようです。学級閉鎖になる学校も各地であるようですので、みなさんご自愛ください。

さて、11月5日~10日に東京ビッグサイトで開催された展示会「JIMTOF2024(第32回日本国際工作機械見本市)」にてShareLabもブース出展やセミナー開催をしてきました。今回は特別併催展として、Additive Manufacturing Area in JIMTOF2024が開催され、AMが少しずつ工作機械のひとつになりつつある変化も感じられました。その出展ブースのひとつに「金沢大学 人間・機械創造研究室」があり、まず研究室名が面白いと思ってお話を伺い、撮影可でしたので写真も掲載します。

3Dプリンターによるグリッパー

まず目を引いたのは、協働アームロボットのグリッパー(先端に取り付けて物をつかんだりする器具)を、用途ごとに最適な形状で、かつ樹脂MEX(材料押出法)3Dプリンターで作る前提で、鋭利な角がなく、強度方向性や応力集中を考慮し、造形時間やサポート量の少なくする形状に設計されているパーツが多く見られたことでした。このほか、ロボットの回転軸力をグリッパーの把持力に「からくり的」な機構で変換し、モーターや配線を減らせるグリッパーなどもあり、「3Dプリンターなしでは出来なかった(研究員談)」とのことでした。

 

3Dプリンターによる一体製造荷重センサー

また、光ファイバーによる荷重センサーは、従来後から組み立てる方法から、3Dプリントケースの層間に埋め込んで一体製造するため、MEX法3Dプリンターのノズルを改良し、積層途中の天面をノズルの熱で加熱しながら光ファイバーを埋め込み、また樹脂積層を再開して完成させていました。このように、若い世代の方々が積層造形の原理や特性を理解したうえで、これまでの常識にとらわれないアイデアで課題解決に取り組まれていることは、とてもすばらしいことだと思いました。

 

AM導入活用の正と負のスパイラル

JIMTOFでの主催者セミナーではShareLabが担当した「金属加工業とAMのベストプラクティス」の中で、私が司会を務めて公開グループインタビューを行いました。ここではShareLabの募集に応じていただきました、一成モールド様、キャステム様、前田シェルサービス様の方々にご登壇いただき、AM導入のきっかけから、導入時や導入後の苦労や、AMによる新たなビジネスや製品を開発した経緯、今後の展望など、リアルなお話を伺うことが出来ました。ここでは詳しくはお伝えしませんが、共通していたのは、最初は特に決まった成果やゴールの設定をせず安価な3Dプリンターを導入したこと、初めは寸法形状が正しく出ないなど苦労したこと、使っているうちに「これが出来た、次にこれが出来たら」と段階的に技術と用途を広げ、主業と並行して新しいビジネスを立ち上げられたことでした。また、AM導入の効果として、社内の「人」が少しずつ前向きな姿勢に変わっていったということも共通していました。つまり、AM導入活用において、初めから高い設定成果に直線的に向かうのではなく、小さいことから螺旋的に良い方に上っていき、結果として高い成果にたどり着く「正のスパイラル」が回せると成功しやすいのは、私のこれまで見聞きした範囲でも、企業規模の大小に関係なく共通していると、あらためて実感しました。

反対に初めはうまくいっていても、途中で「負のスパイラル」に陥ってうまくいかなくなる要因も、世界中で実例から出てきたいくつかの共通点があり、本やネット上の情報や、講演などから知ることが出来ます。例としては、2019年発売の書籍で英文になりますが、「Additive Manufacturing Change Management: Best Practices」(著者  David M. Dietrich他2名、出版 CRC Press)の中で、次のような要因が実話と共に示されています。

  • 社内選抜社員がAMへの置換え可能部品を多量の既存部品から長期間探し、数点しかなく、それも効果なく落胆する
  • トップダウンでAM導入と社内選抜で開発チームを作るが、優秀だが変化に抵抗する人を一人でも選んでしまうと右往左往して長期化し、かつ成果も出ない
  • 経営管理者がAMを理解せず、導入検討部署に任せるだけで進めると、部署間で責任転嫁や主導権争いが起きてしまい、連携ができなくなる。または経営管理職や組織の変更で方針や予算が変わってしまい、進めなくなる
  • 社員選抜AM導入チームは、はじめは協調的だが、時に新人や経験の浅い技術者が「猜疑心」から新技術に否定的になることがあり、また他者のデータを信用せず、過剰な評価試験を求める。また新技術を否定する道具として評価の長期化や、関係の薄いデータを集めたりする
  • AM活用のために経営層から戦略報告を求められ、社内会議、設計技術者への依頼、専門家指導によるアイデア出しに時間を使っても良いアイデアは出ず、報告のためにあいまいなゴール設定をしてしまう。そのため開発範囲が広がりすぎて多くの時間と費用を費やしてしまう

これらへの対策もそれぞれあるのですが、まとめると、様々な立場の人と適切なリーダーのチームにより、初めから大きな成果を求めず、ワイワイガヤガヤする場と実際に使う現場から活用アイデアを出し、まず小さな成果を出すところから始める、ということでしょうか。また、何かが出来ると次の要求が高まり、それが満たされると正のスパイラルになりますが、行き詰まったときに社内だけの知識や、これまで知っているツールだけで解決しないと「やっぱりだめか…」の負に戻ることがあります。その時は外部に相談してみたり、展示会などで新しいツールやサービスを知ることで、また正に戻せることもあります。前述の金沢大学の研究室でも、段階的にできることが増え、光ファイバーを埋め込むアイデアが出て、市販品では出来ないので出来る装置を作るという、正のスパイラルが回っていることがうかがえます。

今週11月19日~23日まで、ドイツ フランクフルトで世界最大規模のAM専門見本市「Formnext 2024」が開催されています。日本から出展や見学のために行かれている方も多いかと思います。ShareLabからは行けませんでしたが、新しい情報が多く発信されると思いますので、みなさんが正のスパイラルを回せるよう、ShareLabとしても情報提供をこれからもしていきたいと思います。

ShareLabニュースにもう一言

Solukon社が新型SFM-AT1500-Sデパウダーリングシステムを発表

海外のAM関連装置メーカーはFormnextで新製品を発表することが多いのですが、これもその一つです。3Dプリンターではなく、近年次々と開発発売されている大型金属PBF(粉末床溶融結合法)プリンター用の粉末クリーニングと回収の装置で、これがプリンターメーカーではないメーカーが開発販売していることから、海外では大型プリンターユーザーが増え、需要が増えていることが伺えますし、「餅は餅屋」の例えどおり、プリンターメーカーにはない技術でAM市場に参入する企業が増えることは、正のスパイラルで高まる要求や需要が早く適切に満たされることから、ユーザーにとっても良いことだと思いますし、日本の製造企業も世界のAM市場に参入の可能性があることも示しているニュースだと思います。

Formlabs 交流イベント「FORM MEET 2024」参加報告

こちらでも国内AMユーザーが正のスパイラルを回している事例発表を聞くことが出来ました。興味深い点は、大企業であっても社内の部署ごとにAMへの需要が異なり、それぞれに合ったプリンターが導入活用されてきたと同時に、社内やグループ内でAM関係者のつながりがようやくできていて、その成果を共有することで会社全体の活用増加と成果につながる正のスパイラルが回りつつあることと、またそれによる要求の高まりや変化により、適するプリンターが変わってくることもわかりました。さらに、このような対面イベントに参加し、雑談交流の中から課題解決の情報を得たケースが2件あり、これもAMの面白さでもあり、成功のヒントになると思いました。それでも大事なのは、社内の成果も課題も社外に積極的に伝えることから始まるということです。

ではまた次回。Stay Hungry, Stay Additive!

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