指向性エネルギー堆積法 / DED(Direct Energy Deposition)を解説!WAAM方式と何が違う?
指向性エネルギー堆積法は、レーザー(メタル)デポジションとよばれることもあり、粉末やフィラメント状の金属をレーザーや電子ビームなどで加熱、溶融し、積層する造形方式です。さまざまな材料を組み合わせることで、目的に応じた特性を持たせられ、造形速度が速いという特徴があります。
材料が粉末かフィラメントか、また溶融する際の指向性エネルギーの種類によって分類されるため、それぞれの特徴について解説します。
指向性エネルギー堆積法 / DED(Direct Energy Deposition)の種類
指向性エネルギー堆積法に含まれる造形方式の種類について解説していきます。
LENS(Laser Engineering Net Shape)
LENSは指向性エネルギー堆積法の中でもレーザーを用いた造形法で、日本語ではレーザー直接堆積法とよばれることもあります。レーザーを用いる金属3Dプリンターとして一般的な造形法としてSLSやSLMがありますが、LENSはこれらの造形法よりも優れた造形法として期待されています。
SLSやSLMはモデルを造形する溶融プールをモデル材となる粉末材料で満たしておく必要があります。粉末材料の中で硬化させる必要がある部分にレーザービームを照射することで、加熱・溶融・固化させて造形します。一方で、LENSではあらかじめ溶融プールを満たしておく必要はなく、ノズルから材料を噴射しながらレーザーで焼結し、モデルを造形していきます。
あらかじめ材料を準備しておかなければならないSLMに比べて、材料のコストを大幅に低減できます。造形物の形状によって変わりますが、一般的には半分程度に抑えることが可能です。また、造形スピードも4倍程度高速なため、加工コスト全体で見ると大幅なコスト低減が期待できます。
性能面では、SLMで課題となるレーザー焼結時の残留応力による形状変化は、LENSでは発生しにくいため造形の精度が高く滑らかな加工が可能です。また、噴射する金属を途中で切り替えることで、異種金属を組み合わせた造形ができる点も、SLMに比べ優れています。
SLSやSLMで造形できるものはLENSでも造形できるため、これらの造形法の発展版として注目されています。主な用途としては、試作品などの小ロット生産や金型の製作などが挙げられます。また、摩耗した部分に肉盛り補修できるので、使用された金型や部品の補修にも対応可能です。
MPA(Metal Powder Application)
MPAは、LENSと同様にノズルから金属粉末を噴射することで造形しますが、レーザーなどの熱源は使用しません。金属粉末を、圧縮加熱空気を用いて音速の3倍程度に加速させて噴射することで、金属の粒子を結合させることができ、熱源を用いなくても造形が可能です。
音速の3倍もの速度で金属を噴射し堆積させていくため、超音速堆積法とよばれることもあります。
熱源を使用しないので、熱源を使用するLENSなどの造形法では対応できなかった金属材料に適用可能なため、注目を集めています。また、噴射速度が速いことから、形状によりますが既存の金属3Dプリンターよりも100倍以上の速さで造形が完了できると言われています。
造形時間を大幅に短縮できることと、6軸のロボットアームを活用することでサポート材が不要と、生産コストの削減を実現可能です。一方で、MPAはまだ新しい技術であり、対応している3Dプリンターを開発している企業は多くはありません。一般に普及していくにはまだ時間がかかると考えられています。
WAAM(Wire and Arc Additive Manufacturing)
WAAMはワイヤー状の金属材料をアーク放電の技術で造形する方式です。一般的にはワイヤー状の材料が用いられますが、粉末材料に対応している設備もあるため、使用したい材料の入手性などから選択するといいでしょう。ただし、WAAMのメリットは、ワイヤー材料を扱えることによるものが多いので、粉末材料を用いる場合にはメリットを打ち消してしまう可能性があります。
ワイヤーは粉末材料よりも安価であり、また加工時の取り扱いも容易です。加えて、粉末よりも自由なデザインが可能なため、粉末材料では実現できないデザインでも対応できる可能性があります。
一方で、アーク溶接で造形するため、造形の精度は他の金属3Dプリンターに比べると高くはありません。目視で明確に分かる程度の大きさで、造形物の表面に凹凸が出てしまうため、その影響を気にする場合には、採用しないほうがいいでしょう。
主に表面の凹凸が気にならない、大型の構造物などに適用されることが多く、実際に橋をWAAM方式を用いて造形した実績もあります。
指向性エネルギー堆積法では融点の高い合金にも対応可能
指向性エネルギー堆積法は、粉末床溶融結合法の発展版とよべる製造法であり、残留応力の影響やコスト・造形時間の低減が期待されています。指向性エネルギー堆積法の中でも、ワイヤーと粉末のどちらを用いるのか、また金属を結合させる手段は何なのかによって、対応できる造形物の特徴や精度が大きく異なります。
造形法を選択し、設備を導入する前には、目的に合致した造形ができる方法や設備を選んでいるか、しっかり確認しましょう。