3Dプリンターで使える金属材料は?ステンレスやアルミニウムなど種類と特徴を解説
金属材料を造形できる金属3Dプリンターには、SLMやSLSを含むPBF(Powder Bed Fusion/パウダーベッド方式)、DED(Direct Energy Deposition/デポジッション方式)などがあります。近年では、主に樹脂材料の造形に用いられていたFDMによるものや、バインダーを噴射して金属粉末を結合させるバインダージェット方式による金属3Dプリンターなども使われるようになりました。BJT(Binder Jetting/結合剤噴射)による金属3Dプリンターは、樹脂の除去や、炉に入れて焼結させるなどの後工程が必要です。金属3Dプリンターは、高価で特殊な設備を必要とするものも多く、産業用で使用されるものが中心になります。3Dプリンターで造形できる金属材料は、ステンレスやアルミ、チタン、マルエージング鋼など各種あります。
ここでは金属、および樹脂以外に用いられる材料について解説します。
3Dプリンターの材料としての金属の種類・特徴
ステンレス
ステンレスは、鉄(Fe)にクロム(Cr)やニッケル(Ni)を含ませて作られた合金です。ISOの規格では、炭素を1.2%(質量パーセント濃度)以下、クロムを10.5%以上含む鋼と定義されています。英語ではstainless steelと表記され、stainlessとは「錆びない」の意味です。クロムが酸素と結合することで表面に形成される、1nm(ナノメートル)ほどの極めて薄い不動態皮膜(酸化皮膜)により、非常に高い耐食性を持ち、錆びの進行を止めます。耐熱性や強度にも優れています。
ステンレスは組織と成分からオーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系の3種類に分類されます。マルテンサイト系は、焼入れによってマルテンサイト組織が形成され、他の2種よりも硬度が高いです。他の2種よりも耐食性は下がりますが、耐熱性などに優れ、高熱にさらされる強度が必要な製品などに多く用いられます。代表的なものとしてはSUS410、SUS403などがあります。
フェライト系は、ニッケルを含まず、オーステナイト系より耐食性は劣りますが、高温環境下での耐食性に優れ、塩化物による応力割れが発生しません。代表的なものにSUS430があります。
オーステナイト系は、ニッケルを含み、他の2種よりも高い耐食性を持っています。焼き入れを行わず、硬さでは劣りますが、加工性は他の種類よりよく、幅広い用途に用いられるので、ステンレスのなかでもっとも使われています。代表的なものとしてはSUS303、SUS304、SUS316などがあります。
また、フェライト相とオーステナイト相を掛け合わせることにより強度と耐食性に優れ、塩化物環境下における耐食性が高い二相系(SUS329J4など)や、析出熱処理を施すことにより強度を高めた析出硬化系(SUS630)などもあります。
3Dプリンターで使用できるステンレスには、SUS316L、SUS630などがあります。航空機や機械の部品、治具等の造形に用いられています。
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インコネル
インコネルは、ニッケルを主体とし、鉄、クロム、ニオブ、モリブデンなどを添加することにより作られるニッケル合金です。成分の違いにより、インコネル600、インコネル625、インコネル718、インコネルX750などの種類があります。インコネルはスペシャルメタルズ社(旧インコ社)の商品名です。
非常に優れた耐熱性や耐食性を持つので、航空機のエンジン部品やガスタービンなどの発電所向け部品、航空宇宙関連の部品などに用いられています。高温強度が大きく熱伝導率が低いため、切削加工が難しく、難削材と言われます。3Dプリンターで用いられるのは、主にインコネル718です。3Dプリンターで造形することで、切削加工の手間が減ります。
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チタン
チタンは、軽く、強く、錆びにくい金属として知られています。比重が鉄の約60%、銅の約50%の軽さであり、比重当たりの強度は鉄の約2倍、アルミニウムの約3倍です。酸や塩水に対する耐食性は、プラチナに匹敵する高さがあります。耐熱性や安定性も高いです。航空や船舶の部品、建材、アクセサリー、スポーツ用品などに多く使われています。純度の高い純チタンと、モリブデン、クロム、ニオブなどを添加して機械特性や化学特性を高めた合金チタンがあります。熱伝導率が低いので、切削加工が難しい難削材になります。3Dプリンターでは、純チタン、64チタンが用いられます。
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アルミニウム
アルミニウムは、非常に軽い金属として知られています。比重は鋼材の3分の1程度です。比重当たりの強度は高いので、軽量化が必要な装置などに用いられることも多くあります。降伏点が低く、熱伝導性も高いので、塑性加工や切削加工がしやすく、融点が低いので鋳造にも向いています。薄い酸化皮膜に覆われているので錆びにくい性質もあります。
線膨張係数が大きいので、加熱、冷却が繰り返されるような部品では熱疲労による破損が起こりやすいので注意が必要です。また塩分の多い環境では腐食が起こることがあり、アルマイト処理などの表面処理が必要です。純アルミニウムは熱伝導性や導電率に優れますが、強度が低いため装飾品や外観を重視する製品のカバーなどに用いられます。マグネシウムや亜鉛などの添加、熱処理などにより、強度や耐食性を高めたアルミニウム合金が各種あります。
3Dプリンターには、AlSi12やAlSi10Mgなど、シリコンやマグネシウムを添加した鋳造(アルミダイキャスト)に用いられるアルミニウム合金が使用されます。AlSi12はアルミダイキャストに多く用いられるADC12より耐食性に優れますが、強度がやや下がります。AlSi10Mgは、耐衝撃性などに優れています。
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コバルトクロム
コバルトクロムは疲労強度が高く、高温、高圧に対して優れた耐久性を備えた合金です。ジェットエンジンの部品などの航空業界での活用の他、優れた生体適合性、耐摩耗性を持つことから、インプラントや人工関節など、医療業界でも多く用いられています。
加工硬化性が高く低熱伝導率でるため、切削加工が難しく、難削材とされます。溶融温度が高く収縮率が大きいため、鋳造時には注意が必要です。3Dプリンターによる造形により人口歯を短期間で製造する技術が実用化されています。
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マルエージング鋼
マルエージング鋼は、航空宇宙分野向けに開発された、高い強度と優れた靭性を持つ金属です。マルテンサイトに時効処理を行い析出強化させることで高強度、高靭性を実現しています。他にも、時効処理によるひずみの発生が少ない、窒化処理が容易、熱膨張率が少ない、耐低温脆性に優れているなど、各種の優れた特性を持っています。この特性を活かし、航空宇宙関係の部品の他、工具や射出成形金型、アルミダイカスト金型、ゴルフクラブヘッドなどに用いられています。
溶接がしやすく、切削性も良いので、3Dプリンターで造形した後、切削や研磨などの機械加工の他、放電、コーティングなど後加工が容易に行えます。耐腐食性はステンレスほど高くはありません。また、レアメタルを多く含むため値段が高価であり、ミサイル等の軍事関係や核開発などの部品に用いられることも多いため、輸出規制の対象にもなっています。
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銅
銅は、優れた導電性、熱伝導性を持った金属です。高周波焼き入れ用コイル、熱交換器、ヒートシンク、モーターコイルなどに用いられています。
高反射率、高熱伝導率が銅の特徴で、3Dプリンターでは造形が難しい素材と言われています。高反射率のためエネルギーを吸収しにくく、温度が上がりません。また、高熱伝導率により、融点を超えてもすぐに冷却されて融点以下となり凝固してしまいます。流動時間が短く、高密度にすることが困難です。赤色レーザーによる造形は難しいため、電子ビーム方式や緑色、青色レーザーによる造形が用いられています。
3Dプリンターで使用される銅は、純銅(電気銅:タフピッチ銅)や、クロムなどを添加した銅合金が用いられています。銅合金では、赤色レーザーによる造形も可能です。
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タングステン
タングステンは、常圧における融点が3380度であり、単体の金属では最も高い融点を持ちます。電気抵抗も金属としては比較的大きいです。この特性を用いて、電球のフィラメントに多く用いられてきました。比重も大きく、高い硬度も持っています。コバルトやカーボンなどを添加した合金は更に硬い金属となり、切削工具に使用されています。放射線遮蔽能力が高い、低熱膨張などの特性も持っています。
高融点で溶融時の粘度が高いため、3Dプリンターによる造形は難しいですが、材料や造形方法の研究により実用化が進んでいます。
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3Dプリンターの材料としての樹脂・金属以外の素材の種類・特徴
セラミックス(石膏)
3Dプリンターによるセラミックスの造形では、粉末状のセラミックスに樹脂を噴射しながら積層するバインダージェット方式によるものや、樹脂を含むペースト状のセラミックスに紫外線をあて成形する光造形方式のものなど各種あります。造形後は熱を加えて焼結することにより製品となります。型では作ることができない複雑な形状を造形することが可能です。焼結の際に縮むので、縮む分を考慮に入れた設計が必要になります。PBFによりレーザーで焼結させて造形する方法もあります。
石膏による造形は、強度が弱いのでフィギアの製作や、形状確認用のモデル製作などに用いられます。バインダージェット方式による造形が主に用いられ、フルカラーの造形にも対応しています。
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砂
砂を用いた3Dプリンターによる造形は、鋳造の砂型製作に用いられます。木型を作る必要がなく、複雑な形状の砂型を素早く作ることができます。
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まとめ
金属3Dプリンターによる金属材料の造形は日々進化しています。今までの機械加工では不可能だった形状の部品の製作が可能なため、部品に新たな機能を加えたり、より軽量化行ったりするなど、3Dプリンターに合わせた金属部品の設計方法も検討されるようになりました。今後、更に対応できる金属が増え、量産性なども高まることが考えられ、さらに利用が進むことが考えられます。