3Dプリンター導入企業必見!IPA洗浄と有機則の関係を徹底解説

光造形3Dプリンターの普及に伴い、製造現場でのUVレジン洗浄作業が増加しています。洗浄に使用されるIPA(イソプロピルアルコール)は、労働安全衛生法の「有機溶剤中毒予防規則(有機則)」の規制対象物質です。

本記事では、3Dプリンター導入企業が知っておくべきVOC・有機則の基礎知識から、具体的な安全対策まで、実務担当者向けに解説します。


1. そもそもVOCとは?

VOC(揮発性有機化合物)の定義

VOC(Volatile Organic Compounds)は、常温で蒸発しやすい有機化合物の総称です。一般的には沸点が50〜260℃の有機化合物を指します。

身近な例では、塗料の臭い、接着剤の臭い、新車の車内臭などがVOCによるものです。

なぜVOCが問題なのか

VOCは2つの観点から規制されています。

環境面: 大気中で光化学反応を起こし、光化学スモッグの原因となります。大気汚染防止法で排出規制があります。

労働衛生面: 作業者が吸入すると、頭痛・めまい・中枢神経障害などを引き起こす可能性があります。労働安全衛生法(有機則等)で規制されています。


2. 有機溶剤中毒予防規則(有機則)の基本

有機則とは

有機則は、労働安全衛生法に基づく省令で、有機溶剤による労働災害を防止するための規制です。対象となる有機溶剤は54種類あり、危険性に応じて第1種〜第3種に分類されています。

IPAの位置づけ

3Dプリンターのレジン洗浄で広く使用されるIPA(イソプロピルアルコール)は、第2種有機溶剤に分類されています。

項目内容
分類第2種有機溶剤
管理濃度200ppm
引火点11.7℃(引火性液体)
表示色黄色

事業場で有機則が適用される条件

以下の条件を満たす場合、有機則の規制が適用されます。

  1. 事業として有機溶剤を使用している
  2. 労働者が有機溶剤業務に従事している

つまり、企業で3Dプリンターを導入し、従業員がIPA洗浄作業を行う場合は有機則の対象となります。


3. 3Dプリンター作業で必要な安全対策

光造形3Dプリンターの化学物質リスク

光造形方式では、主に2つの化学物質リスクがあります。

1. UVレジン(未硬化状態)

  • 皮膚感作性(アレルギー誘発)
  • 皮膚・眼への刺激性
  • 水生環境有害性

2. 洗浄用IPA

  • 有機則第2種有機溶剤
  • 引火性液体(消防法危険物第4類)
  • 吸入による中枢神経への影響

有機則で求められる措置

IPAを使用した洗浄作業を行う場合、以下の措置が必要です。

換気設備の設置

設備要件
局所排気装置制御風速0.4〜1.0m/s以上(フード形式による)
全体換気装置局所排気が困難な場合の代替

作業環境測定

  • 実施頻度:6ヶ月以内ごとに1回
  • 対象:屋内作業場
  • 記録保存:3年間

健康診断

  • 実施頻度:雇入れ時、配置替え時、6ヶ月以内ごとに1回
  • 検査項目:業務歴、自覚症状、尿中代謝物、肝機能等
  • 記録保存:5年間

有機溶剤作業主任者の選任

  • 有機溶剤作業主任者技能講習の修了者を選任
  • 作業方法の決定、換気装置の点検、保護具使用の監視等を担当

保護具の備え付け

  • 防毒マスク(有機ガス用吸収缶)
  • 耐溶剤性手袋(ニトリル等)
  • 保護メガネ

掲示

  • 有機溶剤使用の注意事項
  • 中毒発生時の応急措置
  • 作業主任者の氏名
  • 黄色で第2種有機溶剤である旨を表示

4. 適用除外・緩和措置

消費量による緩和

1日の有機溶剤消費量が「許容消費量」以下の場合、一部規定が緩和されます。

許容消費量の計算式:

W = (2/5) x A x V^0.5

W: 許容消費量(g)
A: 作業場の床面積(m2)
V: 作業場の気積(m3)

計算例: 床面積20m2、天井高3m(気積60m3)の場合

W = (2/5) x 20 x 60^0.5 = 8 x 7.75 = 約62g/日

この場合、1日あたり約62g(IPAの比重0.79で換算すると約78mL)以下であれば、局所排気装置の設置義務等が緩和されます。

ただし、緩和されても全体換気は必要であり、健康診断等の義務は残ります。


5. FDM方式3DプリンターのVOCリスク

フィラメント加熱時のVOC発生

FDM(熱溶解積層)方式でも、フィラメント加熱時にVOCが発生します。

フィラメントVOC排出レベル主な発生物質
PLA乳酸、アセトアルデヒド
ABSスチレン、ブタジエン
PETGアセトアルデヒド
ナイロン中〜高カプロラクタム

特にABSから発生するスチレンは、特定化学物質障害予防規則(特化則)の第2類物質に該当するため、大量に使用する場合は注意が必要です。

対策

  • エンクロージャー(囲い)の設置
  • 活性炭フィルター付き排気装置
  • HEPAフィルターによるUFP(超微粒子)除去
  • 換気の確保

6. 低VOC化・代替手段

IPA代替の選択肢

方法メリットデメリット
水洗いレジンVOCほぼゼロ、有機則対象外洗浄水の廃液処理必要
エタノール洗浄有機則対象外、入手容易洗浄力がIPAより低い
TPM系洗浄液低VOC、蒸発が遅いコストが高い

水洗いレジンの注意点

水洗いレジンは有機溶剤を使用しないため有機則の対象外ですが、以下の点に注意が必要です。

  • 洗浄水にはレジン成分が溶出するため、そのまま下水に流せない
  • 廃液は産業廃棄物として適切に処理する必要がある
  • 未硬化レジン自体の皮膚感作性リスクは変わらない

7. 実務チェックリスト

導入前の確認事項

  • [ ] 使用するIPA量から許容消費量との比較を行った
  • [ ] 換気設備の要否を判断した
  • [ ] 有機溶剤作業主任者の選任計画を立てた
  • [ ] 健康診断の実施体制を確認した
  • [ ] 保護具を選定・発注した

運用時の確認事項

  • [ ] 作業場に注意事項を掲示している
  • [ ] IPAを密閉容器で保管している
  • [ ] 火気を管理している(引火点11.7℃)
  • [ ] 換気装置を稼働させている
  • [ ] 作業者が適切な保護具を着用している
  • [ ] 廃液を適切に処理している

定期的な確認事項

  • [ ] 作業環境測定を6ヶ月以内に実施している
  • [ ] 健康診断を6ヶ月以内に実施している
  • [ ] 換気装置の点検を1年以内に実施している
  • [ ] 記録を適切に保存している

8. よくある質問(FAQ)

Q1. 少量のIPA使用でも有機則は適用されますか?

A. はい、適用されます。ただし、許容消費量以下であれば局所排気装置等の一部規定が緩和されます。全体換気や健康診断等は必要です。

Q2. 自宅で趣味として3Dプリンターを使う場合は?

A. 個人使用は労働安全衛生法の対象外ですが、自身の健康のため換気と保護具の使用を推奨します。

Q3. 防毒マスクの吸収缶の交換時期は?

A. 使用環境により異なりますが、臭いを感じたら即交換が原則です。メーカー推奨の使用時間も参考にしてください。

Q4. IPAの保管で注意すべきことは?

A. 引火点11.7℃の引火性液体です。火気厳禁、密閉保管、直射日光を避けてください。40L以上を保管する場合は消防法の届出が必要です。

Q5. 廃IPAはどう処理すればよいですか?

A. 事業者は産業廃棄物として許可業者に委託処理します。レジン成分を含む廃IPAは特に適切な処理が必要です。蒸発させての廃棄は大気汚染防止法違反となる可能性があります。


まとめ

3Dプリンターの導入は製造業のDXを加速させる有効な手段ですが、化学物質管理の観点から適切な安全対策が必要です。

ポイント:

  1. IPAは第2種有機溶剤であり、有機則の規制対象
  2. 換気設備、作業環境測定、健康診断等の措置が必要
  3. 消費量が少なければ一部緩和措置あり
  4. 水洗いレジン等の代替手段も検討価値あり

安全な作業環境を整備し、3Dプリンターの導入効果を最大化しましょう。


関連法令・参考資料

  • 労働安全衛生法
  • 有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号)
  • 特定化学物質障害予防規則
  • 大気汚染防止法
  • 消防法(危険物の規制に関する政令)
  • 厚生労働省「職場のあんぜんサイト」
  • 中央労働災害防止協会「有機溶剤作業主任者テキスト」

本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な法令適用については、所轄の労働基準監督署や専門家にご相談ください。


執筆:ShareLab編集部

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