米マサチューセッツ州ウォルサムに本社を置くNano Dimension Ltd.(以下、Nano Dimension)は、完全子会社であるDesktop Metal, Inc.(アメリカ合衆国マサチューセッツ州、以下、Desktop Metal)が米国連邦破産法第11章(チャプター11:破産保護申請)の適用を申請したことを明らかにした。さらに、Nano DimensionはDesktop Metalの資産取得を行わないという戦略的判断も併せて発表した。(上部画像はNano Dimensionのプレスリリースより。出典:Nano Dimension)
目次
破産申請の背景と経緯
今回の破産申請は、Desktop Metalの独立取締役会により決定されたものである。同社は旧経営陣による経営判断の積み重ねにより、多額の負債を抱え、流動性にも深刻な課題を抱えていた。取締役会はこれらの課題に対応するため、あらゆる戦略的選択肢を検討するプロセスを実施した結果として、破産法の適用が最も妥当との判断に至った。
Desktop Metalは、金属をはじめとする多様な材料を用いたAM技術の商用化を進めてきたスタートアップ企業であり、一時は同分野の有望株として注目を集めていた。しかし近年、成長投資の過熱や財務構造の脆弱性が指摘されており、今回の申請はその帰結と見られる。
Nano Dimensionの対応と戦略
Nano Dimensionは、今回の事態に対して冷静な対応を示している。同社CEOであるオフィール・バハラヴ氏は次のように述べている。
「当社は財務的な健全性を堅持しつつ、業界内で最も資本力のある企業としての地位を守っている。これにより、戦略的な機会を最大の強みをもって追求できる体制を整えており、それが株主に対して果たすべき責任であると考えている。」
この発言は、Nano DimensionがDesktop Metalの事業資産を取得するのではなく、自社の技術開発や買収戦略に対してより慎重かつ選択的なアプローチをとる方針を明確に示したものといえる。
Nano Dimensionとは
Nano Dimensionは、プリント基板(PCB)やマイクロデバイスの直接製造を可能にする「アディティブ・エレクトロニクス」技術を軸に、防衛、航空宇宙、自動車、医療機器分野において先端的なデジタル製造ソリューションを提供している。近年はオンショア生産の需要増加や国家安全保障への関心の高まりを背景に、米国を中心にその存在感を強めている。
Desktop Metalとは
Desktop Metalは、金属や樹脂など多様な材料に対応した積層造形(AM)技術を開発・提供していた米国のスタートアップ企業である。同社はバインダージェット(BJ)方式やパウダーベッド溶融結合(PBF)方式などの異なる製造技術を組み合わせ、試作から量産まで幅広い用途に対応可能な製品ポートフォリオを構築していた。特に「Studio System」や「Production System」といったシリーズは、エンジニアや製造業者向けに高い操作性と生産性を提供することを目指して設計された。また、材料、ソフトウェア、造形装置を包括的に提供する垂直統合型のビジネスモデルを採用し、自動車、航空宇宙、ヘルスケア、産業機械など多様な分野での導入が進められていた。
市場への影響と今後の展望
Desktop Metalの破産は、3Dプリンティング業界にとって一つの転機となる可能性がある。同社はかつて、SPAC(特別買収目的会社)を通じて上場を果たし、上場直後には約30億ドル(約4,440億円)の企業価値を誇っていた。しかし、その後の株価は低迷を続け、経営再建が急務となっていた。
今回、Nano DimensionがDesktop Metalの資産を取得しなかった背景には、「財務健全性の維持」と「成長機会の精査」という2つのキーワードがある。同社は、資産価値に見合わない不採算事業の抱え込みを回避し、今後の買収や技術提携に備えて現金ポジションを保全する姿勢を取ったとみられる。
今後、Nano Dimensionは自社の技術基盤の強化や、より収益性の高いパートナーとの連携を模索する可能性が高い。市場関係者の間では、「同社がこのタイミングを逆手に取り、競合他社の混乱を機にプレゼンスをさらに強化するのではないか」との見方も浮上している。
金属3Dプリンティング業界の転機とNano Dimensionの戦略的対応
今回の破産申請は、金属3Dプリンティング分野の成長が必ずしも直線的ではなく、投資とリスク管理のバランスがいかに重要であるかを示す象徴的な事例となった。一方で、Nano Dimensionは冷静かつ戦略的な判断により、自社の財務と成長戦略のバランスを保ち、より強固な市場基盤を構築しようとしている。今後の業界再編や技術革新の流れの中で、Nano Dimensionがどのような選択を行うのか、業界関係者の注目が集まっている。
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