「ひょうごメタルベルトコンソーシアム」始動間近
産学連携の取り組みは各地で行われているが、3Dプリンティングの分野でも取り組みが始まっている。兵庫県立大学では、地元兵庫県が金属素材製造・加工企業の産業集積地という事もあり、金属3Dプリンティング設備等を備えた「金属新素材研究センター」を設置し、地域創生の取り組みを開始する。その名も「ひょうごメタルベルトコンソーシアム」。2019年8月30日に東京ビッグサイト青梅展示場で開催された産学連携の展示会イノベーション・ジャパン2019でも取り組みが紹介されていた。会場で、同取り組みを推進する産学連携・研究推進機構長である山﨑徹氏と同機構の東間清和氏に取り組みを伺った。
「ひょうごメタルベルト」とは?
「兵庫県の瀬戸内海沿岸は全国有数の金属素材製造・加工企業の集積地です。政府主導の地方創生戦略の中でも「ひょうごメタルベルト」と呼ばれています。造船や鉄鋼などの重厚長大型産業とそれを支える素材産業を製造する大企業と、製造された素材を加工する中小企業群が集積しているのです。(山﨑氏)」
しかしリーマンショック以降、工業統計上の出荷額ベースでは伸び悩み、活性化の起爆剤となる「何か」を模索している状況だったという。そこで出てくるテーマが「新素材開発」と「より高度な成型加工技術の開発」だ。
「大学は先端研究も行う研究機関ですから、新素材に対する取り組みに得意分野があります。一方でアプリケーション開発はどうしても不得手です。企業と連携してなにかを生み出したいという気持ちからのスタートでした。(山﨑氏)」
中小企業は取引先企業からのニーズの変化を肌身に感じている。また工場の海外移転などに伴い、下請け作業自体が減少したり内容が変わるという変化に対応しなければいけないという危機感がある。各社取り組みを続けているだろうが、なかなか独自の研究は資金的にも人員的にも取り組みにくい。例えば装置費用が高額な金属3Dプリンターの導入や用途検証を行うための敷居は高いのが現状だろう。
「金属新素材研究センター」という中核
「ひょうごメタルベルト」を盛り上げるためのコンソーシアムとして、金属3Dプリンターをはじめとした高額な装置を利用できる施設を提供することにしました。それが金属新素材研究センターです。(山﨑氏)」
材料開発、ナノ構造制御粉末開発、合金組成・形状分析、金属3D造形など金属材料の開発から加工まで各フェーズで存在するプロセスに必要となる高額な機材を備えた研究センターを利用しながら、自社の技術、製品の開発に取り組めるのは中小企業にとっては大きなメリットだろう。
分野・プロセス | 機材 |
材料開発 | 1)アーク溶接装置 2)高周波溶解装置 |
ナノ構造制御粉末開発 | 1)超急冷型ガスアトマイズ装置 2)雰囲気制御メカニカルアロイング装置 |
合金組成・形状分析 | 1)電子プローブマイクロアナライザ 2)走査電子顕微鏡 3)クロスセクションポリッシャ |
金属3D造形開発 | 1)電子ビーム金属3Dプリンター 2)レーザー金属3Dプリンター 3)電解メッキ設備・MEMS設備 |
例えば難削材と呼ばれる切削加工が難しい超硬度金属は融解させ、金属パウダーにすることで、金属3Dプリンターで造形できる、と言われている。しかしどの程度の細かさと形状であれば加工品質が安定化できるか等は試行が必要だ。コスト的な最適化も検討しなければならない。こうした課題を一社だけで取り組むことは難しい。もちろん費用的な負担はあるが、検討するための設備を購入することにくらべればはるかに安価に取り組みができる。
あらためてコンソーシアムについて
「コンソーシアムに参加した企業は各社で「できる事」を登録していただきます。相談があった際にはそのできる事に応じてマッチングさせていただくわけです。また兵庫県をはじめとした自治体や兵庫県立大学を中心とした大学・研究機関の情報提供も行います。コンソーシアム参加者には、新技術開発の材料、プロセス、装置に関する知見を高めてもらうために、装置を利用いただいたり、社会人・学生の教育をおこなう機会をご用意することもあるでしょう。」(山﨑氏)
新しい取り組みなので希望と不安が半々
「公平性の問題もありますので、設備を自由に開放する、というわけではありません。一社の利用時間などに制限を設けることもあるでしょう。例えば金属3Dプリンターを量産用に占有する等は難しいです。高額設備ですし、制御も複雑です。地域企業さんの技術力向上と人材育成が趣旨ですので、大学側が操作に立ち会うという形になると思います。材料費や電気代などもいただきます。 (東間氏)」
当然かかるものはかかるし、利用にあたっては現実的な制限もある。だが、取り組める場がある。設備がある。いままで取引がなかったけれど、実商談がない夢のような話に対して専門家から意見を聞ける。急な高スペック要求を相談できる先が増える。そうした入り口であり場を「ひょうごメタルベルトコンソーシアム」が用意してくれることの意義は大きいはずだ。
「金属3Dプリンターで造形できたワークを検証するための非破壊検査に関して、うちはこんなことができる!とお知らせいただいたり、旧車のレストアに取り組んでいる企業さまから、廃盤部品の製造開発に関する問い合わせがはいったり。ひょうごメタルベルトコンソーシアムの活動を通じて新しい出会いがいくつもありました。直近9月17日にキックオフするのですが、初年度は入会金・年会費等は無料で開始します。多くの企業さんとの連携で新しい価値を生み出したいと思っています(東間氏)」
コンソーシアムとしての利益を上げる考えはないとの事だが、金属3Dプリンターの造形材料費用のようにコストが発生する。また装置の操作立ち合いなど人的コストもある。そうしたコストに見合った「売上」の管理など、学究機関であった大学としては整備しながらのコンソーシアム開設で手探りしながら進めている途上だという。
「立ち上げたのが、大学ですからお支払いいただいた会費や材料費・電気代を管理する仕組みもありません(笑)すべては一から立ち上げているところです。(東間氏)」
穏やかにヴィジョンを説明してくださった山崎氏と軽妙な語り口で、活動内容を説明してくださったと東間氏の「新しい価値を創造していこう」という意気込みにお話を伺っていて大きな可能性を感じた。DMM.comが加賀市と連携するなどの取り組みなど新しい風も吹いている。産学連携の一環としての3Dプリンター活用や積層製造による地域活性化の取り組みは今後も各地で推進されるだろう。兵庫県立大学の「ひょうごメタルベルトコンソーシアム」がこうした動きのフラグシップシップとなるように応援していきたい。
2019年のシェアラボニュース創刊以来、国内AM関係者200名以上にインタビューを実施。3Dプリンティング技術と共に日本の製造業が変わる瞬間をお伝えしていきます。