中国・江南大学の研究チームが、空中でセラミックを3Dプリントする技術を開発
江南大学教授のLiu Ren氏率いる研究チームが、サポート材を使わずに自由な形状でセラミック材料を造形できる光造形技術(DIW-NIR技術)を開発した。従来の光造形で用いられる紫外線光による造形ではなく、近赤外線光(NIR)を造形に利用することで、セラミック粉末を溶かし込んだ泥(スラリー)状の材料を1秒間に1mmの造形速度で造形できる。(写真は自由な形状に造形したサンプル、出典:江南大学)。
UV光を使った従来の光造形方式によるセラミック造形ではサポート材が必要
セラミックは、その構造安定性・耐摩耗性・高温耐久性により、機械工学やエレクトロニクス、航空宇宙分野などで広く使用されている。しかし、セラミックは「硬い」「粘りがない」「脆くて割れやすい」といった特性があり、複雑な部品の製造は難易度が高いとされてきた。
複雑なセラミック部品を効率的かつ便利に製造する方法として注目されてきたが、セラミック3Dプリンティングでは、サポートされていない部品の崩壊を防ぐために追加のサポート構造が必要だった。サポート構造は造形後に除去する必要があるが、サポート造形や除去にはコストと時間がかかる。加えて、サポート除去時に損傷も懸念される。また、造形したい部品の内部に中空構造がある場合、サポートが配置されると除去できないという課題もある。
サポートレスを実現するために遠赤外線光を利用
光造形方式でセラミック材料を加工する際は、スラリーと呼ばれる、セラミック粉末を光硬化性の液体材料に混ぜ合わせ泥状にした材料を用いることが多い。この光硬化性スラリーの中には大量のセラミック粒子が浮遊しているため、光が散乱したり屈折したりする。そのため、UV光を使った造形速度は通常の光造形に比べると遅くなる。
そこで研究チームは、サポートレス造形を目指して研究チームは硬化に用いるレーザーの改良に取り組んだ。研究チームが注目したのは、近赤外 (NIR) 光だ。UV光と比較して、遠赤外線光はさまざまな媒体への透過力が強い。紫外線ではなく遠赤外線で硬化する材料と装置を開発し、さまざまな形状の造形に挑戦した。研究成果はNatureで発表されているので、詳細はそちらを参照されたい。
従来サポート材なしでは困難だった急な勾配を持つローアングル構造や水平方向への造形もサポートレスで造形でき、ねじりバネや三次元曲げ、片持梁の試験造形にも成功している。光造形方式によるサポートレスなセラミック造形の可能性を大きく広げたといえるだろう。
印刷された曲線はサポートなしで空間内に自由に拡張でき、造形プロセスには加熱や冷却を必要としない。ここで造形されたグリーン体には樹脂が含まれるため脱脂工程を経て、焼結することでセラミック部品を製造できる。
研究チームを率いたLiu氏は材料の組成や造形パラメータ(ノズル径、押し出し圧力、移動速度、光の強さなど)を改良することで、より解像度が向上し、精緻な造形を実現できるとして研究を継続する意向を示している。
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