「4DFFカンファレンス2024」参加報告 3D+1Dが拡げる価値と可能性
2024年10月23~25日に「4DFF(4D and Functional Fabrication)カンファレンス2024」が開催された。これは2019年2月に設立された(一社)日本画像学会内の研究グループ組織である「4DFF研究会」が2018年から年1回継続開催する、「これまでの3D造形・再現技術を超えていく新しい価値創造を目指した研究・開発」の成果を発表するカンファレンスで、シェアラボからは丸岡が参加したので、注目した研究、発表について要点をお伝えする。(会場内全域撮影不可のため、写真は会場外で記者撮影)
4DFFカンファレンス2024とは
主催 :4DFF研究会(一般社団法人 日本画像学会)
後援: やわらか3D共創コンソーシアム 慶應義塾大学SFC研究所 デジタル駆動超資源循環参加型社会共創コンソーシアム
4DFF2024大会実行委員長:藤井 雅彦(慶應義塾大学SFC研究所)
今回は三菱ケミカル株式会社 Science & Innovation Center(神奈川県横浜市)の会場とオンライン参加の選択制で開催された。その他開催中に三菱ケミカル研究施設の見学会、発表者・参加者による懇親会も開催された。
発表分野:
「これまでの3D造形・再現技術を超えていく新しい価値創造を目指した研究・開発」に関する分野
・マテリアルデザイン(材料、物性制御等)・ハードウェア(3Dプリンタ等)・ソフトウェア(モデリング、シミュレーション、DfAM等)
・制度、法律・ビジネスモデル(サステナビリティ他)・流通、SDGs ・オプティマイゼーション・表現・文化(アート、エンターテイメント等)
・生活(教育、衣食住、健康、インフラ等)・QOL ・たのしさ、うれしさ、おもしろさ
基調講演:王 忠奎(立命館大学)「3D/4D プリンティングを活用したソフトロボティクス」
招待講演1:髙田 勝之(富士フイルム)「構造色インクジェット技術を用いた新しい加飾表現」
招待講演2:斉藤 一哉(九州大学)「生物模倣スマートマテリアルの開発」
注目した研究及び内容
開会にあたり、藤井実行委員長から下記挨拶があった。
本会では研究開発発表件数が50件となり、これまで最多の38件を大幅に上回り、開催期間を2.5日に延長した。この背景には4DFFの設立趣旨に時代が追い付いてきたこと、4番目のD=価値を創出する研究開発が増えてきたこと、4DFFカンファレンスが発表の場として認識が広まったことがある。また国際化を目指してきたが、今回初めて台湾から4件発表があることは喜ばしい。本会を通し課題を参加者全員で共有し、今後の研究に活かしてほしい。
今回は以前にも増して、特に若い世代の研究者たちが、様々な社会環境問題の解決を目指した研究が増えたようであった。例として、樹脂AMと竹を組み合わせた製造法、菌糸を構造材に使うための型枠、廃人工芝のアップサイクル、また食を通して様々な楽しさを提供する方法、生物の形や色を再現し省資源で効率の良い工業品を作る方法、労働力不足対策として、AMと軟質材により食品を壊さずつかめるソフトロボティクスの研究などがあった。以下に一般のAM活用にも参考となる研究発表をひとつ紹介する。
絵画とその立体複製画の色と高さの再現性について
発表者:明星大学 田島氏
発表概要は、2023年4月に博物館法が改正施行され、重要文化財のデジタルアーカイブに注目が高まっている背景から、油絵絵画の色と凹凸(マチエール)を再現した複製品をより簡単に作ることを目的とした研究とのこと。原画が強い光で劣化する問題を考慮して、レーザースキャンを使わず、カメラでの複数方向画像から立体データを作るフォトグラメトリスキャンシステムを開発、市販ソフトウェアで立体化、簡単な補正、フルカラーマテリアルジェッティング3Dプリンターで複製画を作り、更に油絵具とプリント材料の色認識の違いの定量化と、それを補正するフィルター付き光源を開発し、人による官能試験で原画に近い評価を得ることが出来たという研究であった。絵画や文化財の3Dスキャンと3Dプリンターによる複製品製造は20年以上前から行われているが、スキャナーの性能、スキャニングによる現物への影響、スキャンデータの人による加工の膨大な工数、3Dプリンターの形と色の再現能力など、課題も多かったが、この研究ではハード、ソフトの進化をうまく利用し、かつ足りないところはプリント後のコーティングや、見るときの光源を最適化するという、大変実用的な方法であると感じた。他のAMの活用の課題解決にも、従来にこだわらず、最新の市販ツールを組み合わせ、足りない性能は他のツールで解決する考え方は、大変参考になるのではないだろうか。
三菱ケミカル研究施設見学
本会プログラムのひとつとして、希望参加者による三菱ケミカル Science & Innovation Center 施設内部の見学会があり、記者も参加した。同施設は、従来各地に分かれていた、または古くなった施設を統合した新しい施設で、非常に新しいデザインで、高度で多彩な分析研究装置が、廊下から見える透明な壁で仕切られた部屋に多数配置された、素晴らしい施設であった。研究成果の展示ルームには、3Dプリンティングに関わる展示もあり、材料押出法(MEX)3Dプリンター樹脂フィラメントのZ方向引張強度低下を改善するABSやPA6材料の展示があった。また、炭素長繊維と熱硬化材料で成形された複合材料をリサイクルする技術の展示、再生した粉砕炭素繊維を樹脂に混錬し、3Dプリンティングで成形したサンプルもあり、サーキュラーエコノミーの需要に対する技術開発も盛んにおこなわれていることを知ることができた。受付から施設までの歩道には、以前シェアラボニュースでも取り上げた、植物由来ポリカーボネイトのイソソルバイド(イソソルビド)を主原料とする三菱ケミカルグループ製品「DURABIO」とペレット式大型3Dプリンターで作られた透明なベンチが置かれ、実際に座り、夜には内部照明により大変美しい景色を楽しむこともできた。
まとめ
記者は2018年初回から本会に参加してきたが、当時から若い学生の方を中心に、工業の中の3Dプリンティングとは異なる視点と発想で、温度や時間で形状が変わる3Dプリント材料やフードプリンターを使ったユニークな応用研究などが多数発表され、世界的にも例を見ない独特なカンファレンスであった。コロナ禍の間もオンラインで継続して開催されてきた関係各位のご努力の結果、研究範囲も3Dプリンター関連に限らず拡がり、また+1Dは時間、空間や人の感情など様々な定義や解釈があってよく、以前に増して3D+1Dの様々な価値と可能性を見出すことが出来た大変良い機会であった。AM活用の視野を広げたり、新しい研究や用途のテーマ、共同研究者を探すことに興味がある方には4DFF研究会、または次回のカンファレンスへの参加をお勧めしたい。
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設計者からAMソフトウエア・装置販売ビジネスに20年以上携わった経験と人脈を基に、AMに関わるみなさんに役立つ情報とつながりをお届けしていきます。