ESAとArianeGroup、新型ロケットエンジン「Greta」の試験に成功 AMによる燃焼室設計が鍵に

2026年3月30日
出典:ESA
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欧州宇宙機関(ESA)とArianeGroupが共同開発した新型ロケットエンジン「Greta」が、初の試験キャンペーンを完了し、安定した動作を実証した。本エンジンでは、燃焼室の製造に金属3Dプリンティングが活用されており、従来の製造手法では困難だった構造設計が実現されている。今回の成果は、宇宙分野におけるAMの重要性を改めて示す事例といえる。

AMによる燃焼室製造、複雑構造を実現

Gretaの燃焼室は、高さ30cmの構造体をレーザーで金属粉末を溶融しながら積層する方式で製造されている。これは、ArianeGroupがこれまでも採用してきたレーザーパウダーベッドフュージョン(LPBF)技術によるものとみられる。最大の特徴は、燃焼室の内部構造にある。壁面内部に複雑な冷却流路が直接組み込まれており、冷却材が燃焼領域から数ミリの距離を循環する設計となっている。燃焼温度が2000℃を超える環境下で、このような近接冷却を実現するには高度な設計自由度が不可欠であり、従来の鋳造や機械加工では対応が難しかった領域である。AMの採用によって、機能統合型の構造設計が可能になった典型例といえる。

Gretaは、アリアン6の上段であるAstrisや、将来の月着陸船などに向けて設計された、推力5kN級のエンジンである。出典:ESA
Gretaは、アリアン6の上段であるAstrisや、将来の月着陸船などに向けて設計された、推力5kN級のエンジンである。出典:ESA

燃料は過酸化水素+エタノール、ヒドラジン依存から転換

Gretaは推進剤にも特徴がある。従来、このクラスのエンジンで広く使用されてきたヒドラジン(モノメチルヒドラジン)ではなく、過酸化水素とエタノールの混合燃料を採用している。ESAによれば、この組み合わせは環境負荷の低減につながる選択肢であり、カーボンフットプリントの削減が期待されている。2025年7月から11月にかけてドイツ・トラウンで実施された試験では、40秒以上の連続燃焼を含む条件下でも安定した運転が確認され、複数回の再始動や停止時の挙動も含めて良好な結果が得られた。

次フェーズは約300万ユーロ、飛行用設計へ

今回の成果を受け、プロジェクトは次の開発段階へ移行する。約300万ユーロ(1ユーロ160円換算で約4億8,000万円)の予算が投じられ、試作機を飛行用エンジンへと発展させることが目標となる。このフェーズでは欧州内の連携も強化され、以下の企業・研究機関が参画する予定である。

  • Safran Aero Boosters(ベルギー)
  • Aviation Institute(ポーランド)
  • InPraise Systems(チェコ)

これらのパートナーは、エンジン周辺コンポーネントの最適化やシステム全体の高度化に取り組む。

編集部コメント

宇宙分野ではここ数年、燃焼室の3Dプリント化が急速に進んでいるが、Gretaは「内部流路の一体造形」という点で典型的な成功事例である。特に注目すべきは、冷却設計と製造技術が完全に一体化している点だ。従来は製造制約に合わせて設計を妥協する必要があったが、AMでは設計主導で構造を最適化できる。また、ヒドラジンからの転換という点も重要であり、環境対応と安全性の観点からも今後の標準設計が変わる可能性がある。航空宇宙分野におけるAMは、単なる軽量化や部品統合にとどまらず、「設計思想そのものを変えるフェーズ」に入っているといえるだろう。

用語解説

■ レーザーパウダーベッドフュージョン(LPBF)
金属粉末を薄く敷き詰め、レーザーで選択的に溶融・凝固させることで3次元形状を造形する金属3Dプリント技術。高精度かつ複雑形状の製造が可能で、航空宇宙や医療分野で広く活用されている。
■ ヒドラジン(モノメチルヒドラジン)
ロケットや人工衛星の推進剤として広く使用されてきた化学物質。高い推進性能を持つ一方で毒性が強く、取り扱いの安全性や環境負荷が課題とされている。
■ 再生冷却(リジェネラティブ冷却)
燃焼室の壁面内部に流路を設け、推進剤や冷却材を循環させることで高温から構造を保護する冷却方式。3Dプリントにより複雑な流路設計が可能となり、性能向上に寄与している。

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