光でつくるアクチン3Dプリンター!細胞の形を自在にデザインする技術

2025年9月19日
理化学研究所のプレスリリースより。

私たちの体をつくる細胞は、常に姿を変えながら働いている。移動したり、二つに分かれて増えたりする動きは、細胞の「骨組み」となる仕組みに支えられていて、その骨組みの正体は「アクチン」と呼ばれるタンパク質。理化学研究所の研究チームは、このアクチンを材料に、光を当てるだけで三次元の構造物をつくり分けることができる新しい技術を開発した。研究者たちはこれを「アクチン3Dプリンター」と呼んでいる。まさに、細胞の世界に小さな工場をつくるようなもので、この成果は、細胞がどうやって形を変えるのかという基本的な謎の解明に役立つだけでなく、将来は「分子ロボット」や新しい医療技術の開発にもつながる可能性があるという。(上部画像は理化学研究所のプレスリリースより。出典:理化学研究所)

アクチンとは何か

アクチンは直径わずか5ナノメートルほどの小さな球状タンパク質である。ひも状につながることで「アクチン繊維」となり、それが絡み合って細胞の中に網の目のような構造をつくる。この網の目は、細胞が形を変えたり動いたりするための足場や支えとなる。

また、アクチンにはさまざまな仲間が関わる。たとえば「ミオシン」というタンパク質は力を生み出し、「コフィリン」というタンパク質はアクチンを切って分解する。これらの働きが合わさることで、細胞は必要に応じて柔軟に形を変えられる。

しかし、これまで「アクチンの網の目がどれくらい密であるか」が仲間のタンパク質の働きにどう影響するのかはよく分かっていなかった。

光で操る新しい仕組み

研究チームが注目したのは「光遺伝学」という技術だ。これは光に反応するタンパク質を使い、細胞の中の分子の働きを光でコントロールする方法である。

今回の研究では、細胞膜の代わりになる人工的な膜を用意し、そこに光を当てるとアクチンをつなげるための分子(NPF)が集まるようにした。光の強さを変えると集まる量も変わり、それによってアクチンの網の目の密度を自由に変えられる。

光の当て方を工夫すれば、柱のように伸びる構造や、シートのように広がる構造、さらにはリング状の構造まで、さまざまな三次元の形をつくることも可能になった。

ミオシンとコフィリン

研究チームは、こうしてできたアクチンの構造にミオシンやコフィリンを加え、どう作用するかを調べた。

ミオシンとコフィリンはいずれもアクチンという細胞骨格に関わる重要なタンパク質である。ミオシンはATPというエネルギー分子を利用して力を生み出し、アクチンの繊維の上を移動することで細胞を引っ張ったり収縮させたりする。筋肉が収縮する仕組みもこのミオシンの働きによる。一方、コフィリンはアクチン繊維を切断し、分解する役割を担う。これにより古い繊維が取り除かれ、新しい繊維が作られる循環が可能になる。細胞が移動したり方向を変えたりするとき、ミオシンは力を与え、コフィリンは骨格の組み替えを助ける。この二つが協調することで、細胞は自在に形を変えながら生命活動を営むことができるのである。

アクチンの密度が決める仲間タンパク質の働き

結果、ミオシンは密度の高いアクチンの網には入り込めないことがわかった。さらに、網の目の密度に差があると、その勾配に沿ってアクチンの構造全体が動く現象も確認された。これは、実際に細胞が分裂するときに観察される「くびれ」に似た動きだ。

一方、コフィリンは小さな分子のため網の中に入り込むことはできたが、密度が高いほどアクチンを分解する力が抑えられることが明らかになった。つまり、アクチンの網の目の密度は、仲間のタンパク質が「入り込めるかどうか」だけでなく、「本来の働きを発揮できるかどうか」までも左右することが示されたのだ。

なぜ大事なのか

細胞の動きは、がんの転移や体の発生過程など、生命の根幹に深く関わっている。今回の研究は、その仕組みを理解するための強力な道具となる。

また、光で操作できるという点も大きい。光はオン・オフの切り替えや形の指定が容易なため、アクチンを使って「細胞の中に好きな構造物をつくる」といった実験が可能になる。これは、生きた細胞をそのまま操作する新しい研究方法にもつながる。

さらに、アクチンは生体適合性が高い材料でもあるため、人工的な分子ロボットや新素材の開発にも応用できる可能性がある。

今後の展望

研究チームは、今後さらに多様なタンパク質との組み合わせを調べ、細胞の形や動きがどのように決まっているのかを探っていく計画だ。

「アクチン3Dプリンター」は、細胞生物学の基礎研究を進めるための新しい武器であると同時に、医療や材料科学の分野でも大きな可能性を秘めている。

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