ラトガース大学、3Dプリンターのサイバー攻撃に対抗する「デュアル・デジタルツイン」技術を提案

デジタルツインにより、造形の補正が適切に行われることが確認された。(出典:Cleemanら)
デジタルツインにより、造形の補正が適切に行われることが確認された。(出典:Cleemanら)

製造業に対するサイバー攻撃は年々深刻化している。特に3Dプリンティング(AM)はデジタルデータに依存する特性上、攻撃の影響を受けやすい領域である。こうした中、Rutgers Universityの研究チームは、AMシステムのサイバーセキュリティを強化する新たな手法として「デュアル・デジタルツイン」を提案した。生産を止めずに異常を検知・修正するというアプローチであり、製造現場のレジリエンス向上に向けた新たな方向性を示している。

製造業は依然として最大の標的

IBMの調査によれば、製造業は5年連続でサイバー攻撃の最大の標的となっており、2026年には全体の27.7%を占めた。さらに、Arctic Wolfによると、製造業のランサムウェア被害は中央値で60万ドル(1ドル150円換算で約9,000万円)に達し、停止による損失を含めると被害額は数億円規模に膨らむケースもある。背景には、旧式ソフトウェアの利用や複雑なネットワーク構成、そしてサプライチェーンの中核に位置する産業構造がある。一度の攻撃が広範囲に波及するため、攻撃者にとって「効率の良い標的」となっているのが実情である。

AM特有のサイバー攻撃リスク

積層造形におけるサイバー攻撃は、従来のITシステムとは異なる形で現れる。例えば、設計データを改ざんし、フィレットの欠落や微細な形状変化を意図的に仕込むことで、外観では検出困難な欠陥を生じさせることが可能である。また、プロセス条件を操作することで内部空隙などの構造欠陥を発生させるケースもある。こうした攻撃は品質不良にとどまらず、航空宇宙やインフラ用途では重大事故につながるリスクを孕む。従来は異常検知後に生産を停止し、原因調査を行うのが一般的であったが、このプロセスには数週間を要する場合もあり、現場への影響が大きかった。

生産を止めない「デュアルDT」アプローチ

今回の研究の特徴は、「止める」のではなく「維持する」ことにある。ラトガース大学のRajiv Malhotra准教授らは、2つのデジタルツインを組み合わせたフレームワークを構築した。1つ目は形状に焦点を当てた「Geo-DT」である。物理ベースのソフトセンシングとトポロジー最適化を活用し、形状のズレや欠陥を検出し修正する。2つ目はプロセスに対応する「Pro-DT」であり、強化学習を用いてリアルタイムでプロセス条件を最適化し、異常に対応する。実験では、元の設計データが不明な場合でも形状修正が可能であり、さらに予測困難な異常にも柔軟に対応できることが確認された。未知の攻撃にも対応できる点が大きな特徴である。

本研究のグラフィカルアブストラクト。(出典:Cleemanら)
本研究のグラフィカルアブストラクト。(出典:Cleemanら)

サイバーセキュリティと製造技術の融合へ

本研究は、National Science FoundationおよびU.S. Department of Energyの支援を受けて2024年に開始された。今後はセンサー信号への攻撃対策や、作業者・設備の安全性確保、さらにはハイブリッド製造への展開も視野に入れている。AMの普及が進むほど、サイバーセキュリティは避けて通れないテーマとなる。今回の研究は、「デジタルで作る」製造業において、防御もまたデジタルで行うという方向性を明確に示したと言える。

編集部コメント

3Dプリンターのリスクというと材料や強度の話に目が行きがちだが、実際には「データが壊される」リスクのほうが深刻である。特にAMは設計データそのものが製品品質を左右するため、攻撃の影響がそのまま物理的欠陥として現れる。今回のポイントは、生産停止を前提としない点にある。製造現場において「止める」は最もコストが高い判断であり、それを回避するアプローチは現実的である。今後は装置メーカーやソフトウェアベンダーがこうした仕組みをどこまで実装できるかが焦点になるだろう。

用語解説

■ デジタルツイン
現実の装置やプロセスをデジタル空間上に再現し、状態監視やシミュレーションを行う技術。製造現場では設備の最適化や異常検知に活用される。
■ 強化学習
AIが試行錯誤を繰り返しながら最適な行動を学習する手法。製造プロセスのリアルタイム最適化などに応用されている。
■ ソフトセンシング
実際のセンサーでは取得できない情報を、既存データやモデルから推定する技術。装置内部の状態把握などに用いられる。

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