金属3Dプリンターで「骨が2ヶ月で固まる」脊椎スペーサーを開発——ナカシマヘルスフォース(旧・帝人ナカシマメディカル)、第49回井上春成賞を受賞

帝人ナカシマメディカル(ナカシマヘルスフォース)第49回井上春成賞 中島義雄会長 授賞式

大阪大学大学院工学研究科の中野貴由栄誉教授と帝人ナカシマメディカル株式会社(現・ナカシマヘルスフォース)は2024年7月、第49回井上春成賞を受賞した。受賞技術は「強固な配向骨を誘導する積層造形椎間スペーサー」。金属3Dプリンターの精密造形能力を最大限に引き出した産学連携の成果として、国内の研究開発領域における権威ある賞に輝いた。


井上春成賞とは

井上春成賞は、大学・研究機関などの独創的な研究成果を基に企業が開発・実用化した技術のうち、日本の科学技術の進展や経済の発展・福祉の向上に貢献した優れた研究開発を、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)が表彰するもの。産学連携の成果に特化した賞として、国内の研究開発領域において高い権威を持つ。


何が評価されたのか——「骨が2ヶ月で固まる」椎間スペーサー

従来技術の課題

脊椎疾患の手術では、隣接する椎体の間に「椎間スペーサー(脊椎ケージ)」を設置し、骨同士を癒合させて固定する。しかし従来品には2つの大きな問題があった。

1つ目は、骨癒合を促すために患者自身の骨(自家骨)を採取して充填する必要があること。採骨は患者への追加侵襲を意味する。

2つ目は、骨癒合が不十分な場合にスペーサーが移動・脱転するリスク。骨が十分に固まるまでに約1年を要していた。

HTS構造という革新

中野栄誉教授の研究が明らかにした「骨基質配向性」——健常な骨を構成するコラーゲンとハイドロキシアパタイトの配向パターン——をスペーサーの形状設計に組み込む発想が突破口になった。

開発チームは「HTS構造(Honeycomb Tree Structure:ハニカムツリーストラクチャー)」と名づけた独自の多孔体構造を考案。この構造が骨基質の配向化を誘導し、強固な骨再生を促すことが確認された。

金属3Dプリンターでなければ作れない形状

HTS構造の実現には、精密な微細構造を持つチタン合金部品の造形が不可欠だった。これを可能にしたのが、帝人ナカシマメディカルが長年蓄積してきた金属3Dプリンター(粉末床溶融結合方式)による積層造形技術だ。

切削加工では作り出せない複雑な内部構造を、金属3Dプリンターが精密に再現する。同社は2017年に国内唯一の金属3Dプリンターを活用したオーダーメード人工股関節で製造販売承認を受得した経緯があり、医療機器分野での積層造形ノウハウが厚い。

臨床的な成果

  • 骨との初期固定力が従来品の約5倍に向上
  • 椎体間固定にかかる期間が従来の1年から2ヶ月に短縮
  • 自家骨採取が不要に(患者への侵襲を軽減)

製品名は「UNIOS PLスペーサー」(医療機器製造販売承認番号:30300BZX00111000)として上市されている。


シェアラボ編集部コメント

金属3Dプリンターを「複雑な形状を安く速く作る道具」として捉えるだけでは、この事例の本質は見えない。HTS構造という医学的知見を形として実装するために3Dプリンターが使われた——つまり「既存製法では実現できない設計を可能にするインフラ」としての役割が評価されている。

同社はその後も2025年に大河内記念技術賞、2026年にはものづくり日本大賞 内閣総理大臣賞(第10回)を受賞しており、一連の受賞は同一技術系譜の深化として捉えられる。

📷 アイキャッチ画像出典:ナカシマヘルスフォース株式会社 「受賞歴」ページ(https://www.nhf.co.jp/rd/performance_01/)より。第49回井上春成賞 授賞式写真。

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