サンゴ礁保全に3Dプリンターが貢献!?
イスラエルの4大学からなる研究チームは、サンゴ礁保全のための新たな3Dプリンティングプロセスを開発した。周辺環境や生物遺伝情報をも取り込んだ3Dプリントモデルは、世界中の様々な環境に適したデザインを提供でき、サンゴ礁再生への貢献が期待される。(写真は サンゴ礁由来の素材で作られたタイル/出典:香港大学 )
環境保全に向けた関心の高まり
近年、脱炭素や環境保全、生物多様性などに対し、社会の関心が高まっている。こうした問題に対して、3Dプリンター業界も敏感に反応している。以下リンクではその代表例を紹介した。
「大手企業が進める3Dプリンターを用いた環境への取り組み事例」
サンゴ礁の減少は人類が引き起こした環境破壊問題の1つであり、温暖な沿岸国家でとりわけ関心が高い。
美しいサンゴ礁は私たちの目を楽しませてくれるだけでなく、サンゴ礁に生息する海洋生物の生命線でもある。サンゴ礁の減少は、生物多様性の崩壊にも繋がっているのだ。
こうした状況を鑑み、サンゴ礁保全に対しても3Dプリンターの活用が進められている。
ケンブリッジ大学、カリフォルニア大学、香港大学は、サンゴが付着しやすい環境を整えるため、サンゴの構造を模倣したタイルを3Dプリントし、設置を行った。
サンゴ礁の自然な複雑さを再現するモデルの構築
イスラエルの主要な4大学(バーイラン大学、テクニオン、ハイファ大学、テルアビブ大学)からなる研究チームは、従来のサンゴ礁再生活動から更に進んだ3Dプリントプロジェクトを進めている。
本プロジェクトの最大の特徴は、特定環境に適したサンゴ礁を3Dプリント可能なアルゴリズムにある。つまり、サンゴ礁を再生させたい地域の環境データを入力すれば、その地域に合った人工サンゴ礁の形状を導き出せる計算式だ。
サンゴ礁は世界的に広く存在し、サンゴ礁の置かれている環境もそれぞれ異なる。3Dプリンターを使って世界中のサンゴ礁を再生させるためには、地域にあったサイズや構造を提供できる仕組みが必要だった。
研究チームは、周辺環境や生物の分布がサンゴ礁の形状にどのような関係があるのかを広く調査した。サンゴ礁に関する何千もの水中写真撮影や、環境遺伝情報の収集はその一環だ。こうした情報をサンゴ礁の形状と関連付け、環境に最適な形状を導き出すアルゴリズムを作り出した。
エイラート湾へ3Dプリントサンゴ礁を設置
研究チームは、サンゴ礁の3Dプリントアルゴリズムの有効性を実証するために、エイラート湾(イスラエル南部)に人工サンゴ礁を設置した。
生物由来の特殊なセラミックを用いた人工サンゴ礁は、水中で多孔質化し、サンゴの生育に適した構造を提供する。複雑な構造を作り分けることができるのは、3Dプリンターならではの特徴と言えるだろう。
現在は、3Dプリントした人工サンゴ礁の効果を検証中だ。この実証実験で得られたデータは、アルゴリズムへフィードバックされ、環境に適した構造に調整する機能を更に強化することになる。
テクニオンのOfer Bermanは、3Dプリントの可能性について、以下のようにコメントした。
「3Dプリント技術を利用することで、アルゴリズムによる課題解決が大変容易になり、できることも増えた。また、3Dプリント技術は、海洋生物資源の再生と持続可能な生産活動を結びつける重要な役目を果たすことになるだろう。」
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